離婚は,子どもの成長にどのような影響をもたらしているのでしょうか。当センターでは,昨年度,標記の研究に独立行政法人福祉医療機構の研究助成を受け,
この課題に真正面から取り組み,離婚した親と,親の離婚を経験した子どもたちの声を聴くことができました。
研究の趣旨を理解し調査に協力していただいた多くの方々に深く感謝申し上げます。
子どもは,成長過程で遭遇した親の離婚を,その時,その後どのように受けとめているのか。
親は,離婚の子どもへの影響についてどのような配慮をしているのか。そして,社会は,親が離婚した子どもたちのために,どのような取組みが必要なのか。
これらの問題について,報告書として取りまとめ,離婚を新たな視点で見直す契機となるよう期待し,子どもや家族の福祉に関わる機関,団体などに配布しました。
一般の方々のために,やむを得ず離婚を考慮せざるをえないとき,子のために配慮する参考となるよう願って,ここには,報告書を要約して紹介します。
調査研究の方法
調査対象者は,離婚を経験した親と親の離婚を経験した子どもで,@当センターのホームぺージに掲載した研究紹介と調査対象者としての協力要請,A朝日新聞及び日本経済新聞での研究紹介,
B親権者の指定に関する民事鑑定を行った鑑定人の紹介,などを通じて,この研究の趣旨を知り,調査への協力を申し出た方々です。

調査方法は,56人が面接調査,19人がアンケートへの回答,122人がホームページへの書き込みによる調査です。回答したのは,親が101人,子どもが96人。親の年齢は30〜40代がほとんどです。
子どもの年齢は,10〜30代がほとんどですが,70代,80代の人もいて,幼いころ親が離婚したときの悲しみとその後の人生を語ってくれました。
第1 離婚に際しての子どもへの配慮
1 離婚の説明
離婚について親が子どもに説明をしているのは,101人中71人(70%)で,説明をしなかった親は28人(28%)です。
(1) 説明をしなかった理由
年齢が低い場合は,「子どもが小さいので話してもよく分からないと思って」が多く,ほとんどが,子どもが理解できるようになるのを待って説明したり,子どもの質問に答える形で説明しています。
年齢が高い場合は,「親権で争ったので子どもは承知していた」,「離婚理由を説明するのが難しく,できなかった」などが挙げられています。
その他「話してどの程度理解できるか,説明した方がよいのかどうか分からない」,「かわいそうでとても話せなかった」,「母親として感情的に安定できず話せなかった」などの迷いや悩みが語られ,
説明することが簡単なことではないことが察せられます。
(2) 説明をした理由
子どもの年齢が1〜4歳までは,説明を受けた子,受けない子が同数ですが,6〜10歳では79%が受けており,11〜15歳では86%が受けています。
小学校入学頃からはほとんどの子が説明を受けていることになりますが,これは,転居・転校を伴うことが多いという実情からもきているのでしょう。
親が子どもに説明する場合,「子どもに憶測で不安を感じさせないように,事実に基づいた説明をする必要があると思った」,「子どもも巻き込まれるので,聞く権利があると思った。
ちゃんと話すと分かると思った」など,親として,何とか子どもの心の傷を小さくしたいと考え,子どもの精神的安定に心を配り,年齢が小さくても子どもの権利に配慮をし,
苦心しながら説明していることがうかがえます。
(3) 説明の内容 ( )内は離婚時の子の年齢
- 「ママとパパは喧嘩したんだけど,お互いに『ごめんね』ができなくなっちゃった」(3歳)
- 「お父さんとお母さんは仲直りできないので,別々に暮らすことになった。でも,君のお父さんお母さんであることはずっと変わらないし,お父さんもお母さんも君のことが大好きだよ」(7歳)
- 「事実を淡々と話し,父親の全てが悪いのではなく,暴力を止められないことが一緒に暮らせない理由だと話した」(8歳,11歳)
(4) 説明に対する子どもの反応
- 「何も言わなかった。母への遠慮か,言ってはいけないと思ったのか,態度にも言葉にも出さなかった」(8歳・女,11歳・男)
- 「大粒の涙を流して『嫌だ』と言って泣いた」(8歳・女,9歳・女)
- 「パパもママも好きだからどちらも選べない,一緒に暮らせないの,と泣いた」(6歳・男)
- 「知らなかった,聞きたくなかったと言い,心因性の視聴覚障害が発症,遺尿, 夜尿などの退行現象が生じた」(8歳・女)
- 「自我が芽生えてから『大人の勝手で離婚して,そのしわ寄せを子どもに向けるな』,『離婚して家計が苦しいなんて理解したくない,普通の生活をさせてほしい』と言った」 (離婚時3歳,現在11歳・女)
子どもたちの反応は,表面上淡々としていた子,泣いて表現した子,心身に反応が出た子,状況を受け入れた子,受け入れられない子と様々です。泣いた子の年齢も3歳から19歳にわたっています。
泣いた場合も,悲しくて泣いたり,抗議的な意味で泣いたりと複雑な気持ちの反映と思われますが,涙の裏に秘められた思いを察すると胸が痛む思いです。
2 子どもの声から
(1) 親からの説明の有無と内容
親の離婚を経験した子どもの回答者96人のうち,「親から説明があった」が70人(73%)
(ちなみに親の回答では,子どもに話した,が70%),「親以外(祖父母・親戚など)から」が7人(7%),「説明を受けなかった」は17人(18%)となっています。
説明の内容は,「お父さんとお母さんは一緒に暮らせなくなった」,「ずっと別居していたけれど,正式に離婚することにした」というような離婚の事実を淡々と伝える説明が27例,
「お父さんが借金を繰り返した」,「お父さんに好きな人ができた」といった離婚原因(異性関係,借金,アルコール依存など)に踏み込んだ説明が22例ありました。
その他,「お父さんとお母さんは離婚するけれど,子どもたちの親ということは変わらないからね」,「お父さんは出て行くけれど,ずっとお前たちのお父さんだから」といった例などです。
(2) 離婚の説明についての子どもの意見
離婚の説明についての意見は27例あり,その内容は「親は離婚の説明をきちんと子どもにすべきである」ということに集約できます。
説明を受けなかった人だけではなく,説明を受けた人であっても,十分に説明がなされていないと感じる人は少なくないようです。
- 「離婚の理由はどうでもよい。親が子に対してどう責任をとってくれるのか伝えてほしい」(離婚時6歳,現在48歳)
- 「家族だから分かるはず,という思いこみは捨てて,親がどんなことを考えていてどうしたいのか,子どもが何を考えているのか話し合ってほしい」(離婚時11歳,現在23歳)
- 「子どもの生活に影響を及ぼさないように離婚する時期を考え,その事情を分かりやすく説明してほしい」(離婚時15歳,現在17歳)
- 「どうして離婚したいかをきちんと説明してほしい。離婚後の住む場所や環境がどのように変わるのかを説明して安心させてほしい」 (離婚時19歳,現在21歳)
親が十分説明してくれたと感じている人からは,次のような意見が出ています。
- 「4歳の子にも離婚の理由を説明してくれた。子どもだからという理由で説明がなかったことはない。悩まずにすんでいる」(離婚時4歳,現在21歳)
子どもの立場からすれば,親は離婚するに当たって,子どもが理解できるような説明を求められており,「子どもが小さいから説明をしなくてもよい」という考えは受け入れられないのです。
(3) 離婚について子どもの意見を聞かれて
96人の子どものうち,30人(31%)が離婚についての意見を聞かれていますが,注目されるのは,聞かれたか聞かれないかを問わず,そのときの自分の考えを伝えていないと思われる人が62人(65%)もいることです。
離婚について意見を聞かれても,子どもにとっては答えにくいものであると思われます。「離婚の了解を子どもに求められても困る」という子どもも多いのではないかと考えられます。

親の離婚に積極的に賛成した子どもは12人(13%)ですが,いずれも父母の著しい不和,アルコール依存,暴力,借金などに子ども自身も悩んでいたことが回答からうかがわれます。
- 「『なぜ両親が一緒に暮らせないのか分からないし,私の知らないところで勝手に(私自身の転校を含めて)離婚することを決めたのは納得できない』ということを言おうとしたけど,
言葉にしようとすると涙が出てきてうまく言えなかった」(離婚時8歳,現在30歳)
- 「何も言えなかった。自分の気持ちが分からなかった。学校で平常心でいることだけで精一杯だった」(離婚時18歳,現在24歳)
- 「親を見ていて,意見や反論が言える状況ではなかったので,従うしかないと思った」 (離婚時12歳,現在35歳)
(4) どちらの親と暮らしたいかと聞かれて
どちらの親と暮らしたいかと聞かれた人は40人(42%),聞かれなかった人は51人(53%)です。
しかし,どちらの親と暮らしたいと意見を述べられたのは31人(32%),意見はあったが言えなかった人が29人(30%)で,意見そのものについて無回答だった人が36人(38%)もいます。
どちらかの親を選ぶというのは,子どもにとっては難問であり,答えにくいものであることの表れでしょう。
- 「どちらの親と暮らしたいかという質問はとてもデリケートな問題で,そういう問いを突きつけること自体が,子どもを傷つけることになる」(離婚時8歳,現在30歳)
- 「いやだったことは,自分に選択権が与えられ,両親のどちらと住むかを選ばされたこと。当時の自分には負えないような責任を負わされた」(離婚時16歳,現在23歳)
第2 離婚後の子どもに対する精神的・経済的支え
離婚後の生活において,毎日の生活をともにする親(監護親)による子どもへの様々な配慮が子どもの成長にとって重要ですが,
生活をともにしない親(別居親)からの精神的・経済的支えも子どもの成長には大切なことです。
そこで,親と子それぞれから,精神的支えとして面会交流について,経済的支えとして養育費についての実情と,考えや思いなどを聞いてみました。
1 面会交流について
(1) 親の回答
回答者101人中面会交流がある(又はあった)のは75人(74%)で,23人が「なし」と回答していますが,内訳は次のとおりです。

父が監護親となった15人(回答者は父6人,母9人)中,面会交流「あり」は13人(87%)と高い比率ですが,13人のうち5人(38%)は,面会交流を肯定的には評価できずに,以下の理由で終わっています。
- 「母が月2,3度来ていたが,一時期で終わった。子どもにしてみれば,母はいなくなってしまったことになった」(父)
- 「母による子どもたちへの暴力は離婚後はなくなり,母から捨てられたのではないと子どもが実感できたと思っていたが,突然母が来なくなった」(父)
- 「母からの働き掛けがなくなり,子どもが不信感を抱いている」(父)
- 「父が再婚して転居してしまい,連絡がとれなくなった」(母)
- 「一時あったが,中学卒業するまでは会ってほしくないと言われた」(母)
ということです。面会交流を,子どもの利益よりも親の利己的な考えや感情を優先させていないかは,親として欠かせない内省です。
一方,母が監護親となった80人(回答者は父14人,母66人)中,面会交流「あり」は59人(74%)で,監護親父(母との面会交流)より13%低いのですが,
逆に,面会交流を肯定していないのは59人(父11人,母48人)のうち僅か母8人(14%)だけです。面会交流を肯定していない理由としては,父親に,子どもに対する配慮が乏しく,
子どものためにならないということに集約されます。
面会交流がない23人(回答者は父5人母18人)の,父が述べている理由は,「母からの求めがない」2人,「子が母を拒否」1人,「母の異性問題」1人,「父の再婚」1人,母が述べている理由は,
8人は離婚原因が夫の暴力,DVによることです。人格を否定される暴力は,心に重い傷を残し,面会交流のために親としての信頼関係を築くことを困難にしてしまいます。
(2) 子の回答
回答者96人中面会交流がある(又はあった)のは56人(58%)で,36人(38%)が「なし」と回答していますが,監護親別の内訳は次のとおりです。

ア 父が監護親となり,母との面会交流がある(あった)8人のうち7人が「やってよかった」と評価しています。母の異性問題で10歳のとき両親が離婚し,父が監護親となった女性(29歳)は,
「母との別れは苦痛だった」が,「母と会うことができ,母を理解することができたのでよかった。父の理解に感謝している」と受けとめています。離婚時に子どもの年齢が低い場合,
父と生活する子どもが母との面会交流を「やってよかった」と受けとめられ,父も母も同様の認識を持つことができるようになることを願いたいのですが,
それには,面会交流の意義・目的と方法についての親としての理解は不可欠です。
面会交流がなかった8人に共通しているのは,別れて暮らすことになる母から離婚についての説明がなく,
考えを聞かれていないことです。
面会交流について,「子どもの立場を考えてほしかった」(離婚時6歳,現在73歳),「子どもの意見を重視すべきだ」(離婚時10歳,現在35歳),「親から捨てられた」(離婚時15歳,現在41歳)と思っています。
イ 母が監護親となり,父との面会交流がある(あった)41人(59%)のうち,31人(75%)が「やってよかった」(22人),「どちらかといえばやってよかった」(9人)と回答しています。
「やってよかった」と思うことができた理由は,「離婚してすっきりしている親の顔を見ると,これでよかったのかなと思えるようになった」,「話すことによって父のいい面も見えてきた」,
「子どものときには分からなかった親の気持ちが今は理解できる」,「自分を愛してくれているのが肌で感じられた」,「私の心の土台ができた。父から謝罪の言葉があった」,「精神的な支えになった」,
「友人と父の話をしても全く自由に話せる」などです。
「やらない方がよかった」と思っているのは6人ですが,面会交流する父について,
- 「私のことを嫌いだと言われてから,会うのが怖くなった」(離婚時10歳,現在15歳)
- 「父は私の話に関心がなく,愚痴をこぼすための連絡は迷惑」(離婚時11歳,現在23歳)
- 「父は自分の夢を追求していく人で,父親になってはいけない人だった」(離婚時14歳,現在25歳)
- 「父の自己満足だった。私のためだったことは一つもない」(離婚時14歳,現在25歳)
- 「酔って電話をかけてくる」(離婚時14歳,現在32歳)
一緒に暮らす母について,
- 「なんとなく母に隠してという形になるし父との連絡を聞かれるたびにイライラした」(離婚時17歳,現在20歳)
とのことです。親の離婚により子どもの心に与える傷を癒していくための面会交流が,「やらない方がよかった」という結果になってしまうことは,その傷を重くしてしまうことを親は心すべきです。
ウ 面会交流がなかった27人のうち6人は,子どもの「会いたい」という気持ちを汲み取って,会うことができるよう働き掛けてほしかったという思いを持っています。9人は,面会交流について否定的な答えです。
「会ってしまうと,親子なので断ち切れなくから」という理由もありますが,多くは,「期待しても裏切られる」,「嫌いだから」など,親に対する不信感であり,
別れるまでの親としての在り方が問われていると言えそうです。
2 養育費について
(1) 親の回答
監護親が父15人の実情は,母から支払いがある(あった)のは2人だけです。その1人(母)は,父と父の実家で暮らしている子どもたち(離婚時9歳,8歳)と,調停を経て面会交流ができるようになり,
「子どもたちは4年振りに会ったのに,とても明るく素直で,笑顔が絶えなかった。会えることが大切だと感じた」と述べています。養育費の取決めをして支払っています。母も経済的に可能であれば,
養育費についてもお互いに協力しあって子どもを支えていくことは,子どものために心理的に良い協力関係を整えていく要因となるでしょう。
監護親が母80人の実情は,離婚時に養育費の取決めをしたのは60人(75%)で,支払いがある(あった)のは49人(61%)です。49人(父回答10人,母回答39人)のうち,
面会交流がある(あった)のは43人で,高い比率(88%)になっています。父からの養育費支払いを母が子どもに話しているか否かについては,回答者母39人中22人(56%)が話しています。
離婚により「新たな親子関係」が始まりますが,子どもの理解力相応の表現で話をしておくことは,新たな関係を子どもが受け入れていくための心の支えとして大切な配慮と考えられます。
(2) 子の回答
子の回答からは,養育費支払いの実情について正確に把握することはできませんが,監護親が母70人のうち,養育費について母から聞いていると答えているのは43人(61%)で高い比率です。
実際に支払いがある(あった)ことが分かっていた人は13人だけですが,うち12人は面会交流を「やってよかった」(積極的評価)と受けとめています。
面会交流がなかった1人は,親が離婚したのは47年前で,離婚後の面会交流は一般的には考えられなかった時代でした。子どもに別居親からの養育費の支払いがあることを話すことで,
子どもは両親が自分のために協力しあっていることを実感することができ,その認識は,親の離婚により受けた心理的外傷を癒していく強い働きとなることでしょう。
第3 離婚に対する評価
1 離婚が子どもにもたらす影響
(1) 親の声から
親は,自分たちの離婚を子どもたちがどのように受けとめ,どのような体験をしていると認識しているのでしょうか(重複回答)。
ア プラスになったこと・よかったこと
子どもについては,精神的に安定し(31),不安な表情が消え(13),自立心が芽生え強くなり(13),無理していた感じが取れ(8),チャレンジ精神が持てるようになり(3),
自尊心が出てきた(2),他者との関係では優しくなった(5)と見ています。
家族関係については,母子関係が落着き(20),同胞が仲良くなり(4),父の暴力の心配がなくなった(3),母が子どもに当たらなくなった(2)と見ています。
離婚するまで,子どもたちは父母の険悪な関係に巻き込まれ,無理をしていたのが,離婚により解放され,母子,父子関係が安定した結果でしょう。
しかし,一方ではプラス面について「なし」(12),「分からない」(6),「無回答」(18)があることにも留意する必要があります。
イ マイナスと思うこと・つらかったこと
子どもについては,自分が発揮できない・自尊心が低い(1),自殺した(1),友人・対人関係については,人間不信になる(4),大人に依存的になる(2),
人付き合いが下手になる(1)を挙げています。
家族関係については,両親が傍にいられない(15),経済的に苦しい(5),育児が放任傾向になる(5),親戚付き合いがなくなる(2)などを,社会関係については,世間の目が冷たい(5),
改姓が嫌だった(1)などを挙げています。
マイナス面について,「なし」(10),「分からない」(8),「無回答」(22)で,無記入が多いことは,子どもへのマイナス面を見たくない,気が付かないということでしょうか。
両親の険悪な関係に巻き込まれなくなったものの,一人親となり,親は仕事などが多忙となって,子どもに十分関われず,やや放任傾向になるとき,親の方も,
両親が傍にいてやれないという罪悪感を持ってしまいがちです。別居した親の親戚との付き合いがなくなるなど,付き合いの範囲が狭くなっていく様子もうかがえます。
(2) 子どもの声から
子どもたちは,親が離婚したことにより,その後の生活でどのようなプラスあるいはマイナスがあったと受けとめているのでしょうか。
ア プラスになったこと・よかったこと
多くの子どもたちは,離婚後は「家庭が明るくなった」,「母が殴られたりするのを見なくてすみ,安心して家に帰ることができるようになった」というように,
家庭が安全で安心な場所になったことを挙げています。また,自分自身については「頑張った」,「強くなった」と述べ,「『離婚家庭の子ども』と後ろ指を指されないように」,
「母親に心配かけないように」と,逆境を乗り越えようと努めている姿が浮かんできます。他者との関係では「人の痛みや優しさを感じ取り,分かるようになった」,
「人生の意義を考えるようになった」など,人としての生き方や生き様,在り様について考えるようになったと述べ,人として成長する体験として受けとめていると言えます。
イ マイナスと思うこと・つらかったこと
親の離婚によるマイナスとして,不安・孤独・寂しさに苦しみ,苦しむ自分を責めて自己嫌悪に悩み,被害感に悩んでいることなどが多く述べられています。
- 「自分の人生を狂わされたし,体も不自由になった」(離婚時6歳,現在25歳)
- 「嫌だったことは,新しい先生が担任になるたびに,まずは母子家庭だという目で見られたこと。母子家庭であることを明かすと,人間関係に問題が生ずると思い,普通の家庭のようによそおった」(離婚時6歳,現在28歳)
- 「親に心配かけないように,しっかりとしていい子を演じてきました。本当の弱い自分を異性に素直に見せることもできず,永遠に続くものはないと,一生結婚もせず,子どもも産まない人生を考えてきました。
別れてしまうのが怖かった。いずれは別れが来るものと決めつけていたので」(離婚時7歳,現在32歳)
- 「社会の偏見はいまだにあると思います。自分の努力ではどうにもならないことで,あれこれ言われることは本当につらい。正直に両親の離婚を話せず嘘をついてしまい,
それが積み重なってくると嘘をついた罪悪感が増してとても苦痛だった」(離婚時8歳,現在30歳)
- 「羽が片方折れているような気持ちを抱えている。夫婦が傷つけ合い,子どもに悪影響を与えるなら別れて暮らした方がいい場合もあるかもしれませんが,
子どもにとって親の離婚はそれ以上に心に深く傷つくことだと思います」(離婚時24歳,現在34歳)
マイナスでしかないと決めつけずに,「同じように親の離婚で苦しんでいる子どもたちの力になりたいという気持ちが芽生え,より一層教職に就きたいと思うようになった」,
「精神的に成長した」などのメッセージも併せての回答が多く見られます。
2 子どもは親の離婚をどのように受けとめているか
(1) 親の離婚についてどう考えているか
離婚についての考え方が,離婚時と現在ではどのように変化しているかを比較すると,表5のとおり,離婚当時は「離婚してほしくなかった」,「分からない」が合わせて49%であったのが,
現在では27%に減少し,現在の心境として「離婚は仕方なかった」,「離婚してよかった」と,離婚を受け入れ,肯定している子どもは66%に達しています。

この変化は,離婚当時のショック,これからどうなるのかという不安な状態から,年月を経て家庭状況の変化や新しい環境にも適応し,善し悪しは別として,現実を受け入れていこうとする気持ちの整理によるものでしょう。
(2) 離婚した父親・母親に求めていること
96人の子どものうち,離婚時の監護親は父親17人(18%),母親70人(73%),父母以外2人(2%),独立・成人7人(7%)で,大部分の子どもが母親と暮らしていたことを念頭に置いて,
親に何を求め,何をしてほしかったのかを見てみましょう。
ア 父親に求めていること
- 養育費,学費など金銭的援助 19人(20%)
- 面会交流など離婚後の関わり 15人(16%)
- 愛してほしかった 11人(11%)
- 離婚についての説明 6人(6%)
- 父親の生き方,在り様 6人(6%)
弱音を吐かないで・借金をしないで・尊敬できる親でいて・寂しさに負けないでなど
- 母親の悪口を言わないで 5人(5%)
- その他 34人(35%)
イ 母親に求めていること
- 今のままで十分 15人(17%)
- 母親の生き方,在り様 13人(14%)
しっかりして・投げやりなことを言わないで・子どもに罪悪感を持たないでなど
- 愛情,優しくして 10人(10%)
優しくして・甘えたかった・ストレスを子どもにぶつけないで・父親に似ていると責めないでなど
- 離婚についての説明 6人(6%)
- 父親の悪口を言わないで 5人(5%)
- 父親との面会交流 4人(4%)
- 再婚しないでほしかった 4人(4%)
- その他 48人(50%)
(3) 子どもは親の離婚をどのように乗り越えてきたか
子どもたちは,先に見た離婚のマイナス面をどのように乗り越えてきたのでしょうか。
- 自分で解決してきた 35人(36%)
自分に言い聞かせた・胸の中に納めるようにした・日記を書いた・思いっきり泣いたなど
- 同じ環境の友達と話した 15人(16%)
- 心に封印して考えないようにした 12人(13%)
- 祖父母,兄弟,恋人等と話した 10人(10%)
- 部活,趣味などに打ち込んだ 7人(7%)
- カウンセラー,精神科医の治療 5人(5%)
- その他 15人(16%)
第4 子どもの声が訴えているもの
1 苦痛を強いられる立場にありながら,自分の気持ちを理解してもらっていない
子どもの声からは,「離婚前には父母間の激しい闘争又は冷えきった雰囲気の中で,子どもは息を殺して推移を見守り,離婚になったら自分はどこで,
誰と暮らすことになるのだろうかと,不安と緊張に包まれる。
離婚後は,別れて暮らす親の喪失感と悲哀感,激変する生活環境への不安感,世間の偏見と哀れみのまなざしを意識して,友達にも本当のことが言えない寂しさ・孤独感に悩む」姿が浮かび上がります。
幼少期に親の離婚を経験し,今は高齢者になっている人の語るその後の苦渋の人生に胸を打たれました。さらに,「今度の調査で初めて自分の胸のうちを聴いていただき,ありがとうございました」
と感謝されたときは,その苦渋の重さに言葉を失いました。
子どもたちが親に求めているのは,離婚する際には子どもに,なぜ離婚するのか,離婚したら生活環境がどう変わるのかなどを分かるように説明し,子どもの気持ちを十分聴いて,
配慮してほしいということです。さらに,友達などに話せない胸のうちを,気軽に聴いてくれるNPOなどの支援態勢を,早急に立ち上げてほしいと切実に訴えていることも分かりました。
2 子どもはどちらの親からも愛されたい
離婚原因が暴力,アルコール依存,借金などである場合は,子どもも離婚してよかった,離婚は仕方がなかったと受け入れる場合が多いのですが,基本的には両親の離婚を望んではいません。
別れて暮らす親への思いをあからさまに示すことはなくても,心の底ではどちらの親からも愛されたいと願っています。別れて暮らす親に対し,愛してほしい,優しくしてほしい,
誕生日,成人式,結婚式などにはおめでとうの電話か手紙がほしいと思っており,親同士が相手の悪口を言わないでほしいと願っています。面会交流と経済的支えである養育費等の支払いは,
親と子をつなぐ絆であることを忘れないでほしいものです。
3 親が離婚しようとしている子どもへのアドバイス
子どもは,離婚直後に味わされる不安,孤独,寂しさ,自己嫌悪などに悩みながらも,自分をみつめ,頑張り,しだいに自分で解決していく力をつけ,社会経験を積むうちに,
やがて離婚は仕方がなかったのだと自分に言い聞かせながら,逆境を乗り越えていこうとするしなやかさも持っています。
この調査に子どもの立場で協力した人たちに,これから親が離婚しようとしている子どもへのアドバイスをしてもらいました。
〔自分自身について〕
自分を卑下しない。一つの経験,ステップ,バネとして成長してほしい。自分の気持ちを大切にし,しっかり考え,強くなってほしい。
自分の力を信じて,プラス志向で頑張って。
〔離婚について〕
親の離婚は恥ずかしいことではない。離婚は親の問題であって子どもは悪くない。別れた方がいいこともある。いろいろな家庭,いろな人生があることを考えてほしい。
〔親について〕
離婚しても父親・母親であることは変わらない。親を恨む気持ちが出てくるだろうが,親を信じて乗り切ってほしい。親には親の人生があることを分かって。
たとえ受け入れられなくても,粘り強く自分の意見や不満は親に伝えた方がいい。
〔悩みの解決について〕
時間が解決してくれる。苦しい思いをした分だけ自分で生きる力がつく。相談できる人を作っておくように。たくさんの本を読んで。きっとよい日がくることを信じて。
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