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 わが国ではすべての国民が年金制度の適用を受けることになっていますが、夫が勤め人で妻が専業主婦の夫婦の場合、離婚すると妻が受けるのは自分の国民年金だけで、自活することが困難なほどの僅かな額に過ぎません。 夫が外で働けるのは妻の支えがあるからで、夫の支払う年金保険料にも妻の貢献があるのに、離婚すると妻は夫の保険とは全く切り離されてしまうのは不当です。 とくに近ごろ熟年夫婦の離婚が増え、高齢の女性の自活が社会問題になっています。こうした情勢に対応するために平成16年6月、離婚時年金分割制度の創設を含む国民年金法およびその他の関連法の改正が成立しました。 施行は平成19年4月ですが、それまで離婚しないで我慢するという妻もいて、このところ離婚件数が減る傾向もあるぐらいで大きな期待が寄せられています。
 この制度については、すでに多くの論文や新聞記事等で紹介されていますが、年金制度自体も分割制度も複雑で難解な点もあるので、考え方の要点を簡単にまとめて解説します。


年金制度の概要

 わが国の年金制度は、国民年金および厚生年金、共済年金等の被用者年金(以下主として厚生年金について説明します)の二階建てになっています(厳密に言うとさらにその上に企業年金等があります)。 被保険者(加入者)の種類は次のとおりです。
1号被保険者 20歳以上60歳未満のすべての国民(自営業者、無業者等)で、2号または3号被保険者に該当しない者 保険料は年齢、性別、所得に関係なく定額です。 保険給付には老齢、障害、遺族各基礎年金があります。 老齢基礎年金は25年以上の資格期間を満たした被保険者が65歳に達したときから支給されます。
2号被保険者 厚生年金、共済年金等の被用者保険に加入する70歳未満の者(民間サラリーマンや公務員等) 保険料は標準報酬月額および標準賞与額(以下標準報酬という)に一定の保険料率をかけたもので本人と 事業主が折半して負担します。保険給付は老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金にそれぞれ各老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金が上乗せされたものです。 上乗せ額は標準報酬と加入期間に比例して算出されます。
3号被保険者 2号被保険者の被扶養配偶者(いわゆる専業主婦)で20歳以上60歳未満の者 保険料は直接には負担せず、現行法のもとでは被用者年金制度における保険給付を受けることはありません。


分割の対象

 離婚時年金分割制度が適用されるのは被用者保険に加入していた夫婦が離婚した場合で、 分割の対象となるのは被用者年金の報酬比例部分(二階の部分)のうち婚姻期間中に当たる部分です。夫婦がそれぞれ厚生年金、共済年金の加入者である場合それぞれについて、 または一方のみについて分割を行うこと、両年金の分割割合を異なるものとすることも可能です。


分割の手続

 双方が2号被保険者である夫婦が離婚した場合、合意(または裁判)により分割割合を定めて社会保険庁に年金分割を請求します。 社会保険庁はこれに基づいて被用者年金の被保険者である夫婦の婚姻期間中の保険料納付記録(被用者年金の報酬比例部分の年金額算定の基礎となるもの) を分割し、当事者双方の標準報酬の改定を行います。要するに双方の婚姻期間中の標準報酬を合算して分割割合により按分しその結果それぞれの標準報酬額が改められ、 それに基づいて各自の年金額が決まります。
 夫婦の一方が3号被保険者である(またはあった)場合は次項(2)のとおりです。


分割の割合

(1) 双方が2号被保険者の場合(合意分割)
 改定を求める者の分割の割合は、上限が二分の一すなわち50%、下限は夫婦の対象期間標準報酬総額の合計に対する、 分割により増額改定される者の対象期間標準報酬総額の割合です。たとえば夫の対象期間標準報酬総額が1億円、 妻のそれが5千万円とすると加減は5000万÷(1億+5千万)×100=33.33%となります。 この範囲を逸脱することはたとえ当事者の合意があっても許されません。
(2) 一方が3号被保険者の場合(3号分割)
 被用者年金の被保険者(「特定被保険者」という)が被扶養配偶者(つまり3号被保険者)を有する場合、平成20年4月1日以降の婚姻期間については 一方が社会保険庁に請求すれば(夫婦の合意は不要)標準報酬総額の合計が夫婦それぞれ二分の一に改定されます。 これは、特定被保険者が負担した保険料は当該特定被保険者と被扶養配偶者が共同して負担したとみなされるからです。
 配偶者がある期間(「特定期間」という)3号被保険者である場合、特定期間のみについて分割を請求するときは夫婦の合意は不要ですが、 婚姻期間全体について分割を請求するときは、特定期間については夫婦それぞれ二分の一ずつに、その他の期間については合意による割合に基づいて改定されます。


合意できない場合の手続

 離婚した当事者の間で分割割合についての合意のための協議が調わない場合には、家庭裁判所に分割割合を定めるよう求めることができます。 これはいわゆる乙類審判事項とみなされることから、多くはまず調停を申し立て、調停が成立しない場合に審判手続に移行し家庭裁判所が審判することになります。 協議離婚、調停、和解などによる離婚ができない場合には人事訴訟をすることになりますが、その際分割に関することも附帯事項として訴えることができます。
 合意分割では分割割合は法令の範囲内で定めなければならないのでその範囲を正確に把握する必要があります。 そこで当事者または裁判所は社会保険庁に必要な資料の提供を求めることができます。調停や裁判では法令で定められた範囲で分割割合を定めますが、 「対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情」を考慮することになっています。


分割の効果

 分割がなされると各自にその割合による固有の公的年金受給権が発生することになります。たとえば、夫が被保険者である場合、 妻が老齢厚生年金を受給できるのは夫の年齢、生死にかかわらず妻が65歳に達したときから死亡するまでです。 妻が障害厚生年金の対象となる障害を負えば妻自身が障害厚生年金を受けることができます。


財産分与制度と年金分割制度との関係

 財産分与制度は夫婦が現に有する財産を具体的に分与することを内容としていますが、 年金分割制度は年金受給権の計算の基礎となる標準報酬を分割して夫婦それぞれの年金受給権を形成することを内容としています。 このように両者は別個独立の制度であるから、財産分与に関する処分の申立てと年金分割(標準報酬の按分割合)に関する処分の申立てがされているときは、 それぞれについて分与または分割の可否および具体的な内容を定めることが相当であるとされます。


分割請求が可能な時期

 離婚時年金分割制度(3号分割を除く)に係る規定およびこれを前提とする人事訴訟法改正規定は平成19年4月1日に施行されます。 それより前に成立した離婚については分割制度の適用はありません。同日以後に離婚する場合にはそれより前の婚姻期間を含め年金分割が可能になります。
 3号分割についての規定は平成20年4月1日に施行されます。それより前に成立した離婚では3号分割(二分の一ずつ自動分割)の適用はありません(合意分割は可能)。 同日以後に離婚する場合には同日以後の婚姻期間について3号分割が適用されます。すなわちそれより前の婚姻機関については合意が必要となります。
 いずれの場合でも分割請求が出来るのは離婚後2年以内です。 被保険者が現に年金を受給していない(65歳に達していない)時点でも分割請求が可能です。



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