1 インターネットでの面会交流
ユタ州に住むゴフさんは、離婚した妻が娘と他の州に転居するので、娘と会う回数を減らすか、自分も転職して引っ越すかのジレンマに悩んでいました。
しかしモーガン弁護士は、インターネットでの面会交流(以下、IT交流という)を提案し、
子の監護に関する同意文書に加えるよう裁判所に働きかけました。
Webcam(インターネットに接続する小さなデジタルビデオカメラ)を使えば、遠く離れていても、娘とリアルタイムで映像を交えて会話ができます。
IT交流は、人間同士の交流に代替できるものではないとの批判はありますが、面会交流の選択枝を広げるという意味では好都合な方法です。
裁判官はゴフさんの請求を認めたため、数か月実際にIT交流が行われました。
ゴフさんは弁護士とともにこの経験を州議会に働きかけた結果、2004年、離婚時にIT交流を含む監護の同意を裁判所が認める法律ができました。
今のところ、ユタ州が唯一の州ですが、現実には、ゴフさんは転居したウィスコンシン州でも行っており、さらにインターネット上の組織を運営して、
他州でも認めるよう運動しています。
この方法を推奨するロードアイランド州家庭裁判所のリプシー判事は「有効さを知れば、
親子の面会交流が増加する現状では積極的に取り入れるのは当然の流れ」と述べ、メリットがあると思える当事者にのみ紹介し、
実践した結果としては良好だそうです。
しかしこの方法には全く問題がないとはいえません。フェニックスのラジター弁護士は、
過去2年間に離婚の判決の中にIT交流を盛りこんだケースを担当した経験から、
仕事による転居でやむを得ずこの方法を採用して成功したケースがあるものの、
そうでないケースでは必ずしもうまくはいかなかったと述べています。
インターネットを接続すれば四六時中いつでも会話ができるので、同居する親が子どもの使用をコントロールしにくいのが難点です。
ラジターさんは、将来はこの方法が親としてのかかわりの可能性を広げるともいえるが、
すべての監護に関する協定に適しているとはいえないと述べています。(ABA JOURNAL 2005年11月号)
2 まん延するメタンフェタミン
覚せい剤の一種「メタンフェタミン」は米国全土に広がり、2004年の全国薬物管理政策事務所の調査では、1,170万人のアメリカ人が使用経験者とされています。
未成年に関する調査では、高校の最上級生の6,2%が、これを含む薬物を試してみたことがあるというのです。
2005年全米郡協会の法律執行当局への調査では、回答者の58%が、メタンフェタミンを最大の薬物問題として挙げています。
成人の使用は低所得階層から汚染が広がり、未成年の使用も低年齢化しています。
男子の場合、仲間からの圧力で薬物に手を出すようになり、女子はダイエットのために使用に手を染めるようです。
裁判所に係属する事件の80%が何らかの形でメタンフェタミンの使用が関連していて、
刑事事件の被告となると90%が使用者だという人もいます。
アイオワ州ポーク郡のサルコン弁護士は、「薬物使用者が偏執症に陥り、DVや児童虐待、窃盗、強盗その他暴力犯罪を起こす。
彼らに子どもがいれば、保護のために引き離さなくてはならない」と述べています。
メタンフェタミンは都市部にも浸透していますが、地方の小さなコミュニティでより汚染が広がっています。
それは安価で簡単に製造ができるからで、市販の風邪薬の一種からも簡単に作れるというのです。
2005年3月、アイオワ州では、処方箋なしにこの薬を含む医薬品の購入を禁じる法律が通過し、
小売店はこれらの医薬品をカウンター内の施錠したケースに保管しなければならなくなりました。
これで窃盗犯は減少しつつあり、違法製造の減少にもつながると期待されています。(ABA JOURNAL 2006年1月号)
日本経済新聞(2006年4月23日付け)が、アイオワ州で、メス(メタンフェタミンの通称)の常習で子どもの親権を失った母親たちが、
親権を取り戻すために助け合おうと発足した集会を紹介しています。
記事によれば「メタンフェタミン常用者は女性がほぼ半数を占め、男性を上回る州もある。
ブランク子ども病院のシャー医師は、胎内でメスに汚染されて生まれる子どもが後を絶たないと指摘する。
そうした子どもは流産の確率が高く、乳幼児期に感覚が鈍いなどの異常も見られる。
都市近郊の中流家庭の女性が仕事と育児・家庭の両立や、ダイエットのために手を出す例も増えた」そうです。
2006年、アイオワ州と同様の連邦法が発効し、裁判所でも薬物乱用を断つプログラムを導入するなどしていますが、
「メスまん延の根っこには貧困や失業、家庭の崩壊など米社会の病巣がある。
対症療法では食い止められない」と語る元常習者の声には重みがあります。
3 イギリス政府の面会交流支援策
先に述べた父親たちは「Fathers 4 Justice」と名乗り、「裁判所は父親に偏見を抱いている。
離婚の際子どもの親権(監護権)を決めるのに、法的なシステムは母親に有利にできている。
裁判所が父親と子どもの面会を認める決定をしても母親が拒否した場合、それを罰する法律がない」と主張し、
論議を招きました。
社会における男性の役割や父親としての役割の急速な変化を反映して、法律も変えていくべきだとする賛成派もあり、
一方では、メディアも「Fathers 4 Justice」も少数派のグループに焦点をあてて家庭裁判所の実像を歪めているとする反対派もあります。
2004年11月、控訴院家庭局長は「裁判所のシステムには父親への偏見は何もない」と述べましたが、憲法関連委員会は、
家庭裁判所のシステムについて調査を行うことにしました。
2003〜2004年の法改正により、結婚していない父親も、結婚している父親と同様に出生届けに母親・父親の名を記入することで、
それまでのように裁判所の決定を受けなくても、法的に親としての責任が得られるようになりました。
また就労上も、父親も2週間有給の産休を取得できるようになり、
5歳未満の子ども1人について13週まで育児のための休暇を父母どちらでも取得できることになりました。
この潮流の中、たとえ離婚しても両親どちらもが、子どもの幸せを最優先にして、安全で有効な関係を保ち続けるべきであるとの立場を明確にして、
2005年1月、イギリス政府は、離婚した親が子どもに会う方法を改善するための新しい対策の導入を提案しました。
主な提案は、@ 裁判所で面会交流の決定をするときに、裁判所の権限を強化すること、
A 裁判所に持ち込む前の親同士のメディエーションを奨励すること、B 家庭の事件の審問を迅速にするために新たな指針を作ることです。
上記@の強制力について、裁判所は当事者である親に、決定を出す前や決定後、実際に面会交流を行うプロセスにおいて、
面会交流について学ぶプログラムへの参加の義務付けや、裁判所の決定が守られない場合の制裁として、社会奉仕や外出禁止命令、
相手方への制裁金のようなものも提案しています。最後の手段としては、現行の法廷侮辱罪のように、
裁判所が罰金を課すことや刑務所に収容することもありうることを草案に盛り込んでいます。
そして具体的に面会交流が実施できて、当事者へのカウンセリングやアドバイス、教育的プログラも行うなど、
面会交流の総合的支援をする場所として交流センターを設けることを提案し、そのための予算2006〜2007年に300万ポンド、
2007〜2008年に450万ポンドがすでに了承されているそうです。(BBC Action Network及びParental Separation :Children's needs-next Step)
4 チャイルド・サポート・エージェンシーの危機
この機関は、1993年イギリスの保守党政権下で労働年金省に設置され、
離婚して別に生活する親からの養育費の取立てを仲介し、一人親家庭への手当ての支給抑制につなげています。
子どもを育てている親からの申し込みにより、支払い義務のある親の支払い能力を調査し、養育費を算定し、
義務者とも支払い方法等の相談にのり、支払いを勧告します。しかし当初から、父親たちからは請求された養育費が高過ぎる、
母親たちからは請求した養育費がまだ支払われないという苦情が絶えず、また養育費の算定にも過ちが多いため、
その有効性も運営も危ぶまれていました。
これまでにも度重なるシステム改善のための設備投資や、責任をとっての責任者の交代が行われてきましたが、
養育費支払いの履行状況は芳しくなく、2005年9月には前社会保険相をして「壊滅状態」と言わしめました。
2006年2月、労働年金相がこれに替わる新しいシステムの発足を予告しました。
これまでのシステムでは未払い者に強制力が発揮できなかったので、
支払い義務のある親の経済状態を調査する権限を強化すること、この際、
クレジットカードなど支払い義務者の資産にかかわる情報を入手して支払い義務者を追跡しやすくすることや、
支払わない場合の社会奉仕等による制裁も検討されており、さらに長期間支払いが滞っているケースは、
民間の債務回収業者に引き継ぐことなどが盛り込まれる予定で、詳細はこの夏までに発表されます。
(BBC NEWS及びGuardian Unlimited)
|