家庭問題情報誌「ふぁみりお」 第25号 2001.10.25
海外トピックス25 社会に生きる法と制度(ドイツ)

 法や制度が社会で真に実効あるものとして定着するためには,立法府は情勢に応じてきめ細かい立法をすること,政府は人的および物的基盤を整備し法の実現を図ること,司法は迅速公正な法の適用によりこれを保障することといった国の各機関がそれぞれの領域で機能を発揮しつつ総合的に対応することが欠かせません。法自体も民事的ないしは行政的な規定と刑事的な規定を結びつける必要がある場合もあります。省庁同士や国と地方機関なども所管にとらわれず協力して対処することが望まれます。
 特に,男女差別,ドメスティック・バイオレンス,子どもの虐待,成年後見などの問題については,これらの機関が緊密に連携するとともに社会に理解を求める努力を払うことが必要です。諸外国では,こうした問題について積極的に取り組み,法を社会の情勢に適応させるよう絶えず改正を行っています。今回は男女差別と成年後見の問題について,ドイツの取り組みを紹介してみましょう。


男女平等を阻むガラスの天井を突き破る −ドイツにおける取り組み−

現状と対策 

 ドイツでも,男性が育児休暇をとると笑いものにされたりキャリア・コースからはじき出されたりすることが多く,育児休暇をとる父親は2%に満たないのが現状です。ということは,実際上育児はほとんど母親の負担になっているということで,これでは女性が社会で男性に太刀打ちできません。
 そこで国は真の男女平等を実現するための革新的な計画を立ち上げ,そのための基金を創設しました。その中には,若い女性の就職のチャンスを増やす,女性による起業を促進する,パートタイム労働のための条件を整える,女性への賃金差別に反対する,大学教育と研究に従事する女性の比率を増やす,女性を暴力から守る,などの計画が含まれています。
 企業もより多くの女性管理職の登用などの努力をしていますが,ときにはジェスチュアに過ぎないこともあり,現実には男女差別の見えないガラスの天井が存在しています。これを突き破るためには,制度の改革と並んで女性自身の意識の改革も必要とされます。

パートタイム労働の柔軟化 

 2000年1月パートタイム労働に関する新たな法が施行されました。これは女性だけを対象にしたものではないので,すべての被用者に大きな変革が起こることが予想されます。
 この法は15人以上の被用者を持つ雇用者に適用され,原則として6ヶ月以上働いた労働者(フルタイム被用者を含む)は労働時間の軽減を要求することができます。

子どもの教育のための休暇と育児休暇 


 新しい法により,両親が同時に子どもの教育などのため休暇を取ることができるようになり,より柔軟に働く可能性が拡大しました。両親はこの休暇の全部または一部を一緒に取ることができます。一人の子どものための休暇は合計3年間,四つの期間に分けて取ることができます。これは雇用者がその仕事を3年間確保しておかなければならないことを意味します。
 育児休暇は合計12ヶ月ですが,雇用者が同意するときは子どもが8歳になるまで取ることができます。
 家族の経済的な状況によっては,親は育児休暇を取っている間でも週30時間までは働くことができます。
 このような施策により父親が子どものための休暇を取っても家族の経済的状況を危うくする心配が減ることになりました。これは熟練労働者が子どものための休暇を取った場合でもできるだけその能力を活用したいという雇用者の要請にも応えるものです。

子どもの保育 

 親は子どもを昼間保育園に預けることができます。子どもは3歳になれば幼稚園に入ります。幼稚園では,子どもを連続して5時間預かってもらうことができます。両親の合計年収が12000ドル未満のときは幼稚園の費用はかかりません。子どもは6歳になると学校に入ります。6歳から14歳までの学童には学童保育があります。

わが国では 

 政府は男女共同参画社会の実現を目指して種々の施策に取り組んでいますが,現実には働く親の子育てを支援するための労働条件の改善はなかなか進まないようです。保育園や学童保育の施設も十分ではありません。幼稚園と保育園の内容は大して変わらないのですが,省庁の所管が異なることから一方は教育とされ,他方は保育への支援とされています。したがって費用や預けられる時間が異なるなど一貫性がないのが実情です。もっと実態に即した施策が望まれます。
ドイツ世話法でのケース・マネージメント
世話制度の発足 

 成年後見制度については,法律と福祉双方の観点からの対応が必要で,両者を切り離すことは困難であるという理解が諸外国では一般的です。
 ドイツの世話法でも本誌第15号で紹介したように,1992年施行の当初から世話人の選任,権限など純粋に法的なことの他に世話人の育成,報酬負担など国の支援に関する福祉的制度を定めています。

世話法の改正 

 制度が発足してから事件数がうなぎ登りとなり国庫負担が増大し,1999年改正法が施行されたことは本誌第23号で紹介したとおりです。当初の世話法には,法と社会の繋がりについての検討が足りなかったため国庫負担が予想外に増大したという反省から,この改正には世話のケース・マネージメントという考え方が採り入れられました。

ケース・マネージメント 

 ケース・マネージメントとは,その地域の福祉予算全体と本人の状態から妥当なコストを考え世話プランを作成し,サービス提供を図るものです。これは,コストを抑制するためにできるだけボランティアや非営利団体を活用する,商業ベースのサービスを利用する場合にも市場原理による妥当な対価を支払うという,コスト・コントロールの考え方に基づいています。ではだれが世話プランを作成するか,−世話人か,地域のソーシャル・ワーカーか,世話官庁かなど−議論はあるようですが,ケース・マネージメントの考え方自体に異論はないようです。

わが国では 

 わが国の成年後見制度には,公的負担の考えがなく,したがってコスト・コントロールもありません。介護保険制度にはマネージメントの観念はありますが,専ら本人をケアするケア・マネージメントの枠内で考えられています。成年後見制度にも公的負担が必要な場合がありえます。そうなるとコストを考慮に入れたケース・マネージメントが必要なのではないでしょうか。「地域福祉権利擁護事業」との関連なども含め検討を要するところと思われます。



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