家庭問題情報誌ふぁみりお 第20号
 戦後の混乱もまだ治まらない昭和24年に、「家庭に光を、少年に愛を」という標語を掲げて誕生した家庭裁判所は、それから50年、いまでは国民の家庭生活にもっとも身近な裁判所として定着してきています。健全な家庭生活の実現に貢献することを目的に設立された当センターとしては、家庭裁判所創設50周年を記念して、少しでも多くの人に家庭裁判所について知っていただくために、この特集を企画しました。

(*この企画には、最高裁判所事務総局家庭局の協力を得ました。)

第1 家庭裁判所全般について
1 家庭裁判所はいつできたの?
1 家庭裁判所は、新しい憲法の理念のもと、家庭の平和と少年の健全育成を図ることを目的に、家庭に関する事件を総合的かつ専門的に扱う裁判所として、昭和24年1月1日に創設され、今年で50周年を迎えました。

2 家庭裁判所は全国に何カ所あるの?
2 家庭裁判所は、都道府県庁所在地および函館市、旭川市、釧路市の合計50カ所に本庁が置かれています。そのほか主要な都市203カ所に支部があり、そのうち102支部においては家事事件、少年事件の両方が扱われ、101支部においては家事事件のみが扱われています。さらに交通不便な地など77カ所に家事事件のみを扱う出張所があります。

3 家庭裁判所はなぜできたの?
3 家庭裁判所ができるまでは、家事事件は家事審判所で、少年事件は少年審判所でそれぞれ別個に取り扱われていました。しかし、家事事件も少年事件も同じ家庭に関する問題ですので、法律的な判断だけでなく、心理学、教育学、医学などの科学的専門的な見地から、家族間の紛争や少年の非行の背後にある本当の原因や事情を探ったうえ、それぞれの問題に応じた適切妥当な措置をとり、それによって将来、再び非行や紛争が起こらないように働きかけることが大切であるという新しい考え方に立って、家庭裁判所という一つの裁判所として発足したのです。

4 家庭裁判所の特色はどんなこと?
4 家庭裁判所の大きな特色として、「社会性」、「個別性」、「科学性」などが挙げられます。例えば、家事事件では、社会の良識や時代の感覚を踏まえた解決が図られるよう、豊富な社会経験をもつ民間の人たちから調停委員や参与員を選んで、裁判官とともに紛争の解決に当たる制度が設けられています。また、家族紛争や少年非行の多くは、夫婦、親子の人間関係のもつれ、少年の生い立ちや性格など、いろいろな原因が複雑にからみ合っています。そこで、それぞれの個別の事件ごとに、原因や背景を明らかにし、最も適切な対応策を見いだすよう努めています。また、このため心理学などの人間関係諸科学の専門家である家庭裁判所調査官が、事件の調査や人間関係の調整に当たっており、さらに、医務室も設けられ、医師や看護婦が必要に応じて医学的な診断などを行っているのです。

5 家庭裁判所ではどんな事件が扱われているの?
5 家庭裁判所は、家事事件と少年事件を専門的に扱う裁判所です。家事事件とは、民法その他の法律で定める家庭に関する事件を指し、離婚、扶養、遺産分割のような夫婦、親族間の紛争や未成年者の養子縁組の許可や後見人の選任などの事件があります。少年事件とは、少年法その他の法律で定める20歳末満の非行少年、つまり、罪を犯した少年や罪を犯すおそれのある少年などの事件をいい、この場合の少年とは男子女子の両方を指します。

6 地方裁判所の訴訟と家庭裁判所の審判・調停はどう違うの?
6 地方裁判所の訴訟では、公開の法廷で当事者双方が提出する証拠に基づいて事実関係を確定し、法律を適用して権利義務の存否を決めます。
 一方、家庭裁判所の審判・調停は、非公開で審理されます。また、調停は形式的な手続にとらわれずに、当事者が裁判官、調停委員を交えて、なごやかな雰囲気で話し合いを進め、条理にかなった紛争の解決を自指します。

7 家庭裁判所にはどんな役割の人がいるの?
7 家庭裁判所には、法律に関する深い知識と高い識見をもって審判その他の決定をする裁判官、裁判に関する記録や書類を作成し、事件の進行のマネージメントをする裁判所書記官、事実の調査や人間関係の調整などを行う家庭裁判所調査官、少年や事件の当事者の心身の状況などの診断を行う医務室技官(医師、看護婦)、裁判所の庶務、人事、会計などの仕事をする裁判所事務官などがいます。
 このほかに、家事事件の処理に民間の人々の知識、経験を生かすために選任されている非常勤の家事調停委員と参与員がおり、重要な役割を果たしています。

8 家庭裁判所の裁判官はどんな仕事をするの?
8 家庭裁判所における裁判官は、審判手続においては、紛争となっている事柄や非行に関する事実関係を正確に把握して認定し、それに基づいた判断を行います。例えば、家事事件では、離婚したあとの子どもの養育料はいくらにするか、夫婦の財産や親の遺産をどのように分けるか、氏名の変更を許可するかなどを決めることになります。また、少年事件では、少年の更生のために、少年院に送致するのか、保護観察所の指導にゆだねるのか、特別な措置は行わないことにするのかなどを決めます。
 それと同時に、調停や審判手続を主宰するという重要な役割があります。異体的には、裁判所書記官、家庭裁判所調査官、調停委員などの専門的スタッフを指揮して、審判や調停のために必要な資料を収集させたり、事実関係を調査させたり、事件の当事者の説得に当たらせたりして、家事事件、少年事件を適正妥当な解決に導くという仕事をしています。

9 家庭裁判所調査官はどんな仕事をするの?
9 家事事件では、当事者それぞれが感情的になって、理性的な判断ができなくなっていることが多いものです。裁判官の指示を受けた家庭裁判所調査官は、夫や妻などに会って事情を聴き、争いとなったいきさつや原因、夫や妻の真意などを把握したうえで、具体的な解決策を検討します。夫や妻が心情的に不安定になっていれば、落ち着いて話合いができるようカウンセリングを行うこともありますし、家庭訪問や心理テストを行って子どもの心情を把握し、子どもの幸せを中心に考えた解決ができるよう助言することもあります。
 少年事件では、少年、保護者などに会って話を聴き、非行に至ったいきさつ、生い立ち、家庭や学校、職場での様子、友人関係などについて明らかにします。家庭や学校を訪問したり、心理テストなどを活用し、少年が自分の問題点に気づくよう働きかけたりして、少年の立ち直りに必要な措置を検討します。
 こうした家庭裁判所調査官の仕事の結果は、裁判官に報告され、事件の解決のためにさまざまな形で活用されます。

10 裁判所書記官はどんな仕事をするの?
10 裁判所書記官は、記録を保管し、家事事件や少年事件の審判や調停に立ち会って、どのような手続や発言があったかなどの経過を書き留め、これを調書等に書類化する仕事をしています。また、裁判官や家庭裁判所調査官のほか、家事事件であれば、当事者や事件の関係者、調停委員、少年事件であれば、少年、保護者、少年鑑別所、児童相談所、警察などの関係機関などと連絡を取り合うなどの、審判や調停をスムーズに進行させるというマネージメントの役割も担っています。

11 医務室の医師や看護婦はどんな仕事をするの?
11 医務室技官の医師や看護婦は、家事事件および少年事件の処理の過程で、裁判官や調停委員からの求めに応じて、当事者や少年について医学的診断をしたり、専門的見地からの助言をしたりする仕事をしています。また、医務室では、家庭裁判所に来ているうちに具合が悪くなった事件関係者に対する応急の手当なども行っています。

12 調停委員はとんな仕事をするの?
イメージ(調停委員・参与員) 12 調停委員は、紛争の解決に必要な専門的知識をもっている人や社会生活のうえで豊かな知識経験をもっている人のなかから、最高裁判所によって任命され、所属庁が定められます。調停は、調停を主宰する裁判官と通常は男女各1人ずつの調停委員の3人で調停委員会を構成して進められます。
 夫婦、親子、兄弟姉妹など親族間の紛争は、骨肉の争いといわれるように、感情的になって意固地になっていたり、精神的に混乱していたりする場合があります。単に、権利義務などの理屈だけでは割り切れない要素をたくさんもっています。調停委員は、そのことを十分認識して、公平な立場から当事者の言い分をよく聴き、冷静な話し合いができるように粘り強く説得し、解決のために懇切に助言し、条理・利害を説いて、当事者が現実的な解決のために歩み寄るように調整します。最終的には、当事者が合意すれば調停は成立し、合意が得られなければ不成立となり、終了します。このような調停を裁判官とともに運営するのが調停委員の仕事です。

13 参与員はどんな仕事をするの?
13 家庭裁判所は、毎年、徳望良識のある人のなかから、参与員となるべき者を選任します。参与員として指定されると、家事事件の審判に立ち会ったりして、良識や専門的分野の知識経験、豊かな社会経験、人生経験を生かして裁判官に意見を述べたり、意見書を提出したりします。このように、参与員は、事件の実情に即した適正妥当な処理を図るため、裁判官を補佐するのが仕事です。

14 プライパシーや秘密は守られるの?
14 家庭裁判所の手続は非公開を原則とし、そこで仕事をする裁判所職員は国家公務員としての守秘義務を負っており、非常勤職員である調停委員や参与員も裁判所職員と同様の守秘義務を負っていますので、家事事件の当事者や少年のプライバシーや秘密は守られます。
第2 家事事件について
15 家事事件にはどんな種類かあるの?
15 家事事件は、審判事件と調停事件に分かれています。審判事件は、さらに甲類事件と乙類事件に分かれます。
 甲類事件には、子の氏の変更の許可、相続放棄、名の変更の許可、後見人の選任、養子縁組の許可などがあります。これらの甲類事件は、当事者が対立して争う性質の事件ではなく、公益に関することでもあることから、もっぱら審判によって処理されます。
 乙類事件には、親権者の指定・変更、遺産分割、養育料の請求など子の監護に関する処分、婚姻費用の分担事件などがあります。これらの事件は、当事者が対立して争う性質の事件であることから、調停での当事者間の話合いによる自主的な解決が期待されますが、調停が不成立のときは、審判によっても処理されます。
 調停事件は、家庭に関する事件で、夫婦関係の調整、離婚等が代表的なものです。離婚、離縁など人事訴訟の対象となるものでも、家庭に関する事件は、原則として訴訟を提起する前に家事調停を経ることになっています。

16 家事相談はどのようにすればよいの?
16 家庭裁判所では、家庭裁判所の手続を利用しやすくするために、相談に訪れた人の抱えている問題が家庭裁判所の審判・調停手続において扱うのに適しているか、適している場合にはどのような申立てをすればよいかなどについて、無料で相談・助言を行っています。他の役所や施設を利用したほうがよい場合には、適宜その案内もしています。家庭や親族に関する問題でお困りの方は、遠慮なく家事相談窓ロを利用されることをお勧めします。

17 家事事件の申立ては難しくないの?
17 申立てをするには、家庭裁判所に解決してほしいことがらやその他の事情など一定の事項を記載した「申立書」を家庭裁判所の受付に提出します。申立書の書き方などについては、説明書も置かれていますし、受付係が丁寧に説明もしてくれます。必要な場合には口頭でも申立てをすることができますので、少しも難しいことはありません。申立てに際しては、戸籍謄本等の必要書類を添付することが求められますので、窓口で確認してください。手続の概要については、電話とファクシミリによって分かりやすい案内を行っているところもあります。

18 どこの家庭裁判所に申し立てればよいの?
18 親族間の紛争を調停してもらうためには、原則として相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てることになります。審判事件については、規則でことがらによりどの裁判所に申し立てるか決められています。しかし、問題の解決には、決められた裁判所以外の裁判所で扱うほうがよい揚合もありますので、とりあえず最寄りの家庭裁判所に相談するとよいでしょう。

19 申立費用はどのくらいかかるの?
19 家庭裁判所に納める申立手数料は、1件につき調停の揚合は900円、審判の場合は事件の種類によって600円または900円です。このほか、当事者・関係人に対する呼び出しや連絡のために使用する郵便切手を納める必要があります。

20 審判の申立てをしたあとの手続はどうなるの?
20 まず、申立ての際に提出された書類を、書記官がチェックします。判断に必要な情報を収集するために、裁判官が家庭裁判所調査官に事実の調査(家庭裁判所での面接や家庭訪問など)を命じた場合には、調査日時の連絡が届くことになります。また、裁判官が直接、当事者に事情を聴くこと(審問といいます)もあります。審問の際には、参与員(Q13参照)を立ち会わせ、その意見を参考にすることもあります。
 最終的に裁判官は、提出された書類、家庭裁判所調査官の調査結果、自らが行った審問の結果などに基づいて判断し、その内容を記載した審判書を作成します。
 審判の内容に不服がある場合には、事件の種類にもよりますが、審判書を受け取ってから2週間以内に不服の申立てを行い、高等裁判所による再審理を求めること(即時抗告といいます)もできます。

21 調停の申立てをしたあとの手続はどうなるの?
21 調停の進行は、裁判官と通常は男女1人ずつの調停委員2人(場合によっては3人以上)によって構成される調停委員会が行います。
 調停委員会は、当事者や関係人から、それぞれの言い分を十分に聴きながら話会いを行いますので、改めて調停期日の連絡が届くことになります。事実が複雑な場合などには、調停期日の前や間に家庭裁判所調査官に調査が命じられることもあります。
 調停委員会は、これらの手続の結果を踏まえ、中立の立場から、双方の利益を公平に考慮した適正妥当な解決案をあっせんし、話合いがまとまれば調停が成立し、合意の内容を書面にすることになります。
 話合いがどうしてもつかない場合には調停不成立となりますが、離婚などの事件では、地方裁判所の訴訟によって解決を図ることもできます。親権者の変更や養育費請求、遺産分割などの乙類事件であれば家庭裁判所の審判手続に移ります。

22 審判や調停にはとのくらいの期間がかかるの?
22 事件の種類や内容の複雑困難さの度合いにより、審判や調停にかかる期間も異なってきますので、一概にはいえません。ただし、平成10年の統計によりますと、事件が申し立てられてから終局するまでの平均的な審理期間は、甲類審判事件で約1カ月、乙類審判事件で約10カ月、調停事件では約5カ月となっています。

23 審判や調停では、弁護士を頼む必要があるの?
23 審判も調停も、必ずしも弁護士を頼む必要はありません。受付では、申立ての方法を教えてくれますので、それに従って申立てをすることができます。また、調停や審判では、当事者本人が出頭することが原則となっており、弁護士を委任しても弁護士に任せきりにして出頭しないということはできません。ただ、当事者の状況や事件の性質によっては、弁護士に委任することが、問題の円滑な処理のために有効な場合があります。

24 相手が調停での約束や審判で命じられたことを守らないときは、どうすればよいの?
24 そのような場合には、調停や審判をした家庭裁判所に申し出てください。家庭裁判所は、実情を調べたうえで、相手に義務の履行を勧告したり、あるいは履行するよう命令したりすることができます。また、地方裁判所で強制執行の手続をとることもできます。

25 離婚をしたい場合はどうすればよいの?
25 離婚をしたい場合は、まず相手(夫または妻)と話し合ってみてください。相手が承知すれば、離婚届(用紙は市役所、区役所など戸籍役場に備えてある)に署名押印してもらい、証人2人(成年者であればだれでもよい)の署名押印を得て戸籍役場に提出すればよいのです。これを協議離婚といいます。この場合、子どもの養育費など重要な約束ごとは公正証書にしておくことも考えられます。
 相手が離婚を承知しない場合や条件が折り合わない場合には、家庭裁判所に調停の申立てをします。双方が調停で話し合って合意に達した場合には、調停離婚が成立します。合意ができなければ、調停では原則として離婚できません。
 それでも離婚をしたいと思う場合には、地方裁判所に離婚訴訟を提起することになります。裁判所は、法律により、配偶者に@不貞な行為、A悪意の遺棄、B生死が3年以上不明、C強度の精神病、の事由があると認める場合のほか、D婚姻を継続し難い重大な事由があると認める場合には、離婚の判決をします。Dの場合とは、要するに婚姻が破綻しているということで、最近ではある程度の期間別居が続いていると、婚姻が破綻していると考えられることがあるようです。

26 離婚する夫婦がどちらも子どもを引き取りたいときは、どうなるの?
26 未成年の子どもがいる場合、親権者をどちらか一方の親に指定しなければ離婚はできません。話合いがつかないときは、調停を申し立ててください。どちらが引き取るのが子どもの福祉によりかなうかを中心にした合意が求められます。離婚後に事情の変更があれば、親権者をもう一方の親に変更する調停・審判を申し立てることができます。必要に応じて子どもの状況などについて、家庭裁判所調査官による調査が行われます。

27 相手が子どもに会わせてくれないときは、どうすればよいの?

27 「子の監護に関する処分(面接交渉)」という調停の申立てをしてください。子どもの福祉のためには、同居していない親と面会することが必要と考えられますので、それを実現するために、父母の協力が求められます。必要に応じて子どもの状況等について家庭裁判所調査官による調査が行われます。調停で面接交渉の回数や方法に合意が得られない場合は、審判で決めることになります。

28 調停で相手が裁判所に出てきそうもないときは、どうなるの?
28 調停は当事者の話合いで進められるものですから、相手が出席しなければ調停をすることはできません。
 突然の調停の呼出しに相手の態度が硬化してしまうことも多いので、あらかじめ家庭裁判所で話合いをしたいので出席してほしいと伝えておきましょう。家庭裁判所が必要と判断したときは、家庭裁判所調査官が相手の出席を確保するために、調停の趣旨を説明し、出席をうながす「出頭勧告」をする場合があります。

29 調停で結論が出るまでは、生活費などをもらうことはできないの?

29 別居中の配偶者(多くは妻)と子または父母離婚後の子は、配偶者または親(多くは父)に生活費の分担を要求できますが、家庭裁判所に申立てをした場合、それぞれ言い分があるので、決着するまでには時間がかかることもあります。それでは日常の生活に困るような場合、とりあえずの措置を申請することができます。これには審判前の保全処分と調停前の仮の措置という2種類があります。審判前の保全処分をしてもらうには、本案である審判のほか保全処分の申立てをする必要がありますが、認められるとこれをもとに強制執行を申し立てることができる強力なものです。

30 相手が暴力を振るうおそれがある場合でも調停はできるの?
30 家庭裁判所では、暴力の事故を防ぐための対策を立てています。必要に応じて、調停の日や時間を別にする、調停室を分ける、家庭裁判所調査官が調停に立会する、職員が待機する、来る時間や帰る時間をずらす、など細かい配慮をしています。
 調停の申立てをする際に、暴力を振るわれるおそれがあるとか、相手に住所を知らせないでほしいなどの要望を申立書にはっきり書き、また受付の職員にも伝えておきましょう。

31 配偶者が外国籍の場合でも離婚調停はできるの?
31 夫婦の一方が日本に住所がある日本人である場合は、日本の法律に従って離婚できます。相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に調停の申立てをしてください。相手が日本にいないとか、調停に出てこない場合は、訴訟で解決することになります。

32 最近の家事事件の特徴は?
イメージ(家族) 32 統計によりますと、平成10年に家庭裁判所に申立てがあった事件数は、48万7477件となっており、家庭裁判所が創設されて以来最高の件数となっています。この事件増加の背景には、価値観の多様化、核家族化などによる家庭関係や家族意識の変化、家庭内での紛争解決機能の低下などがあるのではないかと考えられます。
 実際に、最近申し立てられた事件を見てみますと、親子や兄弟姉妹間で争う遺産分割などの相続に関する事件、両親による子の奪い合いや離婚の際の親権の指定、面接交渉(Q27参照)など未成年の子に関する事件、別居した夫婦の生活費や子の養育費の負担、離婚の際の財産分与などの金銭についての事件の増加が日立っており、内容的にも複雑なうえ、感情的対立も激しく、解決が困難な事件が増加しています。
 また、最近は社会の高齢化が進んだこともあって、高齢者の財産の管理などをめぐって、親族間で深刻な争いが展開される事件も見られるようになっています。

33 成年後見制度が改正されるらしいけれど、何のため?
33 現在、精神上の障害により判断能力が不十分な人のために禁治産・準禁治産の制度がありますが、一律に本人の自主性を損なうなどの問題があり、利用しにくいものとなっています。一方、社会の高齢化につれて、詐欺などの被害にあうお年寄りが増えて社会問題になっています。そこで、残っている能力を生かし、自己決定権を尊重して、できるだけ普通の生活が送れるように図るとともに、必要な保護をすることを中心とした改正が考えられています。

34 改正されると成年後見制度はどのようなものになるの?
34 改正の骨子は、次のとおりです。
  1. 従来の2類型のほかに、より程度の軽い障害に対応する類型を加え、後見、保佐、補助の3類型とし、それぞれに成年後見人、保佐人、補助人を付ける。類型に応じて自己決定と保護の範囲を決める。
  2. 成年後見人等は、本人の意思を尊重し、心身と生活状況に配慮するものとする。本人の利益保護のために、家庭裁判所が監督するほか、成年後見人、保佐人、補助人のそれぞれに監督人を付けることができるものとする。
  3. 本人が判断能力のあるうちに、判断能力が不十分になったときのために、代理人である任意後見人となる人を選んで公正証書で任意後見契約を結んでおき、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると効力が生じる制度を設ける。
第3 少年事件について
35 少年事件とはどんなもの?
35 家庭裁判所が少年保護事件として取り扱うのは、
  1. 罪を犯した14歳以上20歳末満の少年(犯罪少年)
  2. 刑罰の定めがある法令に触れる行為をしたが、その行為のとき14歳末満であったため、法律上は罪を犯したことにならない少年(触法少年)
  3. 20歳未満で、少年法に定める一定の行状(Q36参照)があり、その性格や環境からみて、将来罪を犯すおそれのある少年(ぐ犯少年)の事件です。

36 「ぐ犯」事件とはどんな事件?
36 「ぐ犯」とは、もともとは「罪を犯す虞れ」という意味で「虞犯」と書いていたのですが、常用漢字の関係で「ぐ犯」と書くようになりました。ぐ犯事件とは、きちんとした理由がないのに、保護者の指導に従わないとか、家庭に寄りつかないとか、犯罪性のある人や不道徳な人と交際するとか、いかがわしい場所に出入りするとかの行いがあり、少年の性格や環境からみて、このままではやがて犯罪少年または触法少年になってしまうおそれがある場合、そうなることを未然に防ぐために家庭裁判所が福祉的教育的観点から早めにかかわり、少年を立ち直らせようとするものです。

37 家庭裁判所調査官による調査とはとんな内容?
37 非行を犯した少年については、少年院送致、保護観察などの保護処分の必要があるかないか、必要があるとすれば、どのような保護処分が妥当であるかについて家庭裁判所調査官が調査することになりますが、具体的には、非行の内容や動機、家庭環境、友人関係、生育史や性格、学校や職場での現在の生活状況などについて調査します。
 調査の方法は、家庭裁判所や少年鑑別所で少年への面接を行い、必要に応じて心理テストを実施するほか、保護者からも詳しい事情や意見を聴きます。また、家庭訪問をして環境調査をしたり、学校へ出かけて先生に状況を聴いたりします。調査結果は書面にまとめられて裁判官に報告され、裁判官が審判を行ううえでの重要な資料となります。

38 少年鑑別所は何をするところなの?
38 少年鑑別所は、家庭裁判所が調査や審判をするために、最長4週間を限度として、少年の身柄を確保するとともに、少年の行動を観察しながら、心身の鑑別(医学的心理学的診断)を行うところです。処分として少年鑑別所に収容されるわけではありませんが、家族や友達などと離れて、これまでの自分を振り返る機会となり、職員の働きかけもあり、副次的には少年の立ち直りに大きな効果を与えています。

39 家庭裁判所の処分にはどんなものがあるの?
39 処分の種類としては、まず、保護観察官や保護司が少年に対して指導監督や補導援護を行う保護観察、少年をしばらく一定の施設に収容し、少年が健全な物の考え方や規則正しい生活習慣を身に付けることができるように指導を行う少年院送致などの保護処分があります。
 そのほか、保護処分にする必要まではないとして、裁判官が訓戒などの指導をしたうえで不処分にする場合があります。また、審判を開いて裁判官の指導を行うまでの必要がないと判断されるときは、審判不開始ということで終了する事件もあります。
 さらに、一定の事件で、少年が16歳以上であり、その非行歴、心身の成熟度、性格、事件の内容などから刑事裁判によって処罰するのが適当であると判断される場合には、事件が検察官に送られることもあります。

40 審判不開始とか不処分は無罪という意味なの?
40 審判不開始や不処分で終局する事件のなかには、刑事事件で無罪にあたる送致された犯罪等の事実が認められないという「非行なし」が含まれています。しかし、ほとんどは非行事実は認められるものの保護処分に付したり、あるいは審判を開始したりするほどの問題性(要保護性)がなく、審判や調査の段階での教育的な措置で十分だと裁判官が判断してこのような決定をしています。

41 試験観察とはどんなこと?
41 Q39で説明した最終的な処分に至るまでに、中間的な措置としてとられるのが試験観察です。これは家庭裁判所調査官が、少年を家庭においたまま、あるいは適当な施設や個人に預けるなどしながら、その行動を観察し、適切な助言や指導を行いつつ、少年の更生にはどのような処分が最も適切であるかを見極めようとするものです。試験観察の結果を見てから最終的な処分が行われることになりますが、試験観察中の指導等により、立ち直るケースは少なくありません。

42 補導委託とはどんなこと?
42 家庭裁判所は、試験観察に付随する措置として、適当な施設、団体または個人に少年の補導を委託することができます。これを補導委託と呼んでいます。当分の間これまでの生活環境から少年を離し、民間のボランティアとその家族に少年を預けて、生活をともにしながら生活指導や職業指導をしてもらうというものです。委託先の家族に温かく包まれて生活することにより、立ち直る少年が多いのです。また、最近では特別養護老人ホームなどにおいて、ボランティア活動を行わせる場合もあります。

43 保護観察とはどんな処分?
43 保護処分の一つです。少年の現在の生活や態度をそのまま放置していては、近い将来再び同じような非行を犯すおそれがあると考えられるが、少年院に収容するほどには非行性が進んでおらず、一定期間専門家の指導を受けることで、非行から立ち直れると期待される場合に決定されます。
 保護観察決定になると、保護観察官や地域の篤志家である保護司の指導を受けるのですが、事件の内容や反省の程度などによって、その運用はさまざまです。保護観察期間に再犯を起こした環合には、さらに厳しい処分を受けることになりますが、この期間に十分反省して立ち直ることができれば、保護観察は解除されます。

44 少年院ではどんな教育をするの?
44 少年院は、大きく分けて14歳、15歳を対象とした初等少年院、16歳以上を対象とした中等少年院、非行性の進んだ少年を対象とした特別少年院があり、そのほか医療的な措置が必要な少年を対象とした医療少年院があります。
 少年院に収容されると、少年の抱えている問題に応じた個別処遇計画が立てられ、カリキュラムに従った処遇が行われます。少年院では、中学校や高校に準じた教科教育を実施したり、職業訓練を行うなどきめ細かい指導が行われています。

45 少年事件は公開されるの?

45 少年の健全育成と円滑な社会復帰を図るために、少年事件は非公開とされ、また、新聞、雑誌などに氏名、写真、その他少年を特定できるような記事を掲載することは禁じられています。家庭裁判所に係属したという記録が、一般の人に公表されることはまったくありません。

46 少年が非行事実を認めない場合はどうなるの?
46 少年が非行事実を認めない場合には、審判において、非行事実を裏づけるとされた証拠について、少年側の弁解や反論を十分に聴いて検討し、必要に応じて証人尋問などの証拠調べを行います。そして、裁判官として、少年が非行を犯したと確信するに足りる「合理的な疑いを超える心証」が得られた場合には、非行事実を認定し、保護処分などを決定します。しかし、このような心証が得られない場合には、非行事実を認定できないとして、不処分決定をすることになります。

47 付添人と弁護人はどう違うの?
47 少年と保護者は、弁護士を付添人に選任することができますが、それだけではなく、家庭裁判所の許可を受けて、弁護士以外の第三者を付添人に選任したり、保護者自らが付添人となることもできます。
 付添人は、少年に対する審判手続が適正に行われるよう監視する弁護人としての役割をもっていると同時に、後見的福祉的な立場から、少年に対し適切な処分が行われるように援助するという裁判所への協力者としての役割もまたもっています。

48 最近の少年事件の特徴は?
イメージ(少年) 48 最近の少年非行は、ますます複雑かつ多様化しているといわれています。新聞報道などでは、神戸での中学生による連続児童殺傷事件をはじめ、学校内での教師や生徒に対する傷害致死事件、殺人や強盗などの凶悪・粗暴な少年犯罪が取り上げられているほか、比較的年齢が若く、しかも過去に非行歴のない少年の「いきなり型」ともいえる重大事案が目を引きます。また、依然として学校内でのいじめを背景とした事件、「オヤジ狩り」と呼ばれる強盗事件、高校生を中心とした覚せい剤乱用事件、さらに、「援助交際」と称して女子少年が遊興費などを目当てに売春行為におよぶ事件などが、社会の注目を集めています。
 これらの非行を犯した少年のなかには、普段の家庭や学校では「いい子」と見られながらも、内面的には、自分の考えがなかったり、現実感が乏しかったり、自信がなくて本当の気持ちを出せなかったりする少年が増えてきています。そして、非行の結果の重大性や、社会的な責任について十分に認識できない少年が大半といえます。

49 少年法改正案が国会に提出されているらしいけれど、何のため?

49 少年が非行事実を否認する事件などでは、家庭裁判所は証拠調べなどを行い、慎重にその認定作業を行ってきました。しかし、いわゆる山形マット事件など少年審判における事実認定手続が問題となって社会の注目を集める事件が相次ぎ、現在の少年法における事実認定手続では、非行事実が激しく争われるような事件の審理に限界があると指摘されるようになりました。それで事実認定手続についての改正が検討されました。

50 少年法改正案では、とのようなことが考えられているの?
50 少年事件の事実認定手続のいっそうの適正化を図るために、少年法の改正案が作られました。改正少年法では、非行事実が深刻に争われ、その認定に困難を伴うような一定の事件に関しては、これまで裁判官が単独で行っていた審判を3人の裁判官が合議で審理する制度、検察官および弁護士たる付添人が審理に関与する制度、必要に応じて一定の範囲内で少年鑑別所に入所させておく期間を延長する制度などを導入し、非行事実について、これまで以上に十分な審理が尽くせるようになっています。また、事件の被害者などに対する審判結果などの通知制度についても盛り込まれています。


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