東京ファミリー相談室では,16年前から面会交流援助の仕事を始め,面会交流に関するセミナーも開催して来ましたが,現在では, 全国8か所のファミリー相談室で面会交流援助の仕事をするようになりました。

「ふぁみりお」でも,別れて暮らす親と子の面会交流についての記事を掲載し,その重要性の普及啓発に努めて来ました。 親と子の面会交流の制度化に向けての動きが活発になっているこの時期に,「ふぁみりお」に掲載したいくつかの記事の一部を再録して, 面会交流の援助を行っている現場での子どもたちの姿を知っていただくのも意味があると考え,紹介するものです。


第1 第35号「離婚した親と子どもの声を聴くー「養育環境の変化と子どもの成長に関する調査研究」の報告書より」

「第3 子どもの声が訴えているもの
2 子どもはどちらの親からも愛されたい

離婚原因が暴力,アルコール依存,借金等である場合は,子どもも離婚してよかった,離婚は仕方がなったと受け入れる場合が多いのですが, 基本的には両親の離婚を望んではいません。別れて暮らす親への思いをあからさまに示すことはなくても, 心の底ではどちらの親からも愛されたいと願っています。別れて暮らす親に対し,愛してほしい,優しくしてほしい,誕生日,成人式, 結婚式などにはおめでとうの電話か手紙がほしいと求め,親同士が相手の悪口を言わないでほしいと願っています。 ここでは紹介しませんでしたが,子どもにとっての心の支えである面会交流と経済的支えである養育費等の支払いは, 親と子をつなぐ絆であることを忘れないでほしいものです。」

第2 第37号 「お父さんへの応援歌―面会交流の経験者に学ぶ「お父さんの集い」から」

「3 FPICからお父さんへのお願い (1) 子どもを板ばさみにしないで

面会交流の現場で,担当者が一番心を痛めていることは,子どもが父母の間で板ばさみになっていることです。面会交流とは, 親が子どもを気づかうもので,子どもが親を気づかうものではありません。

たとえば,持ち帰れば捨てられるかもしれないプレゼントを,受け取らなければお父さんに悪い,そんな子どもの気持ちを, ぜひ考えてみてください。子どもがお父さんに会いたいのは,物や金ではなく,かわいがってほしい,いっしょに遊んでほしいからなのです。」

第3 第38号 「お母さんへの応援歌―セミナー「上手な面会交流の進め方」から」

「(3) 何のために親は子に会うの? @ 子に詫びるため

司法福祉的見地から,面会交流の目的には,子の福祉,親の権利,親子の自然感情などが挙げられますが,援助の心理臨床的見地からは, もう一つ,もっと人間くさい目的を加える必要を感じています。それは,親が子に心から詫びることです。 離婚の過程で子どもに不安で悲しい思いをさせてしまったこと,夫婦としていっしょに子育ての責任をまっとうできなかったことを, 子どもに心から詫びることです。一生懸命遊んでやる,言葉にして詫びる,怒りを受け止めるなど,表し方はさまざまですが, 詫びの気持ちを子どもの心に届けることです。A子さんの場合は,子どもの怒りを受け止め続けることが詫びであったと言えるでしょう。

ある4歳児は,父を詰問しました。「どうしてお母さんをたたいたの!」と。「喧嘩してたたいちゃったんだ。悪いお父さんでごめんな。 ごめんな」と父が答えました。援助者が,「お父さん一生懸命謝っているから許してあげようか」と声をかけると, 「うん,いいよ。もうお母さんをたたいちゃだめだよ」という返事が返ってきました。 白々しかった子どもの態度が軟化し,自分のできなかったゲームを父にしてもらって,「お父さんて天才!」と,フォローさえしていました。 帰宅後,「お父さんのこと,ぼくが怒ってあげたよ。お父さん謝ってくれたから,もう大丈夫だよ。 お母さんのこともうたたかないよ」と,母に報告したとのことです。

小学校6年の男児は,父に怒りを伝えるためだけに会うと言って来てくれました。 父とは,これきり子どもに会えないとしたら何をすべきかを事前に話し合い,心からの詫びを言うことになっていました。 「黙って家を出てしまい,長いこと辛くて悲しい思いをさせてしまってほんとうにごめんなさい。これからは, お母さんと約束したお金は必ず送るからね」と,父は子どもの前でひざまずき,深々と頭を下げて詫びの言葉を述べました。 子どもは一瞬困惑した顔になりましたが,きちんと父の方へ向き直り,じっと父の言葉に耳を傾けていました。 10分のはずが,少しずつ会話が成り立ち始め,ディズニーランドのような所なら,夏休みに行ってみたいと子どもの方から言い出しました。

子どもといえども事態は分かっているものです。一人前の人間として親から謝られたとき,心を動かされずにはいられないのです。このまま父と会わないとしても,最後に詫びてくれた父の姿を,子どもは記憶にとどめておくことができるのです。父が子どもに詫びることを,母は拒否してよいものでしょうか。

A 子が自分の目で親の実像を確かめるため

親の実像が,子どもの心の後ろ盾になっていることは,子どものセルフアイデンティティ(自分が何者であるか)の確立にとって, 不可欠と言えるほど重要です。自我の確立期と言われる思春期危機を乗り越える時期に,その重要性が証明されます。 しかし,心理的に親から離れようとする思春期になって,面会交流を開始するのは至難の業です。

それでは,いつから会えばよいのでしょう。人間関係能力の基盤である基本的信頼感の形成のためには,乳幼児期から会い続けること, 縁を切らないことが重要です。いったん会えなくなった場合にも,記憶をつかさどる脳の海馬の発達を考えると, 生涯記憶が定着する3,4歳までには開始したほうがよいでしょう。保育園や幼稚園の子ども集団で, 父母のことが話題の中心になる時期にも重なります。面会交流していれば,子どもは引け目を感じないで,積極的に話題に参加できるのです。 この時期の体験は,後に続く小・中・高校での友人関係のあり方に引き継がれていきます。B君は, なんとかこの時期から母に会えるようになっています。

面会交流で一番大切なのは,父母の間に立つ子どもの気持ちを尊重することです。 よく,子どもが会いたがらないというお母さんからの話しを聞きますが,援助の経験からは,心底お父さん, お母さんに会いたくない子どもはいないと言っても過言ではありません。 お母さんの真意が試されているのです。B君も,無理に連れて来られたお陰でお父さんのゴーサインが分かり, お母さんへの気持ちを出せるように変わって来ました。

 FPICでは,子どもの将来を見据えながら,お母さんといっしょに,ゆっくり援助の歩みを進めていきます。 初めの失敗だけで結論を急がないでください。」

第4 第39号 「子どもたちへの応援歌―子どもの立場から面会交流を考える」

「3 面会交流援助の実際場面での子どもたち

当センターは,常時60組ほどの親子の面会交流の援助を行っていますが,父親と3〜5歳の子どもの面会交流が大部分です。 交流の場所は,おもちゃが一杯置かれている当センターの面接室が半分ぐらいで,子どもの城,子ども科学館,水族館,公園等も利用されています。

例えば,父親と4,5歳の男の子との面会交流援助の場面を紹介しますと,最初は子どもが遊んでいるところに, 援助者がさりげなく父親をいざなっていく形をとっています。そのとき,子どもの目線で子どもの遊びに直ぐ参加できて, おもちゃのやり取りで心のやり取りができる父親がいるかと思うと,どう接してよいか分からず黙っているため, 子どもに不安を感じさせる父親や,あるいは同居している母親の育て方のアラ探しをしているかのように監視している父親もいます。 せっかくの交流の機会に,自分にも父親がいる,父親に愛されているという実感を子どもが持てないのは悲しいことです。 そのような場面では,援助者は子どもにボールを持たせ,「会えてうれしいというボクの気持ちをパパに届けようネ」と父親に渡させ, 父親にも「パパもうれしいよ」と返させるなどの介入を行います。子どもを独りでトイレに行かせようとする父親に, こんなときは一緒に行って連れションするのがお父さんじゃないですか」と助言したことがありますが, 手をつないで帰ってきたときの二人の満面の笑みが,その後の交流を一変させたことは言うまでもありません。

父親のTシャツをまくり上げ,胸や背中をなで回しながら,「パパだ,ボクのパパだ!」と叫んだ子どもがいます。 子どもとキャッチボールをした後で,「こちらが強く投げると,あいつも強く投げ返し,優しく投げるとあいつも優しく投げ返し, 心が通い合っていると実感しました」という父親がいました。また,父親に「お母さんの名前に変わったんだって?」と問いかけられて, 「でも,ぼくはお父さんとお母さんの子だから,本当は中村山川太郎だとお母さんが言ったよ」と答えた子どもがいました。 「いいお母さんだな」と父親がフォローしましたが,別れても相手を立てる両親を持った子どもは幸せです。

4 面会交流を真に子どものものにするために

面会交流は,離婚の怨念や係争中の事件の駆け引きの道具にされてはなりません。 親の離婚を経験している子どもは,父親にも母親にも愛されたいと願っています。 そのために,自分が微妙な立場にいることを自覚しており,例えば,別居している親がプレゼントしようとしても,子どもは,同居している親, きょうだい,祖父母がどう思うかを考え,要らないと言うかも知れません。面会交流の場は,物で子どもの歓心を買うところではなく, 子どもに父親の愛,母親の愛を感じ取ってもらう場です。面会交流を終えた子どもが,「楽しかった!」と素直に言えて, それを聞いた同居親が「よかったネ」と言ってやれるような交流であることを願っています。」


【「ふぁみりお」52号の記事・その他】

機関誌「ふぁみりお」は、財団法人日本宝くじ協会の助成を受けて作成されています。

平成家族考52 子どもをめぐる法制の動きについて考える―― 子の最善の利益を優先する法制の実現を願って― 

海外トピックス52 「海外の男女共同参画社会の実情―スウェーデン・スペイン・アメリカ」
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