家庭問題情報誌「ふぁみりお」 第25号 2001.10.25
平成家族考25 仕事も子育てもいきいきと -保育のワークシェアリングをめざして-
 育児休業法が平成4年4月にはじめて施行されてから9年半が,また,同法の改正法である育児・介護休業法が11年4月に施行されてから2年半が経過しました。この間に,雇用保険法の改正により,13年1月に育児・介護休業給付の給付率が25%から40%に引き上げられました。さらに,保育所の待機児童の解消や低年齢児受入れ,延長保育などの保育サービスの多様化に向けた施策も試みられています。いずれも,少子・高齢化への対応の一環として国が打ち出した,働く親に対する育児支援の施策です。しかし,待機児童にとって良質な保育サービスを得るための情報が整備されているとはいえないのが実情です。一方では,子をもうけた親のうち育児休業をとったのは女性では56.4%,男性では0.42%にすぎなかったという現実もあります。また,育児休業を取った後,職場に復帰した女性社員の昇進・昇格,配置転換などを巡るトラブルも相次いでいるといわれます。
 今回は,本年7月6日に閣議決定された「仕事と子育ての両立支援策の方針について」から,わが国の最新の子育て支援についての具体的な施策に関する部分を原文に沿いながら要約して紹介し,今後の保育の在り方を考えてみたいと思います。
閣議決定のあらまし
 内閣府に設置されている男女共同参画会議(以下,「会議」という)に,本年1月,総理大臣の指示によって「仕事と子育ての両立支援策に関する専門調査会」(以下,「専門調査会」という)が設置されました。6月19日に専門調査会の最終報告書が会議に提出され,その提言部分が会議決定されました。
 提言は,7月6日に閣議決定され,予算上特段の配慮を伴った施策として,遅くても平成16年度までに実施される運びとなっています。
提言の五つの内容
その1:両立ライフへの職場改革
(1)  企業等の取組支援
○所定外の労働時間の削減を図り,フレックスタイム制や短時間勤務等を導入できるよう支援する。
○正社員と同じ待遇,仕事内容の短時間正社員制度の導入を支援する。
○両立支援取組にかかる福利厚生費は損金に算入する。
○女性のキャリアプランの確立の支援に努める。
○求人の年齢制限緩和への取組を促進する。
(2)  育児休業制度と出産休暇の十分な活用
○男性の育児休業取得を奨励し,父親の出産休暇についての制度活用をする。
(3)  企業の評価・研修
○企業の両立指標の開発と結果を公表する。
○両立支援の風土育成のためのトップの研修を実施する。
(4)  期間雇用者への対応
○実質上期間の定めなく雇用されている者が,育児休業を取りやすくなるような指針を策定する。
その2:待機児童ゼロ作戦
(1)  達成数値目標及び期限を定めての実現を
○保育所,保育ママ,自治体の施設,幼稚園の預かり保育等を活用し,都市を中心に平成14年度中に5万人,16年度までに10万人,計15万人の受入れ児童数の増大を図る。運営には民間を活用する。
(2)  新設保育所は既存の施設活用を
○学校の空き教室等の既存の公・民の施設を活用し,社会福祉法人,企業,NPO等による民営を基本とする。
(3)  保育所設置基準等の緩和
○定員の弾力化,設置基準の緩和,保育所併設施設の支援を行い,自治体においては設置認可の迅速化を図る。
その3:多様で良質な保育サービスを
(1)  保育所等のサービスの多様化
○病児,病後児保育の推進のため,市町村において関係者間の協議を進める。
○公営保育所の延長保育(17%)を民営なみの62%に広げ,一時保育,休日保育,育児休業中の上の子の受け入れ等多様なサービスの倍増をめざす。また,公立保育所の終業時間後の民間による補足サービスなど,公・民の協働を図る。
(2)  地域の実情に応じた取組の推進
○駅前や商店街等における各種保育サービスや郊外の保育所への送迎サービスの提供等,地域の実情に応じた保育の発展のため,特に重点地区でのモデル事業を支援する。
(3)  保育に関する情報の提供
○保育に関する自治体の好事例を情報ネットワークを通じて紹介する。
○利用者が保育内容を把握できるように,現行法令に基づき経営主体に対して情報開示を義務づける。
その4:必要な地域すべてに放課後児童対策を
(1)  放課後児童の居場所拡充計画
○学校・児童館等に放課後児童の受け入れ体制を大都市周辺部を中心に整備し,平成16年度までに全国で15,000箇所に放課後児童の居場所の確保を図る。公的施設を活用するとともに,運営は民間主体とし,時間的にも保育所と同等のレベルを確保する。
○施設の新設に当たっては学校の空き教室など利用可能な施設を利用し,運営には公的な責任の下に豊富な経験をもった地域の人材を活用する。
(2)  情報の提供
○施設に関する情報を,ユーザーの立場に立った,わかりやすい形で提供する。
その5:地域こぞって子育てを
(1)  家族支援サービスの充実
○ファミリーサポートセンターについて,必要な整備を進める。
○良質なベビーシッター探しを支援するとともに,保育ママについてバックアップ体制を確立するよう推進する。
○親に対する子育て支援サービス(子育て学習や相談体制の整備など)を充実させる。
(2)  幼稚園における子育て支援の充実
○幼稚園での「預かり保育」の実施を推進する。
○幼稚園での総合的な子育て支援(子育て相談や保護者の交流のための場の提供など)を推進する。
(3)  地域における多様な子育て支援の充実
○地域の多様な人材を子育て支援に活用する仕組みづくりを進める。
○学生・生徒が子育て支援を体験するボランティア活動の機会を作る。
(4)  職住近接のまちづくりの促進
○都心部に良質な賃貸住宅の供給を促進するとともに,保育所等が組み込まれた職住近接のまちづくりを行う。
継続審議中の育児・介護休業法改正案
 政府は,平成13年2月,「育児・介護休業法の一部を改正する法律案」を第151国会に提出しました。育児休業中は休職扱いとなるので「復帰後10年間は昇格できない」とされたケースや,「残業はできないだろう」と編集部から総務部に異動させられたケース,「他の従業員から不公平だと苦情がでている」としてパートにまわされたケース等が続出したこともあり,さらに,産休や育休が欠勤日数に組み入れられ,ボーナスが全額カットされた女性職員からの損害賠償の裁判で第一,二審とも勝訴となったケースも出るなど,法の不備を補正する必要が求められたためです。同法案は,現在継続審議となっていますが,その改正のポイントは次の5点です。

ポイント1:  育児・介護休業の申し出や取得を理由とする事業主の不利益な取り扱いの禁止。
ポイント2:  小学校就学前の子の養育などをする労働者は,1年間に150時間,1ヵ月に24時間を超える時間外労働の免除を請求できる。
ポイント3:  勤務時間短縮などの措置にかかる事業主の義務の対象となる子の年齢を1歳未満から3歳未満に引き上げる。
ポイント4:  事業主は,小学校就学前の子の看護のための休暇制度を導入するように努めなければならない。
ポイント5:  事業主は,労働者の転勤については,その育児または介護の状況に配慮しなければならない。
待機児童ゼロ作戦の実情
 一国の総理大臣の所信表明演説に掲げられた内容は,いずれも重いものであり,保育所入所の待機児童ゼロ作戦も,その重い内容のひとつです。上述の専門調査会の「3年間に15万人分の保育施設を」という提言も閣議決定されて,作戦開始の段階に入ったところですが,この数値目標の達成には,かなり困難な現実があるようです。
 保育所への入所は,従来,保護者の労働又は疾病等により保育することができないような状態にある乳児又は幼児に対して市町村が決定していました。運営も地方自治体又は社会福祉法人が行ってきました。平成10年4月1日施行の児童福祉法等の一部改正により,保育の実施を希望する保護者が,子どもの個性や保護者の就労状況等に合った保育所を希望し,選択できるようになりました。今回の閣議決定では,さらに保育に対する多様なニーズに対応するために,民間企業の運営面への参入を打ち出しています。しかし,実際には,保育園の運営責任を持つ自治体や,既存の運営者が企業の参入に消極的であったり,企業自身も及び腰であったりするケースが見られます。
 もっとも,認可外保育園の活用策で独自の基準を策定し,「公設民営」方式に成功している自治体もあるのですから,政府としては,このような好事例を他の多くの自治体に知らせ,利用者に対しても,ネット情報等によってわかりやすく知らせる体制を整備してほしいものです。
子育てを孤独な仕事にさせないために
 子どもには,その親によって十分な慈しみを受ける権利があります。人生の最も早い時期にこれを経験した子どもは,他を慈しむことができる子どもに成長します。子を持つ父母が,この時期を安んじて育児に専念できるためには,何といっても職場の理解が不可欠です。
 子どもを預かる保育の現場からは,親に十分な育児休業を取ってもらいたいとの声もあり,育児休業明けの親が子の保育の実施を希望する場合には,かなり優先的に入所させている施設もあります。
 子育てとは,子の自立支援作業であると言っていいでしょう。24時間休みなしの作業です。その中で,親が支援を必要とする場合には,社会の成員が保育のワークシェアリングに携わる仕組みを作り出すことが求められています。自治体,社会福祉法人,企業,職場の同僚,そして国民一般は,子どもの福祉を中心に考えたワークシェアリングを図ってほしいものです。



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