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◆平成家族考 40


 日本における離婚の種別には、@協議離婚、A調停離婚、B審判離婚、C和解離婚、D請求の認諾による離婚、E判決離婚の6種類があります。 このうちA〜Eの離婚は、すべて裁判所において決められる離婚ですが、@の協議離婚だけは、裁判所など第三者の介入なしで、 夫婦の話し合いだけで成立するものです。 このような協議離婚が認められている国は、世界的にもスウェーデン、ノールウェイ、オランダ、それに中国、韓国など数か国に限られているようです。 国民性や宗教などが異なっているにもかかわらず、ほとんどの国が裁判所など第三者の介入なしでは離婚を認めていないのに、わが国の離婚の約90%が、 この第三者の介入なしの協議離婚によるものであることは、特筆すべきことかも知れません。
 本号では、特に、子どものいる夫婦の協議離婚について、話合いの中でどのようなことを取り決めておかなければならないのか、 決められたことを単なる空手形に終わらせないためにはどうすればよいのか、そして子どもたちにはどう説明するのかなどについて考えてみたいと思います。

第1 協議離婚とは
 わが国の民法763条は、「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる」と定めています。 夫婦双方が離婚すると合意し、それを書面で届出することによって法律的に成立します。あくまでも夫婦の自由意志による合意でなくてはならず、 どちらかの詐欺・強迫によるものであった協議離婚は、家庭裁判所に申し立てて、取り消すことができますし、また、相手からの一方的な協議離婚届出を阻止するために、 予め本籍地の市区町村長に不受理申出をしておくこともできます。
 夫婦が全く対等の立場で、自由意思による合意のもとで離婚できるというのは、理想的な姿といえるかも知れません。 離婚調停や離婚裁判の当事者たちの中には、お互いに感情的になって話もしたくない、顔も見たくないという人たちが多く見受けられます。 それに比べれば、協議離婚の当事者の方が、話し合う冷静さを失っていない人たちが多いのかも知れませんが、それでも一刻も早く別れたいために、 主張すべき権利や条件などを放棄した形で相手に離婚届を書かせている人もいるようです。
 離婚届には、未成年の子どもがいる場合には、父母のどちらが親権者になるかを記載しなければなりません。 しかし、第2で触れるその他の重要な取決めについては要件として求められていないため、ときには親権さえ貰えればとか、親権を渡したのだからということで、 それ以外の取決めをしないまま離婚届を出していることも多いように見受けられます。
 協議離婚に次いで多い調停離婚(離婚全体の10%前後)では、調停が成立して作成される調停調書には、未成年の子の親権者だけではなく、 財産分与、養育費等支払い義務と支払い方法等が明記されています。これには確定判決と同一の効力が保障されていて、きちんと履行されないときは、 家庭裁判所に履行勧告を申し出ることができ、場合によっては地方裁判所に強制執行を申し立て、給料や資産を差し押さえることもできる強力なものです。 また、最近では子どもと別れて暮らす親と子どもの面会交流(面接交渉)についても、その実施の仕方などについて明記しておくのが一般的となっています。
 こうして見ると、協議離婚の問題点は、十分な協議や取決めなしでも離婚できることと、 たとえ取決めがなされたとしてもそれが履行されないとき強制的に取り立てられるような手続きが執られていないために空手形になってしまうことの二つに集約できるようです。

第2 協議離婚するときに取り決めておくべきこと
 これから述べる協議離婚での取決めを確実なものにするためには、取決めを文書化して離婚協議書を作成し、それに基づいて公証役場で公正証書にしておくとよいでしょう。 金銭的な取決めについては、強制執行認諾約款条項を入れておくと、取決めが守られない場合は、強制執行による取り立てもできます。
 協議離婚に限らず、離婚するときに夫婦双方で取り決めておくべきことについて見ておきましょう。
 なお、「ふぁみりお」第21号は、「子どもがいる夫婦のための離婚セミナー」を特集し、これらについて詳述しています。 この第21号は、インターネットで「家庭問題情報センター」を検索し、そのホームページで「ふぁみりお」を選択すると閲覧できます。

1 親権者
 親権の内容は、子を監護・教育する権利と義務、子の居所を指定する権利、必要な範囲で子どもを懲戒する権利、子が職業を営むことについて許可する権利、 子の財産を管理する権利と義務、子の財産に関する法律行為についてその子を代表する権利、とされています。婚姻中は、父母が共同して親権を行使しますが、 父母が離婚した場合など、親権を共同で行使できないときは、その一方が親権者と定められることになります。したがって、未成年の子がいる夫婦が離婚する場合は、 未成年の子それぞれについて、父母のどちらが親権者になるかを決めて離婚届を出す必要があります。
 離婚して親権者になった人は、単独でこれらの権利と義務を行うことになります。
 離婚届には、未成年の子と親権者を記載する欄があり、これは必要記載事項ですから、 協議離婚の場合も親権者を決めないで離婚届を出しても受理してもらえないことになります。 したがって、協議では親権者が決められないときは、家庭裁判所の調停又は審判による離婚をするしかありません。

2 養育費
(1) これまでは未成年の子という言葉を使ってきましたが、養育費の対象となるのは、未成熟子です。 未成熟子とは、成年に達しているかどうかではなく、子自身が自分で稼いでおらず、経済的・社会的に自立していない子のことをいいます。 したがって、まだ18歳であっても親の援助なしで自立している子は、未成熟子ではなく、20歳であっても学生や進学浪人をしている子は、 未成熟子として養育費の支払いの対象となることがあります。
 未成熟子に対する親の扶養義務は、親の生活に余力がなくても自分と同等の生活を保障するという強い義務(生活保持義務)だとされています。
(2) 養育費の請求は、未成熟子が必要とする限りいつでもできますが、離婚の際に額や支払方法等を決めておくのがベストです。 厚生労働省の平成15年度の全国母子世帯等調査によると、「養育費を受けたことがない」母親が協議離婚では72.6%で、調停離婚の31.3%を大きく上回っています。 離婚協議の中で取り決められていなかったか、取り決められていてもそれを確保する手続が執られていなかった結果だと思われます。 話し合いがつかないときは、家庭裁判所に調停又は審判を申し立てます。養育費は子の日々の生活に当てるものですから、月決めで、例えば月末までに、 子の預貯金口座に振り込んで支払うというように取り決めます。支払い期間も一応成人に達するまでとか、大学を卒業する時期までとか決めるのが多いようです。 支払いは長期間継続するので、子にも親にも状況の変化が起こって、一旦決めた養育費が実情に合わなくなることがあります。 こういう場合、話し合いで変更することができますが、もし話し合いがつかなければ、やはり家庭裁判所に申し立てることになります。
(3) 養育費の算定額については、平成15年に家庭裁判所の裁判官等からなる東京・大阪養育費等研究会が、父母双方の総収入と基礎収入(総収入から税金、 職業費、住宅ローン、保険医療費等を控除したもの)から簡易迅速に養育費の目安が分かる「算定法と算定表」を発表し、一般に公開しました。 家庭裁判所の実務ではこの使用が定着化し、それまでの諸費用を実額で算定する煩雑さから解放されました(「ふぁみりお」第32号で紹介)。
 さらに、厚生労働省は、平成19年度中に、都道府県などが母子福祉センターなどに置いている「母子家庭等就業・自立支援センター」で、 養育費の相談にも積極的に取り組むことを予定していて、離婚後も両親に子の養育責任があることを明確化する活動が進むものと期待されます。

3 面会交流(面接交渉)
 離婚後あるいは別居中に、別れて暮らす親子が会ったり連絡し合ったりすることを、面会交流(裁判所では面接交渉)といいます。 両親が離婚し、親同士は他人となっても親子の関係は変わらないのですから、子どもの福祉を害しない限り面会交流を認めることが定着しています。 表面上はともかく、子どもは、心の底では両方の親から愛されたいと願っているからです。 面会交流の大切さについては、この「ふぁみりお」でも何回となく強調してきているところですが、 特に、「ふぁみりお」第37号、38号、39号と連続で、父親の立場、母親の立場、子どもの立場から面会交流について、 当センターが行っている交流援助の事例をもとに紹介しています。いずれもホームページでもご覧になれます。
 面会交流の取決めは、強制執行には馴染まない事柄ですから、離婚協議の中で、双方が十分納得した上での取決めをしておいてほしいものです。

4 財産分与・年金分割
(1) 財産分与
 財産分与は、婚姻中に夫婦で協力して得た財産(婚姻前に所有していた財産や相続で受けた財産は含まない)の清算です。夫が外で働き、 妻が家事をしてきたような場合、財産は夫名義にすることが多いでしょうが、夫が安心して働けたのは妻の内助の功があったからで、 その財産には妻に潜在的な持ち分があると考えられ、離婚の際には清算するのが公平です。 また、ずっと専業主婦を続けてきた妻がすぐに自立できる収入を得ることが困難であるような場合、財産分与には離婚後の扶養(生活保障)をする意味もあります。 その他婚姻破綻に責任のある場合の慰謝料の意味が含まれることもあります。 特に妻が子を引き取る場合、子のためにも安定した生活ができることが望ましいので、しっかりこの権利を行使して取り決めておきましょう。
 財産分与について話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の調停か審判を申し立てることになりますが、離婚後2年経つと請求できなくなりますから注意してください。
 財産分与の対象となる財産は、夫婦で協力して得た財産です。マイナスの財産、つまり借金ということもあります。 特別の事情がなければ、財産形成に対する夫婦の寄与は、五分五分と考えられるようになってきています。 夫の今日あるのは妻の内助の功によるものと考えれば、将来の収入も対象財産となり得ます。近い将来退職金を受け取ることが確実であれば、 これも考慮に入れてよいのです。また、次の(2)で述べる年金分割もこのような考え方の表れでしょう。
 生活保障や慰謝料の意味を含めるのであれば、婚姻前から持っていた財産なども対象になり得ます。
(2) 年金分割
 年金分割制度については、既に「ふぁみりお」第36号で解説していますが、簡単にいえば離婚後に夫婦の年金を分割できるようにする制度です。 これは、夫が外で働けるのは妻の支えがあるからで、夫の支払う年金保険料にも妻の貢献があることを認めた結果です。 分割の対象となる年金は、民間サラリーマンが加入している厚生年金と公務員等が加入している共済年金です。分割制度は、次の2段階で実施されます。
 まず、平成19年4月1日以降に離婚した場合の年金分割は、夫婦の合意、又は家庭裁判所の決定によって分割割合(2分の1までを限度)を決めるものです。
 次に、平成20年4月1日以降に民間サラリーマン及び公務員等と専業主婦の妻が離婚した場合、年金分割を申し出れば、 平成20年4月1日以降の専業主婦であった期間は自動的に2分の1ずつになります。それ以前の期間は合意された割合で分割されることになります。
 年金制度自体も分割制度も複雑で難解な点が多く、離婚すれば、単純に年金の半分が貰えると誤解している妻も多いと思われます。 厚生年金については社会保険庁が、公務員共済年金についてはそれぞれの省庁等の共済組合が情報提供や相談に応じていますので、活用されることをお勧めします。

第3 離婚を子どもに説明する
 親の離婚は、子どもにとっては、愛する親の片方をもぎ取られ、ときにはきょうだいをもぎ取られ、可愛がってくれた祖父母をもぎ取られ、 仲良しの友達や学校・近隣など馴れ親しんでいるものをもぎ取られ、不馴れな場所で、経済的には前よりも乏しい生活の中で新しい人間関係を強いられることです。 大切なものを喪失した悲しみと、どうなっていくのかという不安におののくことになる子どもたちに、親は離婚について、ていねいに説明する責任があります。 平成16年度に当センターが行った調査研究「離婚した親と子どもの声を聴く」の概要を「ふぁみりお」第35号で紹介しましたが、 そこでの子どもたちの意見は、「親は離婚の説明をきちんとすべきである」ということに集約されます。 「どうして離婚したいかをきちんと説明し、離婚後の場所や環境がどのように変わるかを説明して安心させること」を願っています。「家族だから分かるはず」とか、 「まだ小さいから」とかで説明しなくてもよいという考えは受け入れられないのです。 「4歳の子にも離婚の理由を説明してくれた。暗く悩まずにすんでいる」という声がありました。
 できれば父母両方がそろって、子どもに説明するのがよいでしょう。 説明の中に盛り込んでほしいことは、「どんなことがあっても子どもを愛していること」、「親が守ってやること」、「離婚しても親子は一生親子であること」、 「会いたければいつでも会えること」、「離婚は子どものせいではないこと」などです。 今後の生活の不安や心配に対し、現実にできること、できないことを責任と覚悟をもって、誠実に説明する必要があります。

おわりに
 離婚の9割を占める協議離婚においては、離婚に際しての必要な取決めがなされていなかったり、取り決めたとしても実行されなかったりする実情が見受けられます。 当センターでは、協議離婚における取決めをより実効性のあるものにするために、 これから協議離婚をしようとしている人たちへの相談・援助・調整の機能を強化していくことにしています。


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