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 両親が離婚することになると、どちらの親が子を引き取るか、他方の親と子の交流はどうするかといった 子の監護に関することが問題になります。アメリカではこの問題をめぐって熾烈に争う両親 (ここでは高紛争家族という)のケースが増えています。 子が紛争に巻き込まれ健全な成長を阻害される恐れがあるばかりでなく、 頻繁に訴訟を持ち込まれる裁判所も対策に苦慮するようになりました。 最近多くの分野で訴訟による紛争解決の限界が認識されるようになり、調停、 仲裁などADR(代替的紛争解決)の手続が盛んに利用されるようになっています。 子の監護に関する紛争についても、アメリカではADRの一つとして ペアレンティング・コーディネーション(Parenting Coordination 子の監護調整、本稿では監護調整と略記する)という方法が考え出され、 ほとんどの州で実施されるようになりました。この新たな取り組みを紹介し、併せてわが国におけるこの問題のあり方も考えてみたいと思います。 主たる参照文献は、C.A.Coates他“PARENTING COORDINATION FOR HIGH-CONFLICT FAMILIES”(FAMILIY COURT REVIEW, Vol.42 No.2, April 2004)です。

高紛争家族への対応

 離婚に伴う怒りや苦しみを克服できない元夫婦は、離婚後何年もこの感情をひきずり、相手への激しい怒りや不信感をもち続けます。 こうした両親は離婚後子の監護を巡って争い、面接や電話連絡を妨害し、休暇中の計画、 放課後の活動、健康管理など日常的な事柄で話し合うことができず、また裁判所にもち込みます。 その度に相互の憎しみは増幅し、子も争いに巻き込まれます。 両親が離婚しても子はいずれの親とも関わりを続けることが健全に成長するために必要だとされていますが、 こうした両親の紛争が子に与える影響はきわめて重大で、離婚自体の影響よりむしろ深刻であるという報告もあります。
 裁判所も高紛争家族の両親が繰り返しもち込む子の監護に関する事件への対応に悩まされてきました。その結果、裁判所は紛争の解決のためには、 単に監護に関する決定をするだけでなく、子の監護のために両親間に協調的な関係を作り上げることが必要であると考えるようになったのです。 また裁判所の任務は基本的には申立てに判断を示すことにあるとされています。 しかし子の監護に関する紛争には継続的に対応することが必要であると認識されるようになり、 監護調整を行うペアレンティング・コーディネーター(監護調整人、本稿ではコーディネーターと記す)という職種が導入されました。

監護調整とコーディネーター

 1990年代の初頭に、二、三の裁判所で期せずしてほぼ同時期にコーディネーターが選任されました。 裁判所は、両親の承認を得て家族問題の知識と経験の豊富なサイコロジストや弁護士などをコーディネーターに任命し、 子の監護紛争を解決する調整を行うための限定的な権限を付与しました。 コーディネーターは対審的な手続でなく協調的な関係を築く技法で子の監護調整に当たる専門家として、ミディエーション、 仲裁、評定、ケース管理などの機能をももつADRの一職種と認められ、今や全国的に活動しています。

コーディネーターの役割と対応

 コーディネーターの基本的役割は、その家族に即した監護(養育や面会)計画を作成し実行するのを援助することにあります。 フロリダのコーディネーター法は「子の監護調整とはコーディネーターと呼ばれる中立的な第三者が両親間の紛争の解決を促進し、 当事者に解決案を提示することによって監護計画の実行を援助し、 当事者と裁判所の事前の承認のもとに裁判所の命令の範囲内で決定を行うプロセスである」と定義しています。 コーディネーターは両親が協働する必要のある問題でトラブルを起こしたとき橋渡しをします。 また離婚後の両親が新たにつくる家族に適応するのを援助します。 両親はコーディネーターの行うさまざまなプロセス(教育、ミディエーション、仲裁など)を経験して紛争解決の方法を学ぶことができます。  監護調整を必要とする当事者は性格的な問題を抱えていることが多く、コーディネーターを味方に引き入れようとしたり、 逆にコーディネーターに反発したり専門職としての義務に違反したとして懲戒の申立てをしたり…といろいろなアプローチをしてきます。 また監護の変更についてコーディネーターの意見や協力を求めたり、当事者への精神医学的治療を期待したりする者も多いのですが、 コーディネーターはこうした権限外の事項に対応することはできません。 コーディネーターは両親に対して確固とした中立性を保持しその役割の範囲を守ることが大切です。 そのためにコーディネーターの役割と可能な援助の限界を文書化し、選任時に当事者の承認を得ておくことが必要です。  その他さまざまな実務上の課題に対処し、義務違反の訴えなどのリスクを避けるために、教育と資格、役割とその限界、守秘義務、 インフォームドコンセントなどを明確化したコーディネーターの専門職としての行為規範が早急に作成されることが求められています。

監護調整に適するケースと効果

 現在のところ裁判所がコーディネーターを任命するケースで多いのは、裁判官、評定者、 当事者の弁護士などが裁判所の決定があった後も両親間の紛争が継続すると予測する場合、 あるいは審理の段階ですでに両親が決定内容の実行に協力する見込みが少ないと予測する場合です。 紛争性が高いケースでも親に人格障害、精神的疾患があったり、虐待が原因で紛争を繰り返したりするケースには監護調整は適当ではありません。 具体的にどんなケースに監護調整が有効か今後の事例の集積により実証し、選定基準を確立することが必要です。  監護調整の効果については今後の実証的研究が待たれますが、カリフォルニア州では監護調整実施以前には、 高紛争家族166件のケースが再申立てやその他の用件で年間993回裁判所に現れていたのが、実施後は37回になったという報告がなされています。

監護調整に関する法的問題

 監護調整は全国的に利用されるようになりましたが、裁判所が必要に迫られ法的整備が整わないままに実施され始めたため各州での扱いはまちまちです。 その役割や機能を定めた法律を制定した州もありますが、ほとんどの州では制定法はなく他の法律や判例によっています。 また実務の面でもそのあり方が明確にされないまま活動が先行してきました。そのために監護調整は法的、実務的にさまざまな課題を抱えており、 各州で対応を模索している段階です。  特に重要なのは、@コーディネーターが事件に介入して行う事実の認定と決定が裁判所の決定権を侵害するのではないかという権限の問題、 A決定が出て事件の係属が終了した後も活動が継続するコーディネーターを裁判所は選任することができるかという裁判権の問題、 Bコーディネーターの選任は子の監護方法の決定に関する親の基本的な権利を侵害しているのではないかという憲法上の基本的人権の問題です。

監護調整の将来の展望

 上記のような問題が指摘されているとはいえ、監護調整が今や全米で実施されている状況を考えると、 離婚後の両親の紛争を抑えるための継続的サービスの提供がますます必要となることが予測されます。 すべての離婚家族を、裁判所の介入がなくても両親が協力して子の監護を継続できるケースを底辺に、 両親の紛争が熾烈で裁判所の介入なくしては協働できないケースを頂点にした三角形を描いて全体的な視野で見るとき、 紛争性の低い家族に対しては教育プログラムや簡単なミディエーション、紛争性が高まるにつれ高度なミディエーション、 個別的、集団的カウンセリングや法律家との協働、最終的には裁判所の介入など次第に強力な手段が求められることになります。 この中で紛争性の高い両親を対象に展開されている監護調整は、離婚後の紛争を抑える役割で大きく貢献することができると思われます。

わが国では

 わが国でも離婚後の子の監護の問題、特に親子の面会交流の困難な事件が増大しています。 調停や審判で親子の面会を決めても守られない例が多く、再申立てや履行確保の申し出が増えています。 家庭裁判所では家庭裁判所調査官という人間関係を扱う専門職がこうした解決困難な問題に関わり、 子の意思を確認したりその立会いのもとで試行的に親子を面会させ信頼感を得させるよう努めるなど工夫を凝らしています。 子の意思を尊重するのは当然のことですが、小さい子の気持ちを理解するのはそう簡単ではなく経過を見る必要がある場合もあります。 継続的関与を望む親たちも多いのですが、家庭裁判所でいつまでも事件を係属させておくわけにはいかないでしょう。 本誌平成家族考にもあるように、わが国でも親や子が気軽に相談したり継続的なサービスの提供を受けたりできる機関が沢山あることが望ましいと思われます。  当センターはこうした機関の一つで、家庭裁判所からの紹介や当事者自身の依頼により子の監護に関する相談、 面会交流援助などの業務を引き受けています。 ただ、業務を実施するには事務費や担当者への報酬も必要でこれらのコストは現状では当事者の負担とせざるをえず、 経済的余裕の乏しい親は利用をためらうこともあります。 欧米諸国では低廉な費用でこうしたサービスを受けられるように公的負担がなされていますが、わが国でも同様の措置が望まれます。

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