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◆平成家族考 39


 親の離婚を子どもはどう受け止め、どのような影響を受けるのかについては、 当センターが平成16年度に実施した調査研究の報告書「離婚した親と子どもの声を聴く」で明らかにしました。 その概要は本誌第35号で紹介しましたが、親が離婚した子どもへの精神的支えとしての面会交流の部分の紹介が省略されていましたので、 本号では、この調査研究で明らかにされた「子どもの立場から見た面会交流」について紹介します。さらに、 現在、当センターで実施されている面会交流援助の実際場面における子どもたちについて、援助者はどのように感じているのかを紹介し、 ともすれば親同士の利害や駆け引きの道具となりやすい面会交流を、本来の権利者としての子どもの立場から考えてみたいと思います。

平成16年度の調査研究の方法等
 調査対象者は、離婚を経験した親と親の離婚を経験した子どもで、当センターの調査研究の趣旨を知り、 調査への協力を申し出ていただいた方々です。 調査方法は、56人が面接調査、19人がアンケートへの回答、122人がホームページへの書き込みによる調査です。 回答したのは、親が101人、子どもが96人です。親の年齢は、30〜40代がほとんどです。 子どもの立場の回答者の年齢は、10〜30代がほとんどですが、70代、80代の人もいて、 幼いころ親が離婚したときの悲しみとその後の苦難の人生について話していただきました。

1 母親と同居している子どもの父親との面交流
 親の離婚時に既に成人になっていた子ども(7人)と父母以外の者と同居している子ども(2人)を除いた87人の子どものうち、 離婚後母親と同居している子どもは70人(80%)、父親と同居している子どもは17人(20%)で、 この比率は、離婚統計の実情に近い割合であると思われます。
 母親と同居している70人のうち、面会交流「あり」は41人(59%)、「なし」は27人(38%)、無回答2人です。 約6割が父親との面会交流を行っていますが、面会交流の重要性が認識されるようになったのは、最近のことですから、 かなり昔に親の離婚を経験した子どもも多いことを考えると、父親との面会交流「あり」の比率は、 現在はもっと高くなっていると思われます。 「あり」と答えた41人のうちの31人(75%)が面会交流を肯定的に評価しています。 「やってよかった」が22人、「どちらかといえばやってよかった」が9人です。 「やらない方がよかった」と否定的に評価したのは6人(15%)で、「不詳・不明」が4人(10%)となっています。
 面会交流をやってよかった理由としては、
・「父のいい面も見えてきた」(離婚時5歳、現在20代女性)
・「勉強など教えてもらえる」(離婚時10歳、現在10代女性)
・「自分を愛してくれるのを肌で感じられた」(離婚時10歳、現在20代男性)
・「私の心の土台ができた」(離婚時10歳、現在40代女性)
・「友人と父の話をしても普通に話せる」(離婚時12歳、現在10代女性)
・「精神的な支えになった」(離婚時16歳、現在20代女性
 などの回答があります。
 面会交流をやらない方がよかったと思っている6人は、父親について、
・「私のことは嫌いだと言われてから、会うのが怖くなった」(離婚時10歳、現在10代女性)
・「父は私の話に関心なく、父が愚痴をこぼすための連絡は迷惑」(離婚時11歳、現在20代女性)
・「父は自分の夢を追求していく人。父親になってはいけない人だった」(離婚時14歳、現在20代男性)
・「父の自己満足だった。私のためだったことは一つもない」(離婚時14歳、現在20代女性)
・「遠かったので会いに来ることはなかったが、酔って電話をかけてきたり、中3の私にお金を無心したりした」(離婚時14歳、現在30代女性)
 などを問題にしています。
 中3の子どもにお金を無心した親の離婚原因は、ドメスティック・バイオレンス(DV)でしたが、 この女性は「DVがある場合は、基本的には面会交流を認めるべきではないと国連の報告書にも書いてあります」と記述しています。
 また、20代の女性(離婚時17歳)は、「なんとなく母に隠してという形になるし、 母からは父と連絡をとっているのかと聞かれるたびにイライラした」と、一緒に暮らす母親のあり方を問題にしています。
 一方、面会交流がなかったのは27人(38%)で、そのうち6人(22%)が面会交流を肯定する意見を、9人(33%)が否定する意見を述べています。
 面会交流はなかったが、それを望んでいた20代の女性(離婚時保育園児)は、「離婚後、母親にしてほしかったことは何か」の問いに、 「父親と会う機会を作ってほしかった」、「父親にしてほしかったことは何か」の問いに、「一度でいいから会いたかった。 せめて年1回の誕生日は祝ってほしかった」と答えています。「今も十数年前の親の離婚の影響は大きく、ストレスになっている。 心理的にかなり追いつめられていたことはトラウマとなって今の私を苦しめる。しかし、母を責める気はない。 今の願いは、一度父親に会いたいということだけだ。 それが実現すれば、やっと長年の心のもやもやが少しは晴れるのではないか」と思いを綴っています。 同じく大学生の女性(離婚時4歳)は、「離婚後、父親にしてほしかったことは何か」の問いに、「手紙の1通ぐらい書いてほしかった」と答えています。 面会交流がなかったことについて、父や母に対して、子どもが会いたい気持ちを汲み取って、働きかけてほしかったという回答は複数ありました。
 逆に、面会交流を望まなかった20代の男性(離婚時6歳)は、「離婚してよかった。喧嘩が絶えず、喧嘩のときの父親の怒鳴り声や躾の厳しいことで、 怖い、嫌いという気持ちしかなかった。父親に会わなくて済むことで気分的に幾分楽になった」と述べています。 離婚時に映った父親像から「離婚してよかった」という思いになっても、「両親が離婚したことで困ったり悩んだりしたことがありますか」の問いには、 「離婚するような相手との子どもを何でつくるのか、そんな相手との子どもは生まれて生きていく意味はないと思った。 このような感情は大きくなるにつれて強くなってきたと思う」と、私たちにはずっしりと重い心情を伝えています。
 面会交流のなかった27人のうち、「一度でいいから会いたかった」など、交流を望んだ回答者は5人ですが、 「親は子どものために離婚すべきではない」との考えについてどう思うかと聞いてみました。 60代の女性(離婚時1歳9か月)は、「そう思う。幼い頃から、私はなぜ生まれてきたのだろうという思いを引きずってきた。父の墓参りができてようやく区切りがついたが、 それだけ親の離婚は後々まで影響する。相手が刑事事件、多額の借金ほか、やむを得ない理由は別として、 一時の感情や相手の嫌な面が理由なら思いとどまってほしい。 両親がいることが子どもの安定になる。他の子と違うという自分のマイナスを悩まないし、なぜ自分が生まれたのかと悩まず、精神面でも安定、 安心感がある」と答えています。
 20代の女性(離婚時10歳)は、「そうは思わない。父は子どもの手本になっていなかった。ギャンブルで借金の状態であったし、 一緒に遊んだ記憶もない。離婚はやむを得ないと思う。ずっと父を許せないと思っていた。結婚した年に父が亡くなったことを聞いた。 初めて父の存在を実感した。私が今こうして幸せな生活を送れるのは、両親があってのことだと思う 。父親が亡くなる前に『ありがとう』の感謝の気持ちを伝えたかった。今は許す気持ちへと変化した」と答えています。
 面会交流に関し、それを望んでいた子ども、それを拒否していた子ども、それぞれの心情に、同居する親だけではなく、 別居している親も耳を傾け、親としてのあり方を自省し、面会交流の道筋をつけていかなければ、 離婚による子どもたちの心理的外傷は癒されることはないと思われます。

2 父親と同居している子どもの母親との面会交流
 父親と同居している17人のうち、母親との面会交流「あり」と「なし」は同数の8人です。 「あり」8人のうちの7人が面会交流を肯定的に評価しており、評価不詳(「分からない」と回答)が1人で、否定的な人は皆無でした。
 離婚時に子どもの年齢が低い場合、父親が引き取り、母親との面会交流を円滑に続けていくには、子どもの心情を十分に理解して、 安定できるように支えてやる、親の心構えが必要です。 面会交流を「やってよかった」と評価している7人のうち6人は現在も何らかの形で母親との交流が続いていますが、 親の離婚については、それぞれの心情が表現されていて考えさせられます。
 20代の女性(離婚時10歳)は、「理由が理由だけに、母についていくのが難しかった」(離婚原因が母の異性問題)が、 「母と別れるのが苦痛だった」。父は面会交流を認め、交流は現在も続いており、「やってよかった。母を理解する機会を与えられた。 会うことは重要。父の理解に感謝している」と受け止めています。
 面会交流の評価が「分からない」と答えた30代の男性(離婚時5歳)は、父親が離婚原因となった女性と再婚し、その後再び離婚したことで、 「誰のために耐えてきたのか分からなくなった」と伝えてきています。
 面会交流が全くないと回答した8人のうち5人は、離婚前に父から事実のみを言われただけで、 別れて暮らすことになる母からは何の説明もなかったとしています。したがって、離婚後、親にしてもらいたかったこととして、 「説明と謝罪」を求めている人もいます。また、母が帰って来なかったので「捨てられた」と受け止め、 「親から捨てられたという記憶は一生消えない」と述べています。
 母子関係は、父子関係よりも情緒的であるため、子どもが何歳のときに母親とどのような別れ方をするかは、心理的外傷の程度を左右します。 今は離婚時の対立感情を抑えて、父と母が子育てのパートナーとして、子どもが心に抱いていることを心の眼で感じ、 受け止めてやる親のあり方が問われていると思います。

3 面会交流援助の実際場面での子どもたち
 当センターは、常時60組ほどの親子の面会交流の援助を行っていますが、父親と3〜5歳の子どもの面会交流が大部分です。 交流の場所は、おもちゃが一杯置かれている当センターの面接室が半分ぐらいで、子どもの城、子ども科学館、水族館、公園なども利用されています。
 例えば、父親と4、5歳の男の子との面会交流援助の場面を紹介しますと、最初は子どもが遊んでいるところに、 援助者がさりげなく父親をいざなっていく形をとっています。 そのとき、子どもの目線で子どもの遊びに直ぐ参加できて、おもちゃのやり取りで心のやり取りができる父親がいるかと思うと、 どう接してよいか分からず黙っているため、子どもに不安を感じさせる父親や、 あるいは同居している母親の育て方のアラ探しをしているかのように監視している父親もいます。 せっかくの交流の機会に、自分にも父親がいる、父親に愛されているという実感を子どもが持てないのは悲しいことです。 そのような場面では、援助者は子どもにボールを持たせ、「会えてうれしいというボクの気持ちをパパに届けようネ」と父親に渡させ、 父親にも「パパもうれしいよ」と返させるなどの介入を行います。子どもを独りでトイレに行かせようとする父親に、 「こんなときは一緒に行って連れションするのがお父さんじゃないですか」と助言したことがありますが、 手をつないで帰ってきたときの二人の満面の笑みが、その後の交流を一変させたことは言うまでもありません。
 父親のTシャツをまくり上げ、胸や背中をなで回しながら、「パパだ、ボクのパパだ!」と叫んだ子どもがいます。 子どもとキャッチボールをした後で、「こちらが強く投げると、あいつも強く投げ返し、優しく投げるとあいつも優しく投げ返し、 心が通い合っていると実感しました」という父親がいました。また、父親に「お母さんの名前に変わったんだって?」と問いかけられて、 「でも、ぼくはお父さんとお母さんの子だから、本当は中村山川太郎だとお母さんが言ったよ」と答えた子どもがいました。 「いいお母さんだな」と父親がフォローしましたが、別れても相手を立てる両親を持った子どもは幸せです。

4 面会交流を真に子どものものにするために
 面会交流は、離婚の怨念や係争中の事件の駆け引きの道具にされてはなりません。 親の離婚を経験している子どもは、父親にも母親にも愛されたいと願っています。 そのために、自分が微妙な立場にいることを自覚しており、例えば、別居している親がプレゼントしようとしても、 子どもは、同居している親、きょうだい、祖父母はどう思うかを考え、要らないと言うかも知れません。 面会交流の場は、物で子どもの歓心を買うところではなく、子どもに父親の愛、母親の愛を感じ取ってもらう場です。 面会交流を終えた子どもが、「楽しかった!」と素直に言えて、それを聞いた同居親が「よかったネ」と言ってやれるような交流であることを願っています。

FPICが出版した本の紹介

 調査研究報告書「離婚した親と子どもの声を聴く」は、800円(税込み)+送料で頒布されています。 購入希望者は、当センター(8頁参照)にお申し込みください。



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