ニューヨーク州モデル
ニューヨーク州のDV事件数は膨大で州司法当局を新たな対応の模索へと導くひとつの要因です。何よりもまず、DVは他の犯罪とは異なります。
被害者は、加害者が逮捕されてもその影響下にあり、多くは孤立していて助けを求めたがりません。
加害者はさらなる脅しや暴力を加えるかもしれないのです。この単純なことがDVの防止を困難にしています。
危険な悪循環を打破するため、集中的な被害者サービスと加害者の責任の追及を徹底する、こうしてニューヨークDV法廷が企画されました。
当初はブルックリンに重罪レベルのDV事件を扱う裁判所が設置されたのです。全く新しいアプローチで取り組む裁判所のモデルとして、
一貫して同じ裁判官が担当すること、専任の訴追チームを組むこと、被告が裁判所の決定に従うかを監督するスタッフと被害者を援助するスタッフを増員することを特徴としました。
また、刑事司法界のDVの見方を変え、研修や情報交換を通じてDVに対し協調態勢をとるよう努めました。
例えば、裁判所協力者会議を創設し、裁判官、裁判所職員、検察官、被告代理人、保護観察官、被害者支援者、加害者行動変容プログラムの代表者、
その他あらゆる社会サービス機関の人たちを6週毎に招集してDVに対する最も効果的な方法について話し合い、必要なアイディアは早速行動に移しました。
保護命令違反者の多くは釈放されるときに、彼らに出された保護命令がまだ有効であることを知らないということがこの会議で明らかになりました。
DV法廷は、保護命令の有効期間再確認のために裁判所に出頭させる制度を導入しました。
こうした努力が効果を上げ、取り下げは半減し、外部機関からも良い評価を得られるようになりました。
さらに、ニューヨーク州の他の地域にもDV法廷を増設し、10の司法管轄で重罪・軽罪両レベルのDV法廷が既に実施されているか計画の途上にあります。
(概ね、1年以上の懲役が課せられるのが重罪、1年以下の懲役、罰金が課せられるのが軽罪とされているようです。)
さらに、統合DV法廷も試行されています。この多角的法廷は、一人の裁判官がひとつの家庭にかかわる、刑事事件、保護命令、監護権、面会交流、
離婚に関する問題の全てを担当するのです。現実的な見地から裁判手続きを単純にし、苦悩する家庭が矛盾した命令を受ける危険を避けるようにしました。
被害者サービス
DV被害者は、一般の暴行の被害者とは異なり独特のニーズや利害関係を持っています。加害者に経済的に依存していることが多く、両者の間に子どもがあり、
加害者の親族と同居さえしていることがあります。
事件係属中に加害者やその親族から脅迫を受ける恐れもあります。こうした要因がDV事件を複雑にし、被害者への効果的な社会的サービスを必要とさせています。
○ 全ての被害者に専任の支援者を迅速に紹介する
被害者の安全がDV法廷の基本です。支援者は、安全対策を立て、裁判手続きを説明します。
ブルックリン重罪DV法廷では、被害者は地区弁護士事務所と被害者支援組織のどちらかから支援者を依頼でき、どちらも裁判所内に事務所があります。
地区弁護士事務所からの支援者は、被害者が望まない状況でも検察官に情報を伝えざるを得ない場合もありますので、
被害者は情報を秘密にするという点で融通がきき柔軟な対応ができる被害者支援組織のほうを選択することもできます。
○ 支援者は、社会的サービス機関(就労指導等自立のための能力開発も含む)、緊急保護所、食事の提供や市民法律サービス等の機関と迅速に連絡をとる
裁判手続きの早い段階に支援を得て法手続きを理解すれば、被害者はより積極的にその事案に取り組めるという調査結果が示されています。
○ 被害者に、ケースに即した最新の情報を提供する
被害者がたびたび裁判所に来なくてもすみ、危険な状態に陥るのを防げます。また、被害者に安心感を与え、自分も訴追に参加している気持ちを強化します。
○ 事件を迅速に処理し、被害者が保護命令を速く受けられるようにする
被害者が法的対応を待つ時間が長いほど、危険な状態も長びきます。速く保護命令を出すことは、加害者にも深刻な状況にあるというメッセージを与えます。
○ 裁判所内に被害者が安全にいられる場所を創る
支援者と話をし、その近くで待つことを考慮に入れる必要もあります。ブロンクス軽罪DV法廷では、被害者サービス事務所の中に安全な待合室があります。
証言の際には、法廷への往復に支援者が付き添います。
裁判所による監督
DV法廷は裁判の強制的かつ象徴的な権威を最大限活用しようとしています。裁判所による監督の実施こそ、DVの再犯を避ける最も有効な方法だという研究結果もあるのです。
裁判所による監督は、犯罪の繰り返しは認めないことを担保し、裁判所の権威の重みで犯罪を抑止すること目指しています。
○ 告訴から判決、遵守状況の監督まで一人の裁判官が担当することで、一貫性を保つ
DVの特徴的事象に裁判官が精通し、より多くの情報を得た上での決定ができます。
○ DV法廷は告発から決定まで集中した裁判所による監督を行う
保護観察を含む判決を受ける被告には、決定後、裁判所による監督も続けられるべきです。集中的監督には多様な方法があります。
重罪レベルの場合、裁判官は被告を係属中から加害者治療プログラムに組み込み2週間毎に法廷に出頭させ、かつ被害者と接触することを禁じます。
頻繁に報告させる意味は、もしも命令に違反したら即座に然るべき措置をとるためです。
○ 裁判所による監督の新しい方法を模索し、導入する
外出禁止令、電話による調査、アンクルモニター(発信機付きのブレスレット状のものを足首に装着するもので、行動の範囲を制限したり被害者に接触するのを防ぐ。
投獄される代りにこれを付けて監督されることに加害者が同意した場合に用いられる)など全ての方法を取り入れてきました。
ブルックリンDV法廷ではニューヨーク州仮釈放局と協力し新しい仮釈放者を裁判官のところに出頭させ、裁判官は彼らの仮釈放の条件を、
特に保護命令に含まれる契約条件に焦点を当てて注意深く調べます。このように裁判所による監督の役割を広げて、新しい方法を見出してきました。
○ 監督のためのスタッフと社会資源を追加する
裁判官一人ではできません。DV法廷ではケースマネージャーに依頼して、被害者のニーズを把握し被告の保護命令違反を監督します。
ケースマネージャーは外部の関係者と常に連絡をとり、裁判所の命令を被告が守っているかを監督して裁判官を支えます。
○ 過密な裁判所の場合は監督のための分離法廷を創設
すぐに違反を発見し、必要に応じて判決を宣告した裁判官に事件を戻すことができます。
クイーンズの軽罪DV法廷では事件数が非常に多いため、分離監督法廷が設けられ、適時に法廷を開いて被告についての報告をさせられるようになっています。
責任の徹底
DV事件の被害者も加害者も、原因は被害者にあると考えがちです。
裁判所は、被告は被害者に対する行為と、裁判上の自らの行為について裁判官に対し責任を持つのだということを理解させなくてはなりません。
さらに、DV法廷は、被害者に対するサービスと加害者を監督することに、国と非営利協力機関が責任を持つことも支えていく必要があるのです。
○ サービスの提供者と情報交換し強い協力関係を築く
加害者行動変容プログラムや虐待治療の実践者とは協力関係を強くし、被告が従わない場合裁判所に直ちに知らせ、裁判所が然るべき措置をとることを確認しておきます。
バッファローでは裁判所内のクリニックセンターを通じて照会でき、お互いに速やかに情報交換することができます。
○ 裁判官とケースマネージャーは、いろいろな加害者プログラムのうちどれが裁判所の命令を確実に守らせることができるかを吟味する
プログラム提供者に、裁判所に何を何故報告しなくてはならないか理解させます。
ブルックリンのある加害者仲裁プログラムは、裁判所に対し責任があることが徹底しておらず、そのプログラムを受ける判決を受けた全犯罪者についておざなりの報告をしていました。
裁判所はこの事実を知ってこのプログラムを適用するのを中止しました。外部のプログラムについて常に情報交換の必要のあることを示しています。
○ 創造的に考える
保護観察官と仮釈放の部署の担当者、また地域のNPOも監督の仕事を担っています。多くの司法管轄で保護観察所は裁判所にDV事件専任の観察官を派遣しています。
クイーンズでは、DV法廷に地域の加害者プログラムの代表者に出席してもらい、判決を受けた犯罪者にすぐに初回導入面接ができるようにしています。
このプロセスが、犯罪者を外部の面接に参加させるプロセスからひとつステップを省き、効率性と責任性を向上させることになっています。
○ 情報収集にITを活用する
担当のDV法廷は、矛盾した決定を避け判決に関連したより多くの情報を得た上での決定をするためにも、ITを利用します。
DV専用のプログラムを開発し、裁判官、ケースマネージャー、地区弁護士、被告代理人、保護観察官等が、各DV事件に関する重要な情報を直ちに得られるようにしました。
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