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 夫婦の関係は離婚により終了しますが、親子の関係は両親が離婚しても終了することはありません。 したがって、離婚によって子どもと一緒に暮らさない親も子どもの養育費を負担しなければなりません。 子どもと一緒に暮らす親(監護親)を養育費請求の権利者、子どもと一緒に暮らさない親(非監護親)を養育費支払いの義務者といいます。
 1年ほど前に、東京と大阪の家庭裁判所の裁判官による東京・大阪養育費等研究会が「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」という研究結果を公表し、 算定法と算定表を提案しました。 それまでは諸費用を実額で算定する方法であったため煩雑に過ぎ、権利者も義務者も養育費の額を予測できないものであったのを、 標準化された比率や指数を使うこの算定法と算定表によれば簡易迅速に目安が得られるという利点があり、全国の家庭裁判所の実務でも定着しつつあります。 ここでは、この研究会の養育費の算定方式を紹介し、事例で離婚後の養育費がどのくらいになるかを算定表で見てみましょう。 算定表は子の数と年齢の組合せで9表が提案されていますので、詳細を知りたい方は、「判例タイムズ」No.1111(2003.4.1)、「家庭裁判月報」第55巻第7号(2003.7)等の文献を参照してください。 インターネットで東京家庭裁判所のホームページからも見ることができます。

 1 基本的な考え方

 扶養義務は、「生活保持義務」と「生活扶助義務」に大別されています。「生活保持義務」とは「自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務」、 「生活扶助義務」とは「自分の生活を犠牲にしない限度で、被扶養者の最低限の生活扶助を行う義務」とされています。 養育費や婚姻費用(別居している家族の生活費)の支払い義務は、「生活保持義務」であり、親族間の扶養義務は「生活扶助義務」であるとされています。 したがって、養育費とは、非監護親(義務者)に余裕があったら支払うというようなものではなく、 一杯の粥、一切れのパンも別れて暮らす子どもと分け合うという性格のものです。
 算定の目的は、生活保持義務にふさわしい養育費を算定することにあり、算定の出発点は、義務者、権利者双方の総収入の金額の認定であり、基本的枠組みは、 義務者と子どもとの同居を想定した上で費用を按分する方式です。


 2 基礎収入の認定

(1)総収入の認定
 算定表を使用するためには、権利者と義務者双方の総収入を認定する必要があります。
 ア 給与所得者の総収入
  源泉徴収票の「支払金額」が総収入に当たります。給与明細書は、給与の月額であり、ボーナスなどが含まれていないなど、変動が大きいので注意する必要があります。
 イ 自営業者の総収入
  確定申告書の「課税される所得金額」が総収入に当たります。 課税標準を計算する上での収入金額(売上金額)が養育費算定の総収入となるのではないことに留意する必要があります。

(2)基礎収入の認定
 基礎収入とは、総収入から公租公課、職業費及び特別経費を控除した金額であり、養育費を捻出する基礎となる収入です。
 公租公課とは、所得税、住民税、社会保険料のことをいい、これらが総収入に占める割合は、税法等で理論的に算出された標準的な割合を使っています。  職業費とは、給与所得者が収入を得るのに必要な経費のことで、実務上は被服費、交通・通信費、書籍費、諸雑費、交際費等が認められています。
 特別経費とは、実務上は住居に要する費用、保険医療費等とされています。
 職業費と特別経費は、統計資料に基づいて推計された標準的な割合を使って算出されます。
 ア 給与所得者の基礎収入の割合
  給与所得者の基礎収入は、総収入から公租公課、職業費、特別経費を控除したもので、総収入に占める割合は、概ね34〜42%(高額所得者の方が割合が小さい)の範囲内と推計されています。
 イ 自営業者の基礎収入の割合
  自営業者の基礎収入は、総収入から所得税、住民税、特別経費を控除したもので、総収入に占める割合は、概ね47〜52%(高額所得者の方が割合が小さい)の範囲内と推計されています。


 3 子の標準的な生活費指数

 親子の生活費の指数を、厚生労働省によって告示されている生活保護基準から算出した結果、子の標準的な生活費の指数は、親を「100」とした場合、 年齢0歳から14歳までの子については「55」とし、15歳から19歳までの子については「90」としています。


 4 義務者の養育費分担額の簡易算定方式

 義務者の分担額の計算は、これまで見てきた比率(%)、指数等を使って、次のような三段階の計算式で算定されます。

 @ 基礎収入=
    総収入×0.34〜0.42(給与所得者の場合)
       (高額所得者の方が割合が小さい)
    総収入×0.47〜0.52(自営業者の場合)
       (高額所得者の方が割合が小さい)

 A 子の生活費=義務者の基礎収入×
         55 or 90 (子の指数)
    100+55 or 90(義務者の指数+子の指数)
 注 子の数が複数なら分母と分子にその子の指数を加算していく。

 B 義務者が負担すべき養育費の額=子の生活費×
           義務者の基礎収入
     義務者の基礎収入+権利者の基礎収入


 5 算定表の使用方法

 この研究会が発表した算定表は、簡易算定方式に基づいて算定される養育費の額を義務者が極めて低収入の場合は1万円とし、 それ以外の場合は2万円の幅を持たせて整理し、子の人数(1〜3人)と年齢(0〜14歳と15〜19歳の2区分)に応じて9表から成っています。 算定表の横軸には権利者の総収入(年収)が、縦軸には義務者の総収入(年収)が記載されています。子の人数と年齢に従って使用する表を選択し、 その表の権利者及び義務者の年収欄を給与所得者か自営業者かの区別に従って選び出します。選んだ権利者の年収欄を上に、義務者の年収欄を右に伸ばし、 両者が交差する欄の額が標準的な養育費の額を示しています。


事例
 Q 4歳の子を引き取って養育している母親(権利者)は給与所得者で年収は150万円、1人で暮らしている父親(義務者)も給与所得者で年収は500万円の場合、 義務者の養育費の負担額はいくらか。

 A 子1人表(0〜14歳)を選択し、縦軸の義務者の給与の年収500万円の欄を右に伸ばし、横軸の権利者の給与の年収150万円の欄を上に伸ばして交差したところ、 つまり「4〜6万円」の養育費の下の方にあります。したがって、義務者が支払う養育費の月額は、4万円と5万円の間が目安となります。




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