1 スウェーデン
@ 政治分野への女性の参画、政党によるクオータ(割当)制
スウェーデンでは、女性国会議員比率が非常に高く、
46.4%です。これは、法律による強制的な差別是正措置ではなく、政党による自発的な取組によるものです。1972年、自由党は党執行部において男女ともに40%以上とする割当制を導入し、1990年には、左党が選挙される組織の代表及び任命職の50%以上を女性とする割当制を党規定に定め、1993年には社会民主党が党内役員における割当制を導入しました。1990年代には、社会民主党、左党、環境党等が国政選挙の選挙名簿についての割当制を導入しています。1985年には、初めて女性党首が誕生し、1994年には史上初めて男女同数の内閣を形成しました。
また、スウェーデン議会では、議員の代理人制度が導入されています。議員が育児休暇を取得する際には、代理人がその議員の代理として活動でき、仕事と家庭の両立を支援する仕組みとなっています。
A 雇用分野への女性の参画 両立支援の充実
1970年代に女性の職場進出が進み、1980年代には、出産・育児期の女性の就業率が落ち込むM字カーブを解消して、逆U字カーブを形成するに至りました。突出して高い女性就労率の背景には、充実した出産・育児休暇制度や休暇中の所得保障、公的保育園の保育サービスなどがあります。
育児休業法により、子どもが8歳又は義務教育第1学年終了まで、両親あわせて480日の休暇を取得できます。そのうち、60日ずつ120日は配偶者に譲ることができない休日(パパクオータ・ママクオータ)とされています。育児休暇取得者の44%は男性であり、男性の取得率は75%を超えています。出産・育児にかかる給付には妊娠手当、育児休業期間について480日の両親手当、子の看護のために120日間の一時的手当があります。
保育サービスは地方自治体が提供することが一般的で、保育所を利用している1歳から6歳までの児童の86%が、地方自治体の運営する保育施設を利用しています。2001年からは、失業家庭の児童にも最低1日3時間あるいは1週間15時間の保育サービスが提供され、親が育児休業中の児童に対しても同水準の保育サービスの確保を行っています。また、保育サービスの自己負担額には、上限額を設定しています。
2 スペイン
@ 政治分野でのクオータ制
2007年3月、男女共同参画の基本法として実践的男女平等法が制定されました。この法律は、政策・意思決定過程への女性の参画を盛り込んでおり、これを受けて選挙法が改正された結果、すべての選挙において各政党の候補者リストの40%以上60%以下を女性にすることが定められました。
2010年7月末時点で、スペインの国会議員に占める女性割合は、上院30.8%、下院36.6%と、国際的に見ても高い割合になっています。
A 各分野の女性の参画状況 雇用、医療、研究
スペインの女性就業者はその80%が非正規雇用です。女性に非正規雇用を選ぶ理由を尋ねると、育児・介護
を挙げる割合が男性より高く、就業していない女性にその理由を尋ねても、育児・介護等の家庭の事情を挙げる女性の割合が高いことから、「男性は仕事、女性は家庭」という固定的性別役割分担意識の影響があるものと考えられます。
実践的男女雇用平等法は、仕事と家庭生活の両立を可能にするため、従業員250人以上の企業に対し、労働条件の男女不均衡是正のための計画作成を義務づけています。
また、同法が、男性固有の権利としての育児休暇の取得を認めた結果、2009年には80%の男性が育児休暇を取得しています。
B 医療分野
スペインでは、伝統的に「医療・介護は女性の仕事」という意識が社会に根付いていたこともあり、医師に占める女性の割合は43%と高く、10年前から約10ポイント上昇しています。歯科医では40%、薬剤師その他の医療従事者については70%と、同様に高く、しかも近年増加傾向にあります。
しかし、医学部の学生やキャリアの中間段階までの医師に占める女性割合は高いものの、子育て期を迎える30歳代以降では減少していきます。そこで、実践的男女雇用均等法に基づいた計画で、医療分野における男女格差の改善を目標に掲げるとともに、それに向けたさまざまな具体的取組を定めています。
C 研究分野
スペインの大学生に占める女性比率は54%と過半数を超えていますが、専攻分野別に見ると、「保健」が70%であるのに対し、「工学」は30%にとどまっているなど、不均衡が見られます。
専攻分野別の女性教授の割合にも偏りがあり、最も高い「人文」の21%に対し、「工学」では5.4%となっています。
研究分野についても、男女平等参画拡大に向けた目標と、それに向けた具体的な取組が定められています。
3 アメリカ
@ 政治分野への女性の参画
アメリカでは、国家レベルでの政治分野への女性の参画を促進するための選挙制度や法制度はありません。政党によっては、例えば民主党は、党大会に出席する代議員の50%以上を女性にするという規則を採用していますが、選挙の候補者選びに際してこのような取組は実施されていません。
アメリカ合衆国における政治分野への女性の参画促進の取組は、政治活動委員会(PAC)と総称される民間の選挙支援組織のうち、女性候補者の支援を目的とする「女性PAC(Women’s PAC)」が主体となって行っています。こうした女性PACでは、支援する候補者の資金面や選挙キャンペーンの援助を提供しているほか、女性候補者を今後増やしていくために大学生等若い世代を対象として、政治や政策決定活動にかかわる女性プログラムを実施している女性PACもあります。
2010年8月末現在の連邦議会における女性議員の割合は、上院で17.0%、下院で16.8%です。ちなみに、下院議長には女性が就いています。
A 公契約におけるアファーマティブ・アクション
国家レベルで実施しているアファーマティブ・アクションとして、女性や民族的少数者等を対象とした、政府調達等における取組が挙げられます。政府調達の契約者・下請契約者、連邦助成金による建設事業の契約者・下請け契約者に対し、人種、皮膚の色、宗教、性別及び出身国による雇用差別を禁じています。
また、政府調達の契約者・下請け契約者に対し、雇用機会均等を遵守するために、従業員数が50人以上かつ5万ドル以上の政府委託事業を受託している企業を対象にアファーマティブ・アクション・プログラムを作成することを義務づけています。このプログラムには、女性や民族的少数派の雇用促進、トレーニング等が含まれており、他の従業員と同等の環境で働くことができるような配慮を取り入れることが求められています。アファーマティブ・アクションが適切に実施されているかの評価は、労働省の連邦政府契約遵守プログラム室(OFCCP)が実施しています。
4 終わりに
各国の事情はさまざまです。一方、わが国の男女共同参画基本計画は、2020年までに指導的地位に占める女性の割合が30%になるように期待し、各分野の取組を推進すると定めています。女性優遇入試や女性優遇採用を実施している大学、企業、自治体もあります。しかし、日本の国会における女性議員の比率を見ても、平成22年10月時点で参議院18.2%、衆議院10.9%ですから、「即効薬」として是正措置の法制化を求める声もありますが、副作用も懸念されます。これまでのところ、環境の改善が優先されています。
この10年で育児休業取得後に職場に復帰して休業給付金を受け取った人はほぼ倍増、2009年には18万人を超えました。それでも、第1子出産後も仕事を続ける女性の比率(継続女性就業率)はあまり上がらず、2005年には38%だった数値を2020年までに55%に高めると目標を掲げました。2010年度施行の改正育児休業法は、3歳未満の子どもを育てる社員に1日6時間までの短時間労働勤務を認めるように企業に義務づけたので、制度をフル活用すれば約3年間、通常とは異なる働き方が今は選べます。そのほかにも、クオータ制こそありませんが、「パパ・ママ育休プラス」として、母親だけでなく父親も育児休業を取得すると育児休業期間が2か月延びますし、父親が育児休業を産後8週間以内に取った場合の育児休業は別カウントとし、職場復帰後にもう一度育児休業を取れます。さらに専業主婦の夫も育児休業の対象外とすることができなくなりました。
また、折からの経済的閉塞感が、女性の視点を商品開発や経営・人事に活用しようとの動きもあるようです。男性のワークライフバランスの取り方にも変化はでてきているとのこと。「イクメン」の活躍も、大きな環境の変化となっていくのかもしれません。
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