家庭問題情報誌「ふぁみりお」第28号(2002.10.25発行)ふぁみりお
成年後見制度はどのように利用されているか
−新制度発足後2年間の実績を見る−


新たな成年後見制度が平成12年4月に発足してから2年半が経過しました。本誌でも数回にわたってこの制度の必要性や法律の概要を紹介してきました。

旧制度では、判断能力の程度により禁治産者と準禁治産者の2類型を設けていましたが、最近それにより精神上の障害(痴呆・知的障害・精神障害等)がもっと軽い人でもトラブルに巻き込まれるケースが増えてきたために。さらに1段階を加えて3類型としました。つまり、家庭裁判所は、申立てにより、判断能力を欠く常況にある人を成年被後見人、判断能力が著しく不十分な人を被保佐人、それより軽度な人を被補助人とし、それぞれに成年後見人、保佐人、補助人を選任します。

これらは本人が判断能力が不十分になったときのことを事前に決めておかなかった場合の「法定後見」の制度ですが、新制度では本人が判断能力があるときに将来に備えて後見人の契約を締結して登記しておくという「任意後見」の制度が創設されました。任意後見については、後見が必要な状態になったとき任意後見監督人選任の審判の申立てをし、選任されれば契約の効力が生じます。

最高裁判所事務総局家庭局では、平成12年4月から同13年3月までの統計(1年目)と平成13年4月から同14年3月までの統計(2年目)を、それぞれ「成年後見関係事件の概況」として発表しています。今回は、この資料に基づいて2年間の成年後見制度の利用状況と事例を紹介し、併せてこの制度の受け皿となって実際に成年後見人、成年後見監督人等を引き受けている当センターの後見部の感想等を紹介します。




 申立件数について

ここでの成年後見関係事件とは、後見開始、保佐開始、補助開始および任意後見監督人選任の事件をいいます。つまり、後見人、保佐人、補助人および任意後見人が必要な状況となったので、それらの人を選任する審判をしてほしい、あるいは任意後見監督人を選任する審判をしてほしいという事件のことです。

申立件数の推移は、図1のとおりです。新制度発足以前と比べて、成年後見関係事件の申立ては著しく増加しています。例えば、後見開始の審判申立事件のグラフに、その前年の同時期の禁治産宣告の申立事件を並べていますが、それと比べると2.5倍の増加となっています。

これは高齢社会への対応や障害者等の福祉の充実に対する社会的要請が高まっていることを背景として
 自己決定の尊重などの新制度の理念
 手続きがより使いやすいものになったこと
 これまで戸籍に記載されたり、官報で公告していたのが、成年後見登記に変わるなど本人のプライバシーに配慮した制度となったこと
などが社会に受け入れられたことによるものと思われます。

任意後見監督人の選任の申立て件数は、2年目は1年目の2倍以上になりましたが、これは、任意後見監督人の審判の申立ての前提となる任意後見契約の締結件数が増加する傾向にあること、任意後見制度では、契約の締結からある程度の期間が経過した後に任意後見人選任の審判の申立てがされるのが通常であることによるものと考えられます。ちなみに、平成13年4月から同14年3月までの任意後見契約締結の登記は、1106件(前年801件)でした。





 申立人と本人との関係について

申立人については、本人の子が最も多く、1年目40%、2年目39%を占め、次いで本人の兄弟姉妹が1年目17%、2年目19%、配偶者が1年目19%、2年目16%、その他の親族が1年目11%、2年目12%となっています。

本人の申立ては、1年目が2.9%、2年目が3.4%です。

市町村長が申立てたものは、1年目が0.5パーセント(23件)
であったのに、2年目は1.1%(115件)と5倍増となっているのが注目されます。平成13年度から市町村が行う「成年後見制度利用支援事業」に対する国庫補助(厚生労働省)が開始されたことなどを受けて、市町村の制度利用に向けての取組みが進みつつあることが背景にあるものと見られています。



 本人の男女別・年齢別割合について

男性について見ると、1年目は60歳代21%、50歳代20%、70歳代16%となっており、2年目は70歳代、60歳代、50歳代いずれも19%となっています。

1年目と2年目を比べると、70歳以上の高齢の男性の割合が32%から36%へと増加しています。


女性について見ると、1年目は80歳以上が40%、次いで70歳代の25%となっており、2年目は80歳代が42%、次いで70歳代が25%となっています。

本人が65歳以上のものは、男性では1年目43%、2年目46%であるのに対し、女性では1年目73%、2年目74%となっており、女性の方が高齢者の占める割合が断然高いことが分かります。



 申立ての動機について

申立ての動機を見ると、1年目は財産管理処分のため62.5%、身上監護のため15.9%、遺産分割協議のため11.5%、訴訟手続等のため5.2%、介護保険契約のため2.0%などとなっており、2年目も同じ傾向で、財産管理処分のため63.2%、身上監護のため16.7%、遺産分割協議のため11.3%、訴訟手続きのため4.7%。介護保険契約のため2.2%などとなっています。


 本人の生活状況について

本人の生活状況を見ると、病院に入院しているものが1年目44%、2年目41%を占めています。次いで家族との同居が1年目27%、2年目25%、老人ホームが1年目17%、2年目20%となっています。一人暮らしは、1年目も2年目も6.4%となっています。


 成年後見人等と本人との関係について

成年後見人等とは成年後見人、保佐人および補助人のことです。選任された成年後見人等と本人との関係を見ると、子、兄弟姉妹、配偶者、親、その他の親族が後見人等に選任されたものが1年目91%、2年目86%を占めています。親族以外の第三者が成年後見人等に選任されたものは、1年目9%、2年目14%で、増加傾向にあります。その内訳は弁護士が1年目166件、2年目626件で3.8倍の増加となっており、司法書士等が1年目117件、2年目395件で3.4倍の増加となっています。また、法人が成年後見人に選任されたものは、1年目13件、2年目47件で3.6倍の増加となっています。

これらの成年後見関係事件の申立てに対して、事件が取り下げられたり、本人が死亡してしまったりして当然に終了したものや他の家庭裁判所へ事件が移されたりしたものを除くと、ほとんどが認容されており、却下されることはほとんどない結果となっています。




成年後見関係事件事例
事例1  後見開始事例

 本人 男性(57歳) アルツハイマー病 入院中
 申立人 妻(53歳) パート店員
 申立て動機 相続放棄
 成年後見人 申立人
 概要
本人は5年ほど前から物忘れがひどくなり、勤務先の直属の部下を見ても誰かわからなくなるなど、次第に社会生活を送ることができなくなった。日常生活においても、家族の判別ができなくなり、その症状は重くなる一方で回復の見込みはなく、2年前から入院している。
ある日、本人の弟が突然事故死し、本人が弟の相続人となった。弟には負債しか残されておらず、困った本人の妻が相続放棄のために、後見開始の審判を申し立てた。
家庭裁判所の審理を経て、本人について後見が開始され、夫の財産や身上監護をこれまで事実上担ってきた妻が成年後見人に選任され、妻は相続放棄の手続きをした。




事例2  保佐開始事例

 本人 女性(73歳) 中程度の痴呆状態 一人暮らし
 申立人 長男(46歳) 会社員
 申立ての動機 不動産の売却
 保佐人 申立人
 概要
本人は1年前に夫を亡くしてから一人暮らしをしていた。以前から物忘れが見られたが、最近症状が進み、買い物の際に1万円札を出したか5千円札を出したか、分からなくなることが多くなり、日常生活に支障が出てきたため、長男家族と同居することとなった。隣県に住む長男は、本人が住んでいた自宅が老朽化しているため、この際自宅の土地、建物を売りたいと考えて、保佐開始の審判の申立てをし、併せて土地、建物を売却することについて代理権付与の審判の申立てをした。
家庭裁判所の審理を経て、本人について保佐が開始され、長男が保佐人に選任された。長男は、家庭裁判所から居住用不動産の処分についての許可の審判を受け、本人の自宅を売却する手続きを進めた。




事例3  補助開始事例

 本人 女性(80歳) 軽度の痴呆症状 長男と二人暮らし
 申立人 長男(50歳) 会社員
 申立ての動機 財産管理
 補助人 申立人
 概要
本人は、最近米を研がずに炊いてしまうなど、家事の失敗がみられるようになったが、申立人が日中仕事で留守の間に、訪問販売員から必要のない高額の呉服を何枚も購入してしまった。困った申立人が家庭裁判所に補助開始の審判の申立てをし、併せて本人が10万円以上の商品を購入することについて同意権付与の審判の申立てをした。
家庭裁判所の審理を経て、本人について補助が開始され、長男が補助人に選任されて同意権が与えられた。
その結果、本人が長男に断りなく10万円以上の商品を購入してしまった場合には、長男がその契約を取消すことができるようになった。




事例4  任意後見監督人選任事例

 本人 男性(75歳) 脳梗塞による痴呆状態 長女家族と同居
 任意後見人 長女(44歳) 主婦
 申立ての動機 不動産管理
 任意後見監督人 弁護士
 概要
本人は、長年にわたって自己の所有するアパートの管理をしていたが、平成12年4月6日に長女との間で判断能力が低下した場合に備えて、任意後見契約を結んだ。その数箇月後、本人は脳梗塞で倒れ、左半身が麻痺するとともに、痴呆症状が現れアパートを所有していることさえ忘れてしまったため、任意後見契約の相手方である長女が任意後見監督人選任の審判の申立てをした。
家庭裁判所の審理を経て、弁護士が任意後見監督人に選任された。
その結果、長女が任意後見人として、アパートの管理を含む本人の財産管理、身上監護に関する事務を行い、これらの事務が適切に行われているかどうかを任意後見監督人が定期的に監督するようになった。




法人後見人等としてのFPICの後見部の経験から

この制度は、利用する必要性が最も高い人にとって使いにくい点があります。まず第一に、判断能力が衰えても自分ではなかなか気づかないので親族が手続きを申し立てることが多いのですが、身近に親族がいない人は、自分で申し立てる場合以外は申立てをしてくれる人を見つけなければなりません。次に、一応申し立てがなされ成年後見等開始相当と判断されたとしても、頼りになる身寄りがいない人には適当な成年後見人等の候補者を見つける事が困難です。

本人に十分な資産収入がなければ弁護士や司法書士など専門家に頼むこともできません。逆に身寄りがあって引き受けてもよいと言っているとしても、本当に本人の利益になるか疑問な場合もあります。本人の利益そっちのけで財産を狙っていることもありえます。

本人の心身の状態によっては、その希望を確かめ、これに沿ったケアをするのに特別の配慮を要することもあります。その場合、法律問題を処理したり財産を計算したりするだけでは足りず、頻繁に本人に面接し、時間をかけて話をするうちにその真意を汲み取っていく、親族との関係を調整するというような対処が必要になります。

当センター(法人または会員)では、家庭裁判所からの要請で成年後見人等やその監督人等を引き受けています・本人の心情や周囲の状況を把握し対応するのは大変で、担当者は心身ともに労苦するものですが、本人に資産収入が乏しいと妥当な報酬を貰えないことが多いのです。親族がいる場合にはその協力がえられなかったり、親族間の争いに巻き込まれたりで担当者は大変な思いをすることがあります。報酬の公的負担や中立的な立場で後見人等を引き受ける候補者の養成、組織化への公的援助が望まれます。






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