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◆平成家族考 31

 マスコミでは相変わらず児童への虐待事件が報じられています。児童虐待の原因については、本誌第10号、第30号などでも取り上げたように、いろいろな要因が指摘されていますが、 一口でいえば、育児をする人にとって育児が大きなフラストレーションを引き起こしているということでしょう。
 合計特殊出生率(その年度に15歳から49歳の各年齢の女性が子どもを生んだ率の合計)から見ると、平成14年度では1.32となっていますから、 現在の若い夫婦が育てる子どもの数は1人かせいぜい2人ということになります。4人も5人も育てていた昔に比べると、その点での負担はかなり少なくなっているはずです。 そのうえ、紙おむつのような便利な育児用品なども大量に出回り、モノや便利さにおいては昔よりずっと楽に子育てができるようになっているはずです。
 それでもフラストレーションが高じてきている理由としては、まず、女性が子育てと仕事の両立を図りながら社会的役割を果たしたいと考えているのに、 家庭ではお父さんの協力が不十分なため、子育てが依然としてお母さん一人の「孤育て」になっていること、子育てと仕事を両立させるには就労環境や就労条件の整備が不十分なため、 お母さんやお父さんを追い詰めていること、昔に比べて家族の中にも近隣にも子育ての手助けをしてくれる人が少なくなっていること、 それらを補おうとして外注に頼るとお金がかかりすぎることなどが挙げられています。 仕事と子育ての両立支援策については、政府も平成13年の閣議決定に基づいて遅くても平成16年度までには計画のすべてを実施することになっています(本誌第25号参照)。 それに沿って各自治体も子育て支援に力を入れていますが、民間のボランティア団体やNPO(特定非営利活動組織法人)が全国的に子育て支援を展開し始めています。
 本号では、政府の取組み方針の骨子やインターネットのホームページに見るNPOなどが行っている子育て支援の実際を紹介してみたいと思います。

1 政府の「仕事と子育ての両立支援策の方針」
 政府は平成13年7月6日に「仕事と子育ての両立支援策の方針について」の閣議決定をしていますが、その方針の主なものは次のとおりです。
 まず、両立ライフに向けて職場改革を掲げ、具体的目標・施策としては、事業主が所定外労働時間の削減を図り、フレックスタイム制や短時間勤務等を導入できるよう積極的な支援を行うとしています。 また、待遇面や仕事の内容は正社員と同じでパートタイマー制度、短時間正社員の制度導入を支援するとしています。
 さらに、育児休業制度と出産休暇の十分な活用を奨励し、特に男性の育児休業取得を勧め、配偶者の出産時における父親の休暇について、 育児休業の制度を活用して取得が可能であることを広くPRするとしています。
 保育サービスについては、待機児童ゼロ作戦として、保育所、保育ママ、幼稚園における預かり保育等を活用し、平成16年度までに15万人の受け入れ児童数の増大を図り、 施設の運営は民間を極力活用し、最小コストでの実現を図るとしています。新設保育所は、学校の空き教室等の既存の施設等を活用してNPO等の民営で行うことを基本としています。 多様で良質な保育サービスを確保するために、公営保育所においても民営なみの延長保育を目指し、一時保育、休日保育など多様なサービスを実施するとしています。 駅前や商店街等における各種保育サービス、郊外の保育所への送迎サービスなどへの助成を行うとしています。
 学童期の子育て支援については、必要な地域すべてに放課後児童対策を推進することを掲げ、放課後児童クラブなど放課後の児童の居場所を整備し、 新設にあたっては学校の空き教室などを利用し、地域の高齢者などの人材を活用し、平成16年度までに全国で15,000箇所を確保するとしています。  最後に、地域こぞっての子育てを掲げ、ファミリー・サポート・センターを整備し、良質なベビーシッター探しを支援し、親に対する子育て支援サービス(子育て学習や相談体制の整備など)を充実させ、 地域の多様な人材を子育て支援に活用する仕組みづくりを進めることなどを盛り込んでいます。
 その後、平成15年3月には「次世代育成支援に関する当面の取組方針」を少子化対策推進関係閣僚会議で決定して、家庭や地域の「子育て機能の再生」を一段と推進することを図っています。
 しかし、保育所と幼稚園の一本化の問題一つを見ても分かるように、縦割り行政の中での省庁間の連携には難しいところもあるようです。

2 ホームページに見る子育て支援のいろいろ
 インターネットで「子育て支援」を検索すると、数百件のホームページが表示されます。大都市はもとより小さな町村に至るまで、各地で行われている子育て支援の実際を知ることができます。
 市町村役場の福祉課や社会福祉協議会などのホームページもありますが、その多くはボランティアグループや特定非営利活動法人(NPO)が行っている支援活動です。 それも、妊娠中のお母さんや生まれたばかりの赤ちゃんを持つお母さん・お父さんの心配事の相談などから、中学・高校生の子どもの不登校・家庭内暴力・引きこもりなどに至るまで、 子育て全般にわたっての支援態勢が見られます。
 ホームページに掲げられている支援活動のいくつかを紹介してみましょう。
(1) 生まれたばかりの赤ちゃんについての心配事への支援
 若い夫婦が初めて赤ちゃんを育てる場合、いかに協力的で理解のあるお父さんであってもお母さんの不安や心配事の解消にはあまり役に立たないようです。 それは赤ちゃんの世話をしていると、次から次に些細なことが気になるからです。例えば、「なるべく母乳で育てたいのに、哺乳瓶からミルクはよく飲むのに、 母乳をやっているとすぐ乳首を離してしまうのはなぜ?」、「オムツを替えているとすぐしゃっくりを始め、いつまでも続くけれどよいのかしら?」、 「毎日沐浴させているのに、頭にガビガビができたけれどどうすればよいの?」、「ホッペに湿疹が出てきたけれど、お医者さんに診てもらう必要があるかしら?」といったようなことです。
 新米のお母さんは早速育児書を見たり、産院の母親教室で知り合った仲間にケータイのメールで相談したりしますが、なんとなく不安が残ります。
 そのようなときの心配事に応えると思われるものの一つが、尅蜊纒{助産師会のホームページです。一人で迷ったり、悩んだり、不安になったとき、 育児を応援する私たちがいることを思い出してくださいとあります。ベテランの助産師が24時間無料で電話相談に応じています。 育児だけではなく、妊娠中のこと、お産のこと、不妊、家族計画、思春期の悩み、更年期障害のことなど、何でも相談に応じているようです。
 同じように、日本助産師会神奈川支部のホームページにも同様な支援活動を行っていることが掲示されています。 日本助産師会は東京に本部を置く全国組織のようですから、各地区で同様の支援活動を行っているのではないかと思われます。
(2) 子育てで疲れイライラしているお母さんたちの支援
 一人での子育てにイライラしたり、悩んだり、不安になったりして疲れているのに、誰にも悩みを聞いてもらえない、 話し合う仲間もいないというお母さんたちを支援しようというボランティア団体のホームページはたくさん見受けられます。  埼玉県所沢市のNPO「花ぶどう」もその一つです。ぶどうは小さな粒が寄り添うようにして一つの大きな房になっていますが、 孤独で不安な一人一人が支え合うことで力を得て共に豊かになっていこうというのが名前の由来とあります。
 カウンセラー、子育てアドバイザー、看護師などのスタッフ1?2名と一緒に、子どものしつけがうまくいかない、家族関係や対人関係に関する不安や悩みがある、 家にこもりがちで話し相手がいない、人づき合いがうまくいかない、自分の生き方を探しているなどの内容を話し合う、コミュニケーションスペースを提供する支援活動を行っています。
 三重県久居市のNPO「どんど」は、子どもと子育て家庭の居場所づくりを目指し、地域子育てセンターAAA(トリプルエー)を運営しています。トリプルエーとは、 「いつ来てもええ・だれが来てもええ・泊まっていってもええ」という24時間対応の子育て支援センターとのことです。名前の「どんど」とは、 人々の生活を守るために江戸時代に造営された用水路のことで、行政の手の届きにくいところへ、NPOという用水路で子育て支援に取り組みたいという願いが込められているとのことです。
 NPO北海道子育て支援ワーカーズ「かざぐるま」は、「あなたの子育て応援団」を標榜し、あなたの周りに応援団がいないときや、いても協力が得られないとき、 わたしたちを利用してくださいという。保育のプロが良質のおもちゃと、楽しい遊び、有用な子育て情報を持参して、いつでも、どこでも、お伺いしますとうたっています。
 金沢市の「いしかわ子育て支援財団」は、少子化が進む中、子どもを生み育てやすい環境をつくることを目的として、石川県の全額出資によって設立された財団とのことです。 「われら子育て応援団」の旗印のもとに、子育て支援データバンク、子育て24時間保育情報の提供事業や、 「こどもダイヤル相談」やデパートなど休日相談室の開設などの子育て相談事業を行っているとのことです。 また、「預ける」「集う」「相談する」「利用する」の4つのテーマ別に子育て支援情報を紹介したり、「子育て応援ダイヤル24」や「パパの育児手帳」などの冊子も発行しています。
 東京都の「こども未来財団」は、300億円というこども未来基金をもとに、子どもたちが健やかに育つための環境づくりを支援するさまざまな事業を行っています。 家庭や地域の子育て支援としては、親子よろこびの広場助成事業、事業所内保育施設運営適正化事業、ベビーシッター育児支援事業、駅型保育試行助成事業などを行っているとのことです。
 高松市の香川県健康福祉部子育て支援課総務・少子化グループは、「子育てボランティアおしえ隊」を派遣しています。 子育てボランティアや子育てサークルからの要請を受けて、その団体に応じた活動の進め方をアドバイスするとのことです。 隊員によって教えたい内容も異なっており、子育てボランティアの組織づくりの取組み、託児の方法での工夫、母親たちの悩みやニーズ、レクリエーション、 簡単なおもちゃづくりなどいろいろなものがあります。
 そのほかにも、多くの自治体の福祉課、ボランティア団体、保育所、幼稚園などが子育てについての相談業務を行っています。
(3) いざというとき赤ちゃんを預かってくれる支援活動
 小さな赤ちゃんを抱えていると、近所の店への買い物にも困ることがあります。もっと大きくなった子どもでも、共働きの家庭の場合、 保育所や幼稚園にお父さんもお母さんも夕方お迎えに行けないこともありますし、子どもが風邪を引いたりすれば保育所や幼稚園は預かってくれないので、 お父さんかお母さんのどちらかが休暇を取って家にいるしかありません。このような急な場合でも、子どもを預かってくれるところがあればどれだけ助かることかと思います。
 千葉市のNPO子育て支援グループ「ハミングちば」は、子育ての「応援を受けたい方」と「応援したい方」とがお互い会員になって、 助け合っていこうというボランティア組織です。例えば、残業・出張・休日出勤・病後児など、子どもの一時預りや幼稚園・保育所・学校・塾・習い事などの送迎をしたり、 産前・産後や親が病気のときのお手伝いをしたり、冠婚葬祭・通院・美容院・社会復帰のためのカルチャースクールなどで子どもの預け場所がない場合の一時預りをしているとのことです。
 日本ではベビーシッターの派遣組織はまだ少ないように思われます。ホームページでは、 福岡市の「マーマ福岡・ベビーシッター」や愛知県の子育て支援ネットワーク「チャイルドマインダーひだまり」などがあります。
 組織化されていなくても、近所のおばあちゃんの○○さんが預かってくれるという情報が口コミで伝えられることも多くなっているようです。 高齢社会の利点の一つは、元気なお年寄りが近隣にたくさんいることです。 平素付き合いがないため、近くに「教え隊」、「助け隊」がいても活用できないままになっていることはもったいないことです。何とか組織化する方法を講じたいものです。
(4) 子育て支援の輪を広げる支援活動
 東京の將キ寿社会文化協会(WAC)は、平成11年度から社会福祉・医療事業団の助成を受けて、「地域三世代子育て支援委員会」を立ち上げ、 シニアの生きがいづくりの一環としての子育て支援活動のあり方についての調査研究を始め、平成12年度から仙台、東京、大阪、福岡、名古屋などで、 それぞれ100人規模のシニアを対象にした研修会を重ねています。また、多くの地域でモデル事業を実施し、新たな子育てに関わるグループを生み出しているようです。 ここで作成している分厚い研修テキストや報告書には、各地域でのボランティア団体の子育て支援の報告や講師の講演内容などが詳細に掲載されており、 子育て支援の輪を広げるためにもたいへん参考になると思われます。
 そのほか地方自治体や多くの財団などが、支援の輪を広げる援助や助成活動を行っています。

 ホームページにある子育て支援のいくつかを例示しましたが、お近くにもいろいろな支援組織があると思いますので、ご自分で探して、場所、内容、利用条件等の詳細を把握したうえでご利用ください。

 FPIC会員が書いた本の紹介

瓜生 武 『家族関係学入門-ケースで学んだ家族のライフコース』
      日本評論社 定価(本体1700円+税)
 本書は、当センターの専務理事である著者が、当センターで行った10回連続セミナーの内容を記録化したものです。
 最寄の書店で購入できないときは、当センターの事務所に電話かファックスでお申し込みください。

 
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