内閣府は諸外国における女性の参画に関する調査を行っており、海外トピックス52では、スウェーデン、スペイン、アメリカについて紹介しました。今回はフランスについて、少子化対策も加えて紹介します。(出典:内閣府編集の総合情報誌「男女共同参画」(2011.3.10発行)等)

1 政治分野への女性の参画 ―パリテ法

1999年憲法が改正され、両性の政治参画平等を促進することが明示されました。それにより、2000年に「選挙によって選出される議員数及び公職への男女の平等なアクセスを促進することに関する2000年6月6日法律」(パリテ法)が成立しました。パリテ(parite)とは、同等、同一という意味で、ここでは男女同数、男女平等を意味しています。

フランスの国会は上院にあたる元老院と下院にあたる国民議会により構成されています。パリテ法により、元老院議員選挙で4人以上の議員を選出する県では、拘束名簿式・比例代表制を採用し、候補者名簿の登載順を男女交互とすることとされ、違反する名簿は不受理となります。また、小選挙区制が採用される国民議会選挙では政党や政治団体に所属する候補者の男女比を同率(男女同数)とすることとされ、候補者数の男女差が2%を超えた場合には、制裁として国から政党や政治団体に配分される助成金が減額されることとなりました。2007年からは公的助成金の減額率を最大50%から70%に引き上げ、制裁措置を強化したほか、地方の議会選挙でも様々なパリテが適用されます。

パリテ法施行後の女性議員の割合は国民議会では、1993年選挙の6.1%から2002年選挙では12.3%、直近の2007年選挙では18.5%となっています。元老院では、1992年選挙の5.0%から、2001年選挙では10.6%、2008年選挙で21.9%となっています。

2 雇用分野への女性の参画―企業に対する優遇措置

フランスでは、男女平等を推進している企業に対して、政府から補助金の交付などが行われています。補助金の用途は企業により様々ですが、女性が働きやすい環境を整備するためなどに使われています。

2004年には、政府のイニシアチブにより、企業に対し平等認定を与えるというシステムが開始されました。これは、フランス規格協会が、男女平等の観点から優れた企業に認定を与える制度です。認定にあたっては、企業による職業上の平等のための活動、人事制度、育児休業制度の3つの要素が審査されます。2005年3月にプジョー・シトロエングループに平等認定が授与されてから、2007年6月時点で29の企業に認定が与えられています。

その他、女性のための家庭と仕事支援策として、家事にかかったコストを税金から控除して申告するシステムがあります。また仕事と家庭の両立の観点から、企業は従業員による育児休業取得等の状況について政府に報告書を提出する義務が課せられています。

3 フランスの少子化対策

フランスの出生率は欧州諸国中、比較的高い位置にありましたが、1980年代急速に下がり1995年には過去最低の1.65人にまで低下しました。政府は人口置換水準である2.07人にまで改善させることを目標に、各種の福祉制度や出産・育児優遇の税制を整備しました。

子どもを持つ家庭が受給することができる一般扶養手当は、主に4種類の手当から成り立っています。

2人以上の子ども(20歳未満)を持つすべての家庭は所得制限なしで家族手当を受けられます。子どもが2人いると、毎月124.54ユーロ、3人目以降は、1人ごとに159.57ユーロ。さらに、子どもが11歳以上になると35.03ユーロ、16歳以上になると62.27ユーロが加算され、子どもの数によって変わります。子ども2人の場合1人分だけ、3人以上の場合は全員分、加算されます。「2人以上の子どもを奨励する」フランスの育児支援政策の意図がはっきりと示されています。

さらに子どもが3人以上いる場合は、各子どもが20歳に到達した時点から1年間、成人手当として、78.75ユーロを受け取ることができます。

3歳から21歳までの子どもがいる家庭で低所得の世帯は、低所得手当162.10ユーロを受け取れます。

片方または両方の親を失った子どもに対する孤児手当として、片方の親を失った場合は87.57ユーロ、両方の親を失った場合には116.76ユーロをもらえます。失うという言葉には離婚した場合も含まれるので、シングルマザーの場合にも受け取ることができます。

このほか、所得制限はあるものの、出産手当、3歳未満の子どもを対象にした児童手当など30種類に及ぶ手当が用意されていて、公立であれば、高校までの学費は無料です。

所得税制も子どもの数が多いほど有利なN分N乗方式で、世帯単位で課税され、世帯所得を家族人員で除した所得に対して課される1人当たり税額に家族人員を乗じて所得税を求められます。子ども2人目まではそれぞれ0.5人分、3人目からは1人分として家族全員に算入します。

また、50歳未満の女性の約8割が働いており、出産・育児のために退職を余儀なくされることがないよう育児休業制度、育児支援策が充実しています。

「就業自由選択補足」手当により、育児休業を選択した場合の所得の喪失、また短時間勤務で就業を続けた場合の所得の減少を補填してくれます。子どもが3歳になるまで両親の一方が休職することができ、国はこの間、給与水準に応じて月額最高約512ユーロの休業手当を支給します。さらに企業は、復職後、以前と同等の地位を保障しなくてはなりません。

ただ、現実には、子どもが3人目となると、一般に女性の年齢が高くなり、長い休業の後では、職場復帰が困難になることも想定されます。このため、3人目の子どもからは、休業を1年に短縮する代わりに約750ユーロに増額された休業手当を受け取る方法も選択できます。

育児についても選択肢が豊富です。2歳8か月から「保育学校」(無料)が利用でき、3歳になると大多数の子どもがここに通うようになりますが、それまでのつなぎとしてどこに預けるかは、親の保育方針や収入、勤務時間など家庭によって選択します。ヌヌ(乳母)を雇う、留学生に部屋・食事を提供する代わりに子どもの世話をしてもらう方法も普及しています。育児支援も自由選択補足手当があり、保育ママやベビーシッター利用の場合でも、報酬や社会保険の使用者負担が一部補填されます。支給額は、保育ママや、自宅保育者を雇う個人の収入、子どもの数や年齢によります。

フランスの出生率の回復は、結婚にとらわれない家族形態によるのではないかとも分析されています。2004年に誕生した子どもの46.4%が結婚していないカップルから生まれた婚外子でした。1972年には「子の平等の原則」のもと、婚外子に嫡出子と同じ相続上の権利が保障され、1999年、結婚していなくても、共同生活をするカップルが税制、社会保障などで結婚と同等の権利を得ることができるPACS(連帯市民契約)が導入されました。どのような家族形態でも、基本的に子どもを扶養していることを証明すれば、種々の給付を受けることができます。こうした手厚い経済的支援に加え、いかなる形態の家族に暮らす子どもでも、平等に社会の一員として受け入れる風土が、特に女性にとって、子どもを持つことへの心理的負担を軽くしているようです。

OECDによると、家族政策への財政支出は、国内総生産(GDP)比で、日本の0.6%に対し、フランスでは2.8%に上ります。財政事情は厳しいが、家族政策の支出は「国の将来を見据えた投資」とみなされており、子育てを社会全体で支えるための高いコストが支持されています。

4 最後に

内閣府は日本における政策・方針決定過程への女性の参画状況を調査して公表(図表1)していますが、現状は寒々しい限りです。薬剤師等の特定のものの突出はありますが、平成32年までの目標としている30%を達成するには、より一層のパリテ意識の醸成に努める必要があります。また、わが国の少子化対策にしても、フランスと比べると貧弱なものと言わざるを得ません。少子化対策は、男女共同参画に直結するわけではありませんが、家族政策、教育政策、労働政策、福祉政策等は、双方が通底している領域ですから、その改革には、双方の視点に立つことが必要です。

3.11大震災、原発事故等があり、期せずして「絆」が日本のみならず世界中の合言葉となりました。「絆」は、人間皆平等の精神と助け合いの精神に支えられており、男女共同参画社会の形成と子育て支援には絶対欠かすことのできないものだと思います。


図表1 政策・方針決定過程への女性の参画状況


【「ふぁみりお」54号の記事・その他】

平成家族考54 民法の一部改正について考える ―21世紀は再び「子どもの世紀」となり得るか― 

第54号 ア・ラ・カルト「米国における子の監護と養育費に関する取組みの流れを見る」 
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