1 FPICにおける運用の実情
FPICでは、成年後見制度の発足以前から家裁の依頼を受けて、事実上の成年後見人を引き受けていましたが、
発足と同時に実行組織としての後見委員会を設置し、毎月1回後見事業に関する諸種の問題やケースの問題点等について意見交換や協議検討を重ねて、
適切に後見人や後見監督人などの仕事を遂行するように努めています。
特に、後見委員会では、家裁、公証役場、関係機関から、後見人や後見監督人の推薦依頼があったときは、事案の内容を検討し、
基本的には、後見人等の事務は長期に及ぶこと、生じた問題には即刻対処しなければならないこと等を考慮して、なるべく法人として受け、
複数の会員で担当するようにしています。
FPICで受けたケースでは、@本人に親族や身寄りがなく、資産、経済力が乏しい A親族がいても本人にかかわりたがらない
B本人の財産管理や身上監護をめぐって親族間に紛争があり、調整を要するといったものなどが多いようです。
ケースには個別性があり、なかには大変手間がかかり、骨の折れる場面にぶつかる場合もあります。
2 成年後見人の仕事
成年後見人の主な仕事は、本人の意思を尊重し、心身の状態や生活状況に配慮しながら、必要な代理行為を行い、財産を適正に管理していくことです。
具体的には、医療・住居の確保、施設の入退所、介護・リハビリテーションなどが適正に行われるよう調整し、日常の金銭の出納、
預貯金の管理と取引、財産の処分、治療や介護に関する契約の締結など財産管理と必要な法律行為などを行います。
また、成年後見人は、後見事務について定期的に家裁や後見監督人に報告するとともに、その監督を受けることになっています。
一つの事例をもとにFPICの後見事務の実際について見てみることにしましょう。
(1)後見人に選任されるまで
甲野花子の長男甲野春夫は、平成○年○月家裁に母花子の後見人に自分を選任してほしいとの後見開始の申立てをしました。
母花子がアルツハイマー型老人性痴呆と診断され、その結果、花子の財産管理を巡って、きょうだい3人や他の親族も含めて紛争が絶えなかったとのことです。
同月、同家裁に長女乙野夏子も、母花子の後見人としては夏子を選任してほしい旨の申立てをしました。
家裁は、親族間の対立が激しいため、成年後見人として公正な第三者の立場にあるFPICを選任する旨の審判をしました。
花子は当時長女乙野夏子夫婦と同居していたことや花子も夏子夫婦との同居を望んだので、日常の介護は夏子がすることに他の親族も同意しました。
FPICは2名の担当者を決めました。
(2)選任された直後の仕事
ア 関係者への協力要請
春子夫婦、夏子夫婦等の関係者に会い、後見人の仕事を説明し、協力方をお願いしました。
花子の心身状況の把握やその他の情報を収集し、生活方針を立てるとともに、収入・支出を把握した上で、年間の経済方針を立てました。
この方針については現に花子を介護している長女にも伝え、納得してもらいました。
イ 財産の引継ぎ業務
後見人になると、まず、被後見人の財産目録等を作成して家裁に提出しなければなりませんので、財産の種類、金額等を正確に把握する必要があります。
財産の引継ぎを受けた後、紛失したり、盗難にあったりすると困るので、選任された直後、財産の引継ぎを受ける前に、
被後見人の財産管理のため後見人(代理人)名義の貸金庫を開設しました。
ウ 引継ぎ財産の確認
財産については、一般的には、@ 年金証書 A 不動産 B 預貯金 C 株式等の金融資産 D 生命・損害保険等 E 現金
F その他(動産等)G 負債(住宅ローン等)などを確認する必要があります。長男、長女双方が立ち会い、花子の財産の引継ぎを行いました。
花子の引継ぎ財産は、年金証書、預貯金、生命・損害保険等12項目であり、その一覧表を作成しました。
(3)家裁に財産目録提出
後見開始後、家裁から「後見人選任の審判書謄本」とともに「財産目録作成について」の書面が送られてきますので、財産目録を作成し提出することになります。
花子の場合は、不動産はなく、資産としては、郵便局の郵貯総合、定期等、複数の都市銀行の普通預金、定期、自動積立定期等、
信用金庫預金、簡易生命保険証書、複数の民間生命保険証書(個人年金を含む)等、そのすべてについて現在高調査を行い、
コピーし、資料を整えました。収支状況報告書には、収入は老齢基礎年金、支出は生活費、各種生命保険掛金等を記入し、
これらを財産目録として家裁に提出しました。
(4)被後見人の財産管理
ア 被後見人の預貯金口座名義である甲野花子名の上に成年後見人名を記載する手続きを各金融機関に行いました。
例えば、「甲野花子 成年後見人FPIC代表者○○○○」という表現になります。
同時に、法人から委任された代理人2名の申請も書面で行うことになりますが、これは、
必要提出書類等及びその対応は各金融機関により異なるので留意する必要があります。各金融機関で用意する「成年後見制度に関する届出書」のほか、
「後見登記事項証明書」及び「後見人選任の審判書謄本」が求められます。甲野花子の審判書については、被後見人のプライバシー保護のため、
主文のうち理由説明の箇所は除いてコピーして提出しました。
以上の手続きを終了した後は、金融機関によっては預金出し入れ用キャッシュカードの使用を禁止し、預金の出し入れはすべて口座届出印使用の上、
銀行窓口でのみ行わざるを得ない場合もあります。
イ 財産管理の必要上、下記の諸手続きを行いました。
@ 社会保険庁に被後見人の年金受給のため、介護者夏子宅への住所変更届を提出した。
A 小口預貯金は整理してまとめ、預金出し入れは窓口に限られることもあるため、遠隔地の支店の口座は出し入れ可能な支店に移管してもらった。
B 各生命保険証書の整理をし、紛失していた生命保険証書は再発行してもらった。
ウ 生活費について
花子の介護料を含む生活費については、審判時に親族間の合意によって金額が決定されており、
その金額を毎月一定期日に介護者あてに送金をしています。特別支出については、花子に係る必要経費の名目で夏子から相当多額の請求を受けましたが、
審判官と協議の上、花子の部屋に設置するテレビの購入代と、花子の親族への香典代のみ認め合理的な額を送金しました。
(5)被後見人の身上監護
被後見人の意思を尊重し、介護方法を定めることが重要です。
ア 被後見人と面接
花子の生活状況を把握するために、夏子宅にて花子と面接しました。花子は要介護4で、目は虚ろで挨拶をしても後見人の仕事に対する理解はないが、
質問をすれば自分の子の名前を言うことはでき、誰と暮らしたいかとの問いに夏子と同居との意思表示をしました。
以後、3、4ヶ月に1度の割合で面接を継続していますが、半年を過ぎた頃から訪問の度に花子の表情が少しずつほぐれてきて、
歩行能力も少し回復の兆しが見受けられるようになりました。夏子ができるだけ清潔を保ちながら、母をよく見守り介護する姿勢が感じられました。
イ ケアマネージャーと協議(ヘルパーの活用、デイケア・ショートステイの利用)
後見人になってから、花子が利用するデイケア・ショートステイの施設を訪問し、ケアマネージャーにも面接のうえ今後の介護方針などを協議しました。
ウ 医療行為についての協力
花子は発熱のため昨年は2度に亘り病院に入院しましたが、入院時の手続きとしては、「入院証」及び「同意書」にFPICの署名、押印をしました。
退院後、簡易生命保険の入院特約契約により、入院費領収書を添えて入院保険金支払請求の手続きを行い、受領することができました。
エ 被後見人の親族間との調整
花子の後見開始後、初めの頃は夏子の兄弟から夏子の介護への不信の苦情をしばしば受けましたが、その都度適切な対応を心掛けた結果、
半年を経た頃から彼らも後見人に信頼を寄せるようになり、夏子の母に対する介護生活にクレームをつけなくなりました。
(6)家裁への報告
ア 1年後に家裁から後見事務報告書、財産目録及び収支状況報告書用紙が同封された書面が届いたので、
報告書を作成するとともに1年間の後見業務記録も付けて期限内に報告しました。
イ 財産管理及び療養看護の方針、又は被後見人の氏名・住所等変更があるときは報告することになっています。
ウ 後見が終了する事情が生じたときは報告することになっています。
(7)後見人の報酬
後見人の報酬に関しては、後見人から家裁に対し「報酬付与の審判」の申立をし、その決定によって決まります。
上記の手続きを経ずに被後見人の財産から直接報酬を受け取ることはできません。
3 成年後見監督人の仕事
(1)後見監督制度の必要性等
後見監督とは、後見監督人が成年後見人等に対して、後見事務を正しく行っているかどうかを確認し、
問題点があればこれを是正するよう指導監督することを言います。後見制度の目的は、被後見人の保護にありますが、
現実には後見人は財産管理、その処分等ほとんど無制限の権利を手に入れるため、かえって被後見人の利益が害されることも少なくありません。
後見人の不正行為については素早く対応し、厳しく働きかけ、是正させることが必要です。
後見監督人がつくのは、問題のあるケースであり、事案を考慮して家裁が職権で後見監督人をつける場合が多いようです。
後見人に対するチェックやサポートが必要であるとか、親族の間に紛争があり、その調整を期待する場合などです。
後見監督の難しさは、後見人が被後見人の財産を使い込んだりしても隠蔽されると見抜くのが難しいということ、そして、見抜いたとしても、
これを是正させる決定的な権限がないということです。また、支出面で本当に被後見人本人ためのものなのか疑わしいものもあり、
どこまで問題とするか悩ましい場合もあるということです。要は、問題点はきちんと指摘する一方で、その後見人の苦労をねぎらったり、
成果をほめたりして信頼関係を築き、時には家裁の権威を借りて、大きく踏みはずさないようにやってもらうようにすることです。
(2)後見人の財産管理に指導を要するとしたケース
Kさん、40歳台後半の女性で大企業勤務のキャリアウーマンでしたが、突然くも膜下出血で倒れ、脳機能と運動機能に大きな障害が残りました。
姉夫婦が面倒をみています。保険金受領手続きのため、家裁に後見開始の審判の申立てを行い、
面倒をみている姉が成年後見人に選任されると同時に職権で成年後見監督人をつけることになりました。
成年後見監督人をつけることになったのは、実際に面倒をみている後見人が本人の金を使い込むおそれがあったからです。
家裁からFPICに後見監督人候補者の推薦依頼があったので、会員の中から担当者を選びました。
後見人は、銀行から度々使途不明の多額の金を引き出しました。後見監督人が説明を求めると複雑な説明をしてはぐらかしたが、
領収書などをもとに厳しく追及した結果、後見人は、被後見人のためと言いながら車の車検費、自損事故の修理代、
福祉関係の資格をとるための講習代などに充てたことを認めました。後見人は、財産目録や収支の報告なども滞りがちなので、
後見監督人は定期的に面接し、財産管理についての意識を喚起しています。
〜 終わりに 〜
FPICでは、成年後見制度について「ふぁみりお」で何度も取り上げ、セミナーも開催してきましたが、
今後もこの制度の発展のために啓発活動を続けていく予定です。
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