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 当センターでは、子どもがいる夫婦の離婚についての連続セミナーを開催し、離婚に際しての心構えと解決しておくべき事柄を説いてきました (「ふぁみりお」第6〜14,16,21,22号参照。うち12,13,14号は面会交流がテーマ)。 それらの中で常に強調したのは、離婚によって夫婦の縁は切れても親子の縁は切れないということです。 したがって、離婚により他人同士となったとはいえ、父母は、子どもの健やかな成長のために協力し合うよきパートナーとなり、子どもと別れて暮らす親は、 子どものために養育費を支払わなければなりませんし、子どもと一緒に暮らす親は、子どもと別れて暮らす親に子どもと面会し、 交流することを子どもの福祉を害しない限りは認めなければなりません。 「児童の権利に関する条約」でも、親と分離されている児童が定期的にその親と人的な関係及び直接の接触を維持する権利を締約国は尊重する旨を定めています。 わが国でもこの条約の発効を受けて、裁判所で面会交流についての条項が定められるようになりました。
 離婚時の気持ちが整理できず、よきパートナーになっていない父母の場合は、面会交流の実施が第三者の援助を得なければならない場合がありますが、 当センターは、事業の一環として親と子の「面会交流の援助」を引き受けており、年々その利用者が増加しています。
 今回は、当センターが「財団法人女性のためのアジア平和国民基金」からの委託を受けて、 面会交流について調査した報告書「新しい関係を築くためのヒントー離婚後の面接での事例を中心として」(平成16年3月)を基に、 離婚後の父母が面会交流を通して子どもの健やかな成長のためにしてやれることを考えてみたいと思います。

1 調査対象
 面会交流を実際に行っている父母へ調査協力をお願いし、調査対象となったのは全部で33事例です。 内訳は当センターの@ホームページでの募集に応募してきた6事例、A離婚セミナーへの参加者からの17事例、B当センターに交流の援助を求めてきた10事例です。 ここでは、@とAは、第三者の援助を受けず自力で面会交流を行っているので自力実施事例と呼び、 Bは、当センターの援助を受けて面会交流を行っているので要援助実施事例と呼ぶことにします。
 事例の婚姻期間は、5年未満及び5〜10年未満が多く、子が一方の親と別れて暮らし始めた時の父母の年齢は、父母とも30歳代が多く、 子の年齢は6歳以下が半数を占めています。母と同居している子が多いために、面会交流を求めているのは圧倒的に父となっています。

2 自力実施事例
(1)父子面会(回答者母)[婚姻5年・別居1月・1年半前協議離婚]
 母は、長男(6)が父を求めており、面会交流は長男にとって必要なことと認めている。 実施内容は父からの連絡で直前に話し合いで決め、泊めるとか、夕食を食べて帰すとか、母はおおむね父の言うことを認めている。 ときには母が職場の旅行に参加するために子を父に託すこともある。 長男も初めのころは父親の実家からの帰り際などには泣いたりしていたが、今は面会を楽しんで、バイバイと言って別れている。 母は、子の運動会に来る父の姿に愛情の深まりを感じ、父の成長を認めている。 母がこのような気持ちになるまでには、カウンセラーに支えられながら自分を見つめる機会を与えられたことが大きな力になっていると考えている。
(2)父子面会(回答者父)[婚姻16年・1年前協議離婚]
 離婚前、父を避けていた長女(11)は会うようになってから父の本当の姿を知ったのか、とても親しくしてくれ、次の連絡をせがむ。 母の口うるささを訴える長女に対し、母にあまり反抗しないようにやんわり諭している。父は母とも長女ともメールのやり取りがあり、 長女とは週に1回程度電話、メール、チャットで勉強の質問に答えたり、日曜の塾帰りに公園で会ったりしている。面会を続ける中で、 子への愛情、責任感から、養育費を支払う環境ができた。勉強や社会の仕組みを教えたり、生き抜く知恵を与えるためにも、父子の接触は不可欠と考えている。
(3)父子面会(回答者父)[婚姻10年・2年半前調停離婚]
 長女(9)は、母や母の実家の人の愚痴、学校、友人のことなど何でも自分から話し、父と会うことを喜んでいる。 実施については、母と相談しながら、毎月2回(土、日の1泊2日が2回)、夏休み20日ぐらい、冬休み5日ぐらい、春休み 2、3日である。 長女の精神安定のために面会交流が必要と考えている。父母が直接会って話しのできる関係にあるが、父はトラブルを起こして面会を拒否されるのを避けるために、 事務的な打合せに限っている。
(4)父子面会(回答者母)[3年前別居・1年前調停離婚]
 離婚時、4歳の長男には、父母とも長男のことが好きだからいつでも電話できると母から伝えている。 月1回、父から電話で都合を尋ね、車で迎えに来て会う。母は、長男が父方で1泊程度してくることが長男の生活の一部になっており、 父子でサッカーやテレビの話をしながら面会交流を楽しんでいると感じている。面会終了時に帰宅を嫌がったり、父母間のトラブルに動揺し生活のリズムを乱すこともある。
(5)父子面会(回答者母)[婚姻9年・7ヶ月前別居・5ヶ月前調停離婚]
 父子の希望を母が受け入れて毎週火曜日に、長男(8)は父の送迎で父方を訪問し、宿泊してきたり、サーフィンに行ったりしている。 最近は、長男の望んだときにはいつでも会わせ、父にも学校参観に来てもらい、年末年始には父が母方を訪ね、全員一緒に過ごした。 父母としては一般家庭と外見上は変わらない子との接し方をしており、離婚を説明していないが、長男は何となく分かっている様子である。 母は、離婚後は父役割も負わなければと考え、自信を失って不安定になったが、父が子との交流によって父役割を継続させ、子も楽しむのを見て、気分的に楽になっている。
(6)父子面会(回答者父)[8年前に別居・4ヶ月後に調停離婚]
 不定期に月1回程度父から電話し、母が長男(12)と次男(11)を送迎し、遊園地、食事、登山などその都度異なる過ごし方をする。 時間は半日から1日程度であるが、年に3回ぐらいは父のところに泊まる。面会では初めは表情が固いが、30分程度で打ち解けてくる。 入院中の父の友人を一緒に見舞うなど社会経験を積ませることに留意している。
(7)母子面会(回答者母)[5年前別居後協議離婚]
 5人の子のうち4人は成人し、三男(14)の親権者は母であるが、父が引き渡さず、最終的には子が自分の意思で父のところに残り、 代わりに母子の面会交流がなされている。4年前に母は再婚したが、授業参観には欠かさず遠距離から出席している。 父の要求あるいは了解のもとに、三男らとホテルで一泊、遊園地に連れて行ったこともある。母宅へ連れて行くことは父が了解していない。 月に1、2回、日帰りあるいは1泊で、母が子に会いに行っている。母は、子が父を尊敬するように、父のよいところを話すようにしている。
(8)母子面会(回答者母)[2年前協議離婚]
 長女(8)と長男(5)は父宅におり、「お母さんは勉強に行っているので、家にいない」と言ってあり、離婚したことは話していない。 親や子が希望したときには双方が連絡し合い、母が父宅に出向くかたちで月に 1、2回、3、4時間滞在して父を交えて食事などをする。 泊まることもある。初めの1年ぐらいは、会えば親子とも気持ちが高ぶり、別れれば不安定になるので、父がだんだん会わせなくなっていたが、 1年後に子が会いたいと言い、夏休みに3週間北海道に連れて行ったら、その後、子は落ち着いた。子には友達がいて自分の世界ができてきている。 素直に話すようになり、しっかりしてきた。母に対しては距離をおいて見ている。

3 要援助実施事例
(1)父子面会(回答者父母)[婚姻7年・別居4年・1年半前調停離婚]
 同居期間が短かったので、長男(8)は父母別居の生活しか知らない。当事者同士で面会交流を試みたがうまくいかず、センターに援助を依頼。 母は、事前に連絡さえあれば、父方の親戚との交流を自由に認め、時間も1日の範囲であれば時間の長短・場所を問わない。援助者から事前に母に伝える。 面会中の父子は仲のよい兄弟のように夢中になって遊ぶが、母のできない遊びを子が父と楽しんでいるのを認め、子から解放される1日が母の休養日でもある。 当事者だけの面会では、約束が守られない心配もあるので、第三者の援助が必要と考えている。 最初は援助者立会いによる面会交流が行われたが、今では援助者は連絡調整と送迎されてくる子の受け渡しだけとなり、父子で日帰り旅行にも出かけている。
(2)父子面会(回答者父母)[婚姻4年半・別居3年半・3年前裁判離婚]
 援助者が双方の連絡調整、立会い、送迎されてくる長女(7)の受け渡しを行うかたちで3年続いている。 父が申し入れ、母が日時・場所を指定している。取決めでは月1回であるが、子の都合を理由に実質年5、6回だけ実行。 1回1、2時間を目処に水族館、遊園地、映画などに連れて行く。父は、毎月の面会、時間延長、親戚と会わせたいなどの希望を持っているが、 強く求めると面会そのものが中止になることを恐れて、母の条件を受け入れている。 最近、長女から母へ短すぎる面会時間への不満が伝えられ、援助者からも年齢相応の面会内容の変更を助言されている。 長女が父の存在を意識するだけの面会であるが、母は長女が面会を楽しんでいることは分かっており、面会の様子を母に自由に伝えられるように態度には気をつけている。 父は、長女にとって楽しい経験になるように努力している。
(3)父子面会(回答者母)[婚姻5年半・別居2年半・3年前裁判離婚]
 母は、長男(6)にとって面会交流が必要なことは認めているが、子に父母が争っている姿を見せたくないために、第三者に入ってもらうことを条件に応じた。 援助者が事前に連絡し、立ち会う。場所は当センターかその建物内と決められているが、父は遊園地などに連れて行けるもっと自由な面会交流を求めており、 援助者に説得されたりしている。母は、長男が父と会うことを喜んでいるのは分かっているが、長男は、面会後はいつも疲れてぐったりしており、発熱したこともある。
(4)父母双方面会(回答者父母)[婚姻15年・別居3年・1年半前裁判で和解し協議離婚]
 長男(11)は父、次男(8)は母が親権者。和解での合意にもかかわらず自主的な面会交流はできず、第三者の援助による方法を双方が受け入れ、 父母の直接的接触を要しない面会交流が始まった。初回は双方が援助者の立会いのもとで3時間の面会が実施されたが、2回目以降、母は履行しているが、 父は長男が会いたがらないとの理由で母のもとに連れて来ない。 長男と母との面会交流が続くと、長男が母方で暮らしたがるようになることを父は心配しているのではないかと母は思っている。

4 よきパートナーとしての面会交流を
 面会交流は子どもの健やかな成長を願って、離婚した父母ガ協力して実施するものです。そのためには、父母がよきパートナーとなっていることが不可欠です。 この調査からそのための要因を探ってみると、次のようなことが見出せました。
@ 離婚への肯定感
 当初は恨みや怒り、死にたいなどの気持ちになったとしても、今はやり直せてよかった、気持ちが楽になったなどの表現で、離婚を肯定的に受け止められるようになっている。
A 自己洞察
 過去の自分の問題点が認識できると同時に、落ち込んでしまうのではなく、成長して、自信を回復した現在の自分を肯定的に受け入れている。 自分の依存性と相手の努力に無自覚だったという心情から、責任感が育ち、歩み寄りが必要という心情への変化が見られる。
B 相手への肯定感
 相手への怖れ、嫌悪、非難、攻撃のことばがなく、大人になった、柔和になった、詫びの気持ちが感じられた、感謝している、相談し合える友達になれる 、許したいなど、相手の成長、変化を認めている。
C 面会交流への肯定感
 子にとって別居親との接触の必要性及び親子が交流を楽しみ喜んでいる子の心情への理解がある。 同居親は面会交流が自分にとって実利的価値があることを認識し、父母は子のいろいろな反応など困難に遭遇しても、継続への努力をして安定した現状に到達している。
D サポート資源の存在
 ひとりだけで解決に取り組まず、少なくとも父母のいずれかに弁護士、カウンセラー、サイト仲間、自助グループ、職場仲間など解決を共にした伴走者が存在している。 あるいは当センターのセミナーに参加し、解決に役立つ情報を得ている。その上、会場にあふれる同じ悩みの仲間の存在に、自分だけが苦しんでいるという孤独感、 不当感を脱して連帯感と勇気を得たという体験を持っている。

5 おわりに
 子どもと同居している親は、別居している親も子どもにとってはかけがえのない大事な親であること、面会交流はもう一人の親に会って交流する子どもの権利であって、 子どもの福祉を害しない限り認めなければならないことを認識する必要があります。 また、別居している親は、面会交流は自分の一方的な権利ではなく、子どもの健やかな成長に資するために認められるものであり、 子どもに接するときも同居している親のよきパートナーとして振る舞う心構えが必要です。

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