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◆平成家族考 36


 終戦60年を迎え、いろいろな分野でこの60年間の総括が行われています。 本誌も今回は、戦後生まれの若者たちは、それぞれどのような青春時代(15〜25歳ぐらい)を過ごしてきたのかについて振り返ってみたいと思います。
 若者についての大人の嘆きは、古代エジプトの象形文字にも残っているとのことですから、4,5千年も昔から若者たちは大人を不安がらせ、 ときには世も末だと嘆かせてきたようです。 しかし、世は末になることもなく、嘆かせた若者たちもやがて大人になると、今度は今どきの若者たちはと嘆く側に回ってきたのです。 評論家等によって定着している戦後の若者論のキーワードを使って、戦後生まれの若者群像を世代別に概観してみましょう。 ただし、各世代の若者がすべて同じ行動をとったわけではないので、いわばその世代の中の突出した若者たちのスケッチということになるのかもしれません。

1 1960年代(昭和35〜44年)の若者たち
  団塊の世代の青春像

 1945(昭和20)年8月15日に終戦を迎えると、戦地や軍需工場などに駆り出されていた男性たちが家庭に帰ってきたり、結婚して新たな家庭を築いたりしたため、 数年後から出産ラッシュ(第1次ベビーブーム)が起こりました。1947年から'49年の3年間だけで約800万人が生まれたとのことです。 年度別出生数のグラフを見ると、この辺を中軸として大きな塊を作っているため、団塊の世代と呼ばれるようになりました。 間もなく定年を迎えようとしている人々が中心の世代で、1960年代というのは、この団塊の世代の青春時代です。
 団塊の世代は、敗戦の焼け跡に生れ落ち、欠乏と混乱の中で育ちながら、一方では貧しい者同士の助け合いや連帯の意識を培っていきました。 バラック、タケノコ生活、買出しなどの言葉が当時の欠乏の様子を表しています。
 団塊の世代が若者になると、戦前・戦中派の大人の持つ古い価値観に反抗し、政治や体制に異議申し立てをするようになりました。 団塊の世代の象徴的な青春像は、学生運動、学園紛争、労働争議の担い手であり、戦う若者、怒れる若者でした。 それは、1960(昭和35)年1月の日米安全保障条約の改訂をめぐり、警官隊と衝突する若者たちとして始まりました。 白いタオルで覆面し、ヘルメットをかぶり、ゲバ棒を持って警官隊に突っ込むというのが、全学連の定番スタイルとなっていました。 戦前生まれの大人たちは、警官隊の阻止を突破して空港を占拠したり、国会に乱入したりする若者たちを見て、世も末だと思ったことでしょう。
 もちろん、すべての若者がそうなっていったのではなく、戦う若者たちとは一線を画し、ノンポリと言われる学生や、アイビールックに身を固めて、 銀座を闊歩する「みゆき族」などに代表される若者も出てきました。
 この年代の最終年となる1969(昭和44)年1月18日から19日にかけて、それまで東大安田講堂を占拠していた全共闘学生を8,500人の機動隊が取り囲み、 投石する学生に放水と催涙弾の発射により、全員を逮捕するまでの激しい攻防戦は、現場からの生中継により逐一テレビで放映されました。 それはまるで学生運動の落城を見るような光景でしたが、確かにこれを転機として、学生運動、学園紛争は潮が引くように沈静化していきました。
 既成の価値や体制に反抗した青春時代が終わり、大人になった団塊の世代は、その後、モーレツ社員とか企業戦士と呼ばれる会社人間になり、 また世界に冠たる物作り職人となって、高度経済成長期後半の原動力となっていったのです。 世も末と嘆かれた若者たちが、今日の日本の繁栄の基礎を作ったことは忘れてはならないことです。
 この年代の少年(14〜19歳)による非行を見てみると、太陽族、カミナリ族が横行し、一方では日比谷公会堂での浅沼社会党委員長刺殺事件など、 少年による凶悪事件(殺人・強盗・強姦・放火)が年間7,000件以上に達しました。 現在でも時々、少年事件の凶悪化が懸念されることがありますが、年間2,000件程度であることを考えると、当時の比ではありません。 しかし、1966(昭和41)年以降、凶悪事件は急速に減少し、少年事件全体も少年人口の減少に伴って減少していきました(「ふぁみりお」第16号参照)。

2 1970年代(昭和45年〜54年)の若者たち
  シラケ世代の青春像

 1972(昭和47)年2月、爆弾などを用いて武力闘争を続けてきた新左翼過激派と呼ばれる連合赤軍の幹部をはじめ、景品安保共闘の幹部らが妙義山で逮捕されました。 逃走した5人は軽井沢の「あさま山荘」に管理人の妻を人質に立て篭もりましたが、1,500人の機動隊に包囲され、銃撃戦の末、218時間ぶりに人質は救出され、 5人は逮捕されました。この立て篭もりの模様は、刻一刻とテレビで現場中継されました。その後の取調べの中で、連合赤軍幹部らによる仲間同士の凄惨なリンチ、 「総括」という名の殺人などの実態が明らかになり、「総括」された13人の遺体が発見され、人々を戦慄させました。
 団塊の世代の若者たちが繰り広げた学園紛争とその敗北、武力闘争の成れの果てとも言えるような政治運動の終焉を迎えて、次の世代の若者たちは、 政治に距離をおくようになりました。祭りのハレの日から日常のケの日に戻ってみると、そこには無力感とシラケの感情が漂っていたと言われ、 この年代の若者たちはシラケ世代と呼ばれました。かつてのスチューデントパワーはスチューデントアパシー(無気力症)に取って代わられ、 無気力、無感動で、意欲減退しながらやさしさ志向で、荒々しい競争社会を生きることから身を引いている若者が目立つようになりました。 理由がはっきりしないままに留年したり、就職を拒んだりする学生が増えたのです。大人の世界に入る前の猶予期間(モラトリアム)とされる学生生活に、 いつまでも留まっていることから「モラトリアム人間」という言葉が流行しました。本来のモラトリアムの持っていた大人になるためのステップという機能が失われ、 大人になれない、大人になりたくない若者が増えてきたのです。
 非行少年の分野にも、アパシー型と呼べる一群がありました。それまでの非行少年に共通して見られた反社会的、攻撃的、暴力的な特徴を示さず、 ただ学校に行かず、就職もしないで、時に盛り場に出かけ、その場かぎりの仲間と一緒に万引きをしたり、シンナーを吸ったりして補導される。 理由を聞かれても「別に」の一点張りで、社会や家庭にはっきりした不満や恨みがあるわけではなく、ただ万事がつまらないと言う。 非行少年たちにも反社会性というより非社会性が目立つようになりました。

3 1980年代(昭和55〜64年)の若者たち
  新人類世代の青春像

 高度経済成長期の豊かさの中に生まれ、幼児期から高度情報化社会のメディアに囲まれて育った世代の青春時代です。 新人類という言葉は、1985(昭和60)年4月から、「朝日ジャーナル」に連載された「新人類の旗手たち−筑紫哲也の若者探検」により有名になりました。
 企業側では、最近の新入社員はこれまでとはどこか違うぞという違和感を持つようになっていました。物怖じしない、デートがあると言って残業を断る、 同僚とは付き合おうとしないし、上司が飲みに誘っても乗ってこない、平気で辞めてしまうなど、これまでのサラリーマンのパターンとは明らかに異なりました。
 また、「会社に異星人(エイリアン)がやって来た」(中野収・講談社・1987)という本なども出版されました。 感性には優れているが個人主義的で、好きなものには熱中するが嫌いなものには見向きもせず、自分勝手でわがままという感じでした。 大人になれずにいつまでも子どもっぽい言動をする若者たちを指して、ピーターパン症候群という言葉も流行しました。
 しかし、この新人類世代は、一方では新しいOA機器をやすやすと駆使して、高度情報化社会の申し子のような存在であり、 上司や先輩連中もたじろぐばかりでした。 このうち、特に内向的、非社交的で特定の物事には異常なほど詳しい連中はオタクと呼ばれました。
 少年非行の分野では、この世代に少年人口が増加するにつれて、少年事件が急増し、女子高生コンクリート詰め殺人事件に代表される 凶悪事件も増加しました。学校でのいじめは、陰湿なものとなり、いじめられた子を自殺に追い込む事例も出てきました。 しかし、少年人口の減少とともに、少年事件は1988(昭和63)年をピークとして急速に減少しました。
 初めは異性人の出現のように大人たちを不安がらせたこの新人類と呼ばれた世代が、OA機器を飛躍的に普及させて今日の日本のIT産業化を推進し、 一方では年功序列制度やサービス残業など従来の不合理な雇用慣行などを見直させたことは見逃せません。 中国、韓国、東南アジアなどの国々の低賃金の労働力に支えられた廉価な工業製品に駆遂され、日本国内での製造業が空洞化している日本の産業界が生き残るには、 高付加価値製品を生み出すオタク的プロフェッショナルの活躍に期待するしかないと言われています。今や社会の中で中堅層を占めるようになっている新人類と言われた世代が、 21世紀の日本の産業界を救ってくれるのかもしれません。

1990年代(平成2〜11年)以降の若者たち
  団塊ジュニア世代以降の青春像

 団塊の世代を親に持つ1971(昭和46)年から'73(昭和48)年生まれの、いわゆる第二次ベビーブーム生まれを中心とする世代の青春像です。
 この世代が若者になって大人たちを驚かせたのは、まず性意識、性行動の特異性でした。ブルセラ売りや援助交際という名の売春が横行し、 補導された女子中学生に「パンツを売って何が悪い」、「身体を売って何が悪い」と開き直られて、大人たちは常識やタブーが通じない世代が出てきたことに驚きました。
 これは団塊の世代の子育ての失敗が原因だと言う人もあります。つまり、若いころ既存の体制や価値観にことごとく異議申立てをしてきた団塊の世代は、 自分が親になってもダメなものはダメと言う絶対的なものを子どもに教え込むことができず、結果的に何でもありの状況を許してしまったと言うのです。 あるいは、会社人間となってしまった団塊の世代は、会社への忠誠のあまり残業、転勤などにより家庭を犠牲にしてきた結果であり、いずれにしても団塊の世代の子育ての失敗だと言うのです。
 ブルセラ売り、援助交際のほか、この世代について語られてきた言葉には、むかつく、キレる、学級崩壊、ルーズソックス、ガングロ、いじめ、不登校、引きこもり、拒食、過食、 スピード(覚せい剤)、ケータイ、メール、チャット、出会い系サイト、変身する子どもたち、オヤジ狩り、ホームレス狩りなど、枚挙に暇がありません。
 家庭では、少子化のせいもあり、多くの子どもが個室を持ち、自室に専用のテレビ、ビデオ、パソコンなどを並べ、ケータイでメールのやり取りをし、パソコンでチャットをしたり、 出会い系サイトにアクセスしたり、ホラー系、ポルノ系、バイオレンス系の本やビデオなどを検索して楽しんだりして、どんな欲望でも簡単に満たすような情報の繭の中に住む若者も出てきました。
 本来は、家庭、地域、学校で人と人との生身の付き合いやせめぎ合いの中で、自分をコントロールしながらトラブルを現実的に処理する能力(社会性)が培われるのですが、 家でも外でも、人との生身の付き合いを避け、バーチャルリアリティ(仮想現実)の中で欲望を肥大させ、万能感を持つような若者も出てきて、 自分でも訳が分からないままに殺人を犯した者もいます。肥大し、ゆがんだ自己意識を持つ若者が増え、モラトリアム人間化が進み、 学校にも行かず、働いてもいないし、職業訓練にも参加していないニートと呼ばれる若者が急増していると言われています。
 少年非行の分野では、オヤジ狩り・ホームレス狩りと呼ばれる強盗・殺人事件が頻発する一方で、担任教師をバタフライナイフで刺殺したり、ピストルを盗むために警察官を襲ったりする事件などが起こり、 世間の大人たちを震撼させました。しかし、凶悪事件の犯人として補導された少年たちについて、周囲の人々から、「平素はおとなしい、目立たない子だった」、「よい子だった」というような声が聞かれると、 なぜこういう事件が起こったのか理解できず、不安は増幅しました。
 少年事件の動機や原因の調査に当たる家裁調査官を育成し、研修する最高裁の家裁調査官研修所は、2000(平成12)年7月にプロジェクトティームによる「重大少年事件の実証的研究」を発足させ、翌年、 その研究結果を公開しました。それによると、一見おとなしくて目立たない、よい子と思われていた子どもたちが殺人に至る動機や原因が明らかにされています。 そしてこれらの子どもたちを殺人に追いやったのは、自己中心的で、身勝手な親の存在であることも明らかにしています(「ふぁみりお」第24号参照)。
 問題の子どもがいるのではなく、その前に問題の親や大人がいるのだと言われます。ブルセラ売りにしても援助交際にしても女子中学生が発明したのではなく、 それを望んだ問題の大人がいたのであり、彼女たちはその需要に付け入って小遣い銭を稼いだに過ぎないのかもしれません。

5 おわりに
 若いときに過激な行動をとったからといって、いつまでもそれを続ける人は稀です。当時の大人たちを不安がらせた団塊の世代の若者たちが、その後、勤勉で忠実な会社人間となり、 日本の経済発展の原動力となったことから見ても、大人たちは「今どきの若者は」と目くじら立てる必要はないのかもしれません。
 しかし、若者たちのモラトリアム人間化と生身の人間との接触・交流を避ける傾向が、年代を超えて一貫して強くなってきていることは、大変気になるところです。 このままでは、自己中心的で社会性の乏しい大人が増えていくことになります。家庭や学校で十分な社会性を培わせることが困難になっているのなら、 解体している地域社会・コミュニティを再構築して、その社会化機能に期待しようという動きが出ています。子どもは地域の人々の厳しさと温かさのあるまなざしの中で、 社会のルールを身につけていくと言われます。間もなく定年退職していく団塊の世代には、その豊かな社会性と強い連帯意識を活かして、コミュニティの再構築に一肌脱いでもらいたいものです。


【「ふぁみりお」36号の記事・その他】

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