1 ドロシー・ロー・ノルト、レイチャル・ハリス著「子どもが育つ魔法の言葉」(石井千春訳・PHP研究所 1999年)
この本は、ドロシー・ロー・ノルトの詩「子は親の鏡」の各行を見出しにして、それを多くの事例とともに平易に解説したものですが、そのいくつかを紹介しましょう。
「 」内は、コメントの一部を抜書きしたものです。
励ましてあげれば、子どもは自信を持つようになる
「子どもは自信を失いかけても、親に支えられれば、自信をとりもどすことができます。
親が子どもを信じ、その子の夢、その子の力、その子のすばらしい内面を心から認め、子どもを支えれば、子どもは自尊心のある強い人間に成長することができるのです」
誉めてあげれば、子どもは明るい子に育つ
「子どもは、親の言葉に励まされて、自分は認められ愛されているのだと感じるのです。子どもがなし遂げたことだけではなく、その子の意欲も誉めましょう。
子どもが大人になり、様々な苦難にぶつかったとき、子どものころ親に誉められたことが、心の強い支えになります。
親の言葉を、子どもは一生忘れないのです。子どもは、自分を誉めてくれる親を見て育つことで、友だちとの関係でも相手の良い所を認めて仲良くなっていくことの大切さを学びます。
こうして、子どもは、相手の長所を認められる明るい子に育ちます。親に誉められた分だけ人に好かれる子になるのです」
愛してあげれば、子どもは、人を愛することを学ぶ
「人を愛し、愛されることは、人間にとっていちばん大切なことです。親に惜しみなく愛された子は、すくすくと育ちます。
欠点も含めた全存在を受入れ、愛してくれる親というものが、子どもにはぜひとも必要なのです。子どもは、そのように愛されることによって、人を愛することを学ぶのです」
認めてあげれば、子どもは、自分が好きになる
「子どもが悪い誘惑に打ち勝つことができるのは、親に叱られるからではありません。自分の自尊心が許せないことはできないからです。
子どもの自尊心を育てることの大切さは、ここにもあります。自尊心があるということは、自分が自分を好きであるという肯定的な自己像を持っているということです。
それだけではなく、自尊心とは、自分にはそんな悪いことはできないという道徳律に関わることでもあるのです」
見つめてあげれば、子どもは、頑張り屋になる
「子どもを見つめ、話に耳を傾ければ、子どもの心が理解できます。子どもが何をどのようにしたいと考えているのかがよく分かることでしょう。
それが分かれば、親は、子どもに手を差し伸べることができるのです。わたしたち親は、日頃から、子どもの努力を認め、うまくゆかない時には励ましてあげなくてはなりません。
そうしてこそ、子どもは、夢に向かって頑張る子に成長できるのです」
2 星一郎・順子著「アドラー博士の子どもが素直に伸びる20のしつけ法」(サンマーク出版・2001年)
著者は、アドラー心理学を実践する心理セラピスト夫妻です。アドラー心理学には、勇気づけ、共同体感覚、相互尊敬などのキーワードがあります。
他のところでアドラーは、「私は、自分に価値があると思う時にだけ、勇気を持てる。
そして、私が価値あると思えるのは、私の行動が共同体にとって有益である時だけである」と述べています。
傷つきやすく、深い人間関係を避けたがる子どもたちが多いと言われる今日、アドラー心理学は、子どものしつけに当たって、どのような提言をしているのか、
この本の中から抜書きしてみました。
ほめることと、勇気づけることは違う
「『絵の展覧会で入賞したのね。偉いね』がほめることで、『私もその絵はとても素敵な絵だと思うわ』とか、『私もとても好きだわ』が勇気づけることです。
子どもがいちばん勇気づけられるのは、ほめられたときではなく、お母さんが自分のしたことを喜んでくれたときです。
偉いねには、お母さん自身の気持ちは入っていないのですが、好きだわと喜んでくれたと分かると、子どもも嬉しくなって、また頑張ろうという気になります。
30点の答案を持ってきて見せた子どもに、『隠さずに見せてくれて、お母さんはうれしいわ』と、試験の結果ではなくその後の過程を勇気づけることも大切です」
成長期の子どものしつけの基本は、手伝いをさせること
「家の手伝いをさせたときに、親がしなければならないことは、一つしかありません。
それは、やってもらって当たり前と思うのではなく、たとえば『新聞を取ってきてくれてありがとう。お母さんすごく助かったよ』とお母さんのうれしい気持ちを伝えることです。
すると子どもは、自分がこういうことをすると、お母さんに喜んでもらえるのだと思って、大きな満足感を持ち、
自分が人の役に立っているのだという意識を持つことができるようになります」
アドラーが言うように、自分が共同体にとって役に立っていると感じるときに、自分は価値があると思える、つまり自尊心を持つことができるのです。
自尊心を持つとき、勇気を持つことができると言っているのです。
「〜せよ」でなく、「私は〜と思う」という言い方にする
「簡単に言えば命令口調を極力避けるということです。『お母さんは、早く寝たほうが、明日また元気よく学校に行けると思うんだけど』とか、
『お母さんは、それがいいと思ってそう言っているのだけれど』などという言い方をするかぎり、それは強制ではなく、お母さんの意見として子どもに受け取られます。
子どもはお母さんの意見を選択できるようになります。
これを、アドラー心理学では『I(私)メッセージ』と言って、人と人とのコミュニケーションのなかで最も大切な言い方と考えています。
子どもが、親の意見は意見としてとらえ、自分で考え、選択する余地を残す言い方をしてやることが、子どもを引っ込み思案にしないことにつながっていくと思います。
命令口調で言われることに慣れてしまうと、子どもは、指示がないと何もできない指示待ち症候群の子どもになります。
言われればできるけれど、自分の考えでは行動できない子どもになってしまうわけです」
3 シャロン伴野著「子育てが楽しくなる魔法の言葉」(三笠書房・2004年)
著者は、ハワイ生まれの日系三世で、大学の英語講師をしながら子育てに関する分野でも活躍中です。
彼女は、日本人の子どもたちが自分で判断しようとしない自主性、自立心のなさに着目して、子育ての中でそれを身につけさせる魔法の言葉を考案しました。
それが「どっちがいいですか?」です。
使い方はとても簡単、今すぐ役立つ魔法の言葉
「使い方は、子どもに二つの選択肢を示し、そのうちのどちらかを選ばせる、きわめて簡単なものです。
たとえば、大切なお客さまが来ているのに、子どもがぐずって泣き出したとき、私はこう言います。
『お母さんは今、お客さまと大事なお話をしているの。もし、泣きたいのなら、玄関のところに行って泣きなさい。
もし、お母さんたちと一緒にいたいのだったら、泣きやみなさい。どっちがいいですか?』と。たいていはみんなと一緒にいたいと思いますから、泣きやみます。
この場合、自分で選んだことなのですから、小さな子どもでも誇りをもって、再度泣きだすようなことはしません。
子どもは自分でどちらがいいかを判断して選び、そして自分が下した決定を守る能力と自尊心をもっています」
「どっちがいいですか?」の5大効果
「第1に、親が子どもに押しつけず、自分の行動について子ども自身に選ばせることによって、子どもの自立心が育ちます。
第2に、どちらを選ぶか自分自身の頭で考えなければなりませんから、思考力も養われます。
第3に、自分自身で考え、それに基づいて下した結論によって行動するので、子ども自身のヤル気が出てきます。
第4に、子どもがぐずったり、すねたりしなくなるので、親はストレスがなくなります。
第5に、子どもは自分に選択肢を与えてくれた親を尊敬し、親は子どもが自分で選んだ行動に責任をもつのを見て頼もしく思うので、親子の信頼関係が深まります」
我が家の「どっちがいいですか?」 喜びの体験談
この本には多くの体験談が掲載されていますが、その一つを紹介します。
「野菜嫌いの6歳の娘に、『ねえ、この野菜、どうやったら一番おいしく食べられると思う? お塩をつけて食べようか? それともマヨネーズのほうがいいかな?』と聞いたところ、
『ゆで卵と一緒にマヨネーズをかけて食べたらおいしいかもしれない』と言うので、『それならどのくらいに切るのがおいしいだろう? 大きく切る? 小さく切る?』と言ったら、
娘は目の前のキュウリを注意深く切り始めました。娘が自分で切った野菜をおいしそうに食べたのは、言うまでもありません」
4 おわりに
子どもを勇気づけ、やる気にさせるのは、それほど難しいものではないように思われます。
あなたは、ガミガミ言って子どもに嫌われるのと、魔法使いになって子どもに尊敬されるのと、どっちがいいですか?
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