このほど、当センターの会員金子のぶさんが、「いまはむかし・わたしの『かいがいほうそう』(1978〜1980)」という本を自費出版されました。金子さんは、家裁調査官になりたての頃、米国国務省留学生としてハワイ大学大学院に学び、修了後はニューヨーク州でソーシャルワーカーとしてのトレーニングを受けました。その経験により、1976年から4年間、最高裁総務局制度調査室の翻訳官を務めましたが、この間、㈶法曹会の雑誌「法曹」の「かいがいほうそう」の欄で、海外法曹界のトピックスの紹介にも携わりました。今回の著作は、連載された紹介記事の中から70編をまとめたものとなっています。金子さんは、1992年、水戸家裁首席調査官を最後に退職した後、当法人の会員となり、本誌「ふぁみりお」の編集に携わり、2003年まで編集長を務めました。ふぁみりお」とか「平成家族考」の名付け親でもあります。また、本誌の「海外トピックス」欄の執筆には、同じく元翻訳官の経験者であり、「かいがいほうそう」欄の執筆者でもあった遠藤富士子編集部員と共に携わりました。今回は、金子さんの「かいがいほうそう」の中から、米国における子のある寡婦と寡夫の扱いの不平等に関する記事を紹介し、子の監護及び養育費に関する記事を採り上げ、その後どうなったかを本誌「海外トピックス」の記事と併せ読むことによって、その取組みの流れを見てみたいと思います。

なお、著者金子さんは、本書を希望される方には無料で差し上げたいとのことですので、入手希望の方は、当センターに葉書でお申し込みください。


1 寡婦と寡夫の男女平等に関するもの

「男やもめの二つの訴えと米最高裁」 (1977年3月号)
(その1) フロリダ州税法では、すべての寡婦に対して500ドルまでの財産についての税を免じているが、寡夫に対してはこれを認めておらず、これは連邦憲法修正第14条の「法の平等保護」条項に違反するとして、フロリダの男やもめが州最高裁に免税を求める訴えを起こした。州最高裁は、寡婦と寡夫の税法上の区別は、現実的経済能力の不平等を減少させるという同州の目的に添った公正で実質的な措置であり、有効であると判決した。連邦最高裁は、この州最高裁判決を正当と認め、寡婦への優遇措置は、修正第14条に違反しないと判決した。妻の死亡後も以前の職業を持続できる寡夫と、夫の死去によって依然男性優位の職業市場に、より不案内でより低い技術を初めて提供する事態に立たされる寡婦との間には経済的能力の不平等があり、これを減少させる目的のために設けられた性差は、公正かつ実際的な方法であり、立法の合理的な目的に添うものであると判示した。
(その2) 連邦社会保障法は、男性労働者が死亡すると妻と未成熟子に給付金を支払うことを定めているが、女性労働者が死亡した場合には未成熟子にしか支払われない。教員として生計を支えていた妻に先立たれたニュージャージ―州の男やもめが自分と未成年の息子に対する給付を地方事務所に申請したが、彼は寡婦ではないという理由で退けられた。そこで彼は法が男女差別をしているのは憲法違反であるとして、保健教育省長官を相手どって、給付拒否の行政措置の取消と給付を求める訴えを起こした。連邦地裁の判決が原告有利なものであったため、長官が連邦最高裁に上告した。争点は同法の配偶者給付の際の性差が、憲法修正第5条の「正当な法の手続」条項に違反する差別であるかについてであったが、同最高裁は全員一致で下級裁の判断を支持して、同法の性に基づく差別を違憲とした。憲法は社会保障税を納める女性労働者が得るべき家族への保護が、同じ努力によって男性労働者が得るべきそれよりも少ない結果となるような差別を禁じているなどと判示している。

2 子の監護に関するもの
「子供ひとりに家ふたつ」
    (1979年3月号)

離婚した夫婦の子供がどちらの親に育てられるのがよいのか―多くの夫婦、子供、裁判官、弁護士、学者etc.がこのテーマに悩まされ、争い、涙を流してきた。しかし今やテーマは、どちらか片方の親だけによって育てられるべきなのか―という方向に動きつつあるという。子の監護権に対する裁判所の一般的な見解は、1920年代までは家族の首長としての父に帰するものであったが、その後は、母親の決定的な役割の認識が一般化するようになり、例えばニューヨーク州上級裁判所のクーパー裁判官のように、「母親が売春婦であり、子供の面前で商売をするとか、酒乱であるとか、子供の生命を脅かすような精神病者でもない限り、父親からの監護権の訴えは無益な行為である」という見解が支配的となった。また、監護権のない親(9割が父親)が子を訪問することには厳しい制約が課されている。しかし、今日多くの家庭ではもはや母親のみの役割ではなくなりつつあり、また離婚した女性の6割が家をあけて働きに出ている実情にあって、離婚後の監護権を争うことを無益とされてきた多くの父親たちは、にわかに復権を志向しはじめている。テキサス州の6人の父親と「同権を求める父の会」は、州内全地裁判事を相手どって、共同監護権の拒否はデュープロセスに反するものとして集団訴訟を起こしている。オレゴン、ウィスコンシン、ノースカロライナの各州法はすでに共同監護権を認めており、ニューヨーク、ミシガンなどを含む12州では同趣旨の法案を審議中である。相当数の学者・研究者グループが離婚後の共同親権が単独親監護者の場合より好ましい結果をもたらしていると報告している。これらの報告に共通していることは、共同監護がうまく作用するのは、両親が夫婦の破綻に伴う感情を子の養育から切り離して処理できる場合のみであるとしていることであった。また別れた両親がそれぞれ子供の寝室を提供でき、同じ学校区に住んでいるなどの物理的好条件も大事な事項である。共同監護権の発現は双方の親のギブアンドテイク精神に大きく依存しており、ほとんどのケースが、公私の調整機関の援助サービスを経て成立しているという。米国法曹協会の共同監護権特別委員会会長のスーザン・ウィチャー女史は、「共同監護のアイデアは、1980年代の終り頃までには、例外というよりむしろ原則として扱われるようになるであろう」と推測している。

海外トピックス44      (2008年6月発行)

「アメリカでは、2006年、離婚の原因と結果に関する研究の一環として、それらの業績を集大成した本が出版されました。その中で共同監護についての結論は次のとおりです。『共同監護のもとで父母が離婚後も子育てに関しては友好的な関係を保ち協調して子育てに関与する、こうして父母双方からの愛情を受けた子は多くの場合健全な成長を遂げることができます。他方、父母が離婚時の憎しみを持ち続け争い続けると子は父母の争いに巻き込まれ混乱し不安定になります。父母が憎しみの感情を乗り越えて子のために協調して責任を果たすとき、共同監護はその真価を発揮し親と子の双方にとって種々の利点をもたらします。また、時の経過とともに変わる子のニーズ、親の失業、再婚などの生活環境の変化に対応して監護方法を変えていく柔軟性が求められます。すべてのケースには独自性があり、父、母、子のニーズも環境もさまざまです。したがって、父の監護がよいか、母の監護がよいか、共同監護がよいか、それぞれの監護はどうあるべきかについては、すべてに通じる最良の形態というものはないということが研究の結論です』」

海外トピックス33では、両方の家で平等に扱うという取決めに翻弄され、ダメージを受ける子どもたちの生の声が紹介され、当事者である子どもの意見を聴く必要性が認められるようになったことなどを紹介しています。このような経過を経て、前述のような結論に達しているのでしょう。

3 養育費の取り立ての確保に関するもの
「子供と法律」
        (1979年8月号)
(その1) 養育費を支払わない親を追跡せよ(米国)

向こう1年以内に、養育費の支払い義務を怠っている親の居所をコンピュータで追跡する制度が、まず1州を選んで施行され、漸次全部の州に及んで実施されることになろう。子の養育費支払いを裁判所から命じられていながら履行を怠り、行方をくらましている親はどこにもいるもので、監護権を有する親が州に履行の確保について申し出をした場合には、州は、連邦法によって、履行確保のための機関を設けてこうしたケースを処理することとされている。このほど保健教育福祉省は、ボストンのブラッドフォード・ナショナルコーポレーションに、州の業務の効率化のためにコンピュータの導入を委嘱し、目下調査の行われた10州についてのシステム化が着々となされている。かりにある親が支払いを懈怠したとすると、コンピュータの指示で州の自動車登録官にその旨通知され、30日以内に回答がなければその事実を記した第二の通知がなされるという手順で、義務者の居所が追跡されるという。この情報は、連邦親捜し業務と一部連繋されることになり、また自動的に他州のシステムと相互連絡されることとなるので、州の追跡能力の拡大強化が期待されている。

海外トピックス42        (2007年10月発行)

「アメリカでの今回の改正の目的のひとつは、貧困から抜け出すという自覚を持たせるように支えることで、国の支援への依存を減らすことです。AFDC(要保護児のいる家庭への援助)を廃止し、TANF(要保護家庭への一時的援助)を新設しました。これにより各州は国のTANFと連動するために、強制的養育費徴収制度を運営しなくてはならず、まず誰が扶養義務を負うかの確認、義務者の所在確認、養育費を徴収して基金に収めることを要求されています。そのため、養育費支払い命令台帳の管理、支払い状況の監視をしなくてはなりません。雇用主は新しく採用した労働者を州に報告し、支払い義務者の給与から養育費を天引きするよう義務づけられています。全州が自動車登録、税金、失業、その他法的強制が及ぶ記録を共有し、州相互で未払いの義務者を追跡できます。また、社会保険庁、国税庁、国防省、国立個人記録センター等の記録による追跡も可能です。支払わない義務者には、運転免許等の取消し、資産差押え、徴税還付金からの差引き、失業手当停止、信用調査機関への通告、パスポート発効拒否等のペナルティが課せられ、それでも支払わければ収監されます」

28年前よりも更に徹底して取立てようとするアメリカに比べ、依然として権利者の自助努力で義務者の所在を探すしかないわが国の現状を見るにつけ、日本の子どもたちの生命は守られるのかと心配されます。

こうした厳しい制度が新たな問題を引き起こすことを考えて、この改正では、面会交流プログラムなどが用意され、参加した父親の養育費支払いの履行率が高くなる結果が出ているとのことです。


【「ふぁみりお」54号の記事・その他】

機関誌「ふぁみりお」は、財団法人日本宝くじ協会の助成を受けて作成されています。

平成家族考54 民法の一部改正について考える ―21世紀は再び「子どもの世紀」となり得るか― 

海外トピックス54「フランスにおける男女共同参画と少子化対策」
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