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◆平成家族考 41


 当センターでは、本年2月24日(土)にFPICセミナー「熟年離婚―どうしますか お金と心の問題」を開催し、好評を博しました。 参加された多くの中高年の方々の熱心な質疑に、熟年離婚への関心の強さ、切実さを感じさせられました。
 10年前の1997(平成9)年には、結婚したばかりの若い夫婦の離婚をテーマにしたTVドラマ「成田離婚」(フジテレビ系)が 平均視聴率18.6%という高さで評判になりましたが、それから8年経った2005(平成17)年には、 35年間連れ添った夫婦の離婚をテーマにしたTVドラマ「熟年離婚」(テレビ朝日系)が最終回には30%を超える高視聴率となり、 熟年離婚という言葉はすっかり定着しました。
 また、熟年離婚を考えている人にとって、今年の4月は、離婚時の新しい年金分割制度がスタートしたということで、大きな意味を持っており、 これから熟年離婚が増えるのではないかと予想する人もいます。 それで、今回は、サラリーマンの夫を持つ専業主婦の妻に焦点を当てて、熟年離婚について考えてみたいと思います。

第1 熟年と熟年離婚
 熟年という言葉は、昔からあったわけではなく、1978(昭和53)年に作家の邦光史郎氏が最初に使ったと言われています。 熟年の具体的な年齢については諸説があるようですが、人生の経験を積んで円熟した年頃ということで、50歳前後の中高年層を指して使われる場合が多いようです。
 一方、熟年離婚という場合は、50歳前後の人たちの離婚を指しているのではなく、結婚して20年以上が経過した夫婦の離婚を指して使われています。 したがって、70歳の夫婦が離婚しても、結婚して10年しか経っていない場合は、熟年離婚とは言えないことになります。 逆に、20歳で結婚した夫婦が41歳で離婚する場合は、熟年ではないのに熟年離婚と呼ばれることになります。 つまり、年齢には関係なく、結婚してから20年以上の同居期間があったのに離婚するのを熟年離婚と呼んでいるのです。

第2 熟年離婚件数の動向
 厚生労働省の離婚統計に基づいて、2005(平成17)年の同居期間別離婚件数を、30年前の1975(昭和50)年のそれと比べてみると、 第1表のとおりです。確かに、熟年離婚を指す同居期間20年以上の増加率は5.9倍と格段に増加していることが分かります。 その要因の一部には、長寿化のために、結婚して20年以上の夫婦の数が増えていることもありましょう。



 ここ数年、離婚件数が減少しているのは、熟年離婚を考えている妻たちが、2007年の年金分割制度の実施を待って、 離婚を控えているからではないかと言われていますが、果たしてそうなのでしょうか。 それを確かめるために、同居期間別にここ8年間の離婚の推移を第2表で見てみましょう。



 これによると、年金分割制度と関係のなさそうな同居期間「1年未満」を始めとして、どのグループも2001、2年までは離婚が増加し、 それ以降は軒並みに減少しています。したがって、離婚減少が直ちに年金分割制度と結びついているわけでもなさそうです。 成田離婚も熟年離婚も軌を一にして減少へと推移しているところを見ても、離婚には別の要因が作用しているものと思われます。
 例えば、離婚するには、その前提として婚姻がなければなりませんが、晩婚化、非婚化が指摘されている昨今、 離婚率を単純に人口1000人当りで算出する現在の方法では、婚姻していない人が増えている場合は、離婚率は低下するのは当然です。
 そこで、婚姻件数と離婚件数及びその比率を見てみると、第3表のとおり、最近は婚姻件数が減少するにつれ、離婚件数も減少しており、 その比率は、かなり一定しています。つまり、最近の離婚の減少には、婚姻の減少も影響があるように思われます。



 もちろん、熟年離婚を考えている人の中には、年金分割制度のスタートを待っていた人もいるでしょう。新しい年金分割制度により、 自分が期待していたほどの年金が得られると考えれば、離婚が増えることになるかもしれません。 ただ、当センターが開催した「熟年離婚」セミナーに参加した多くの専業主婦の皆さんは、年金分割に大きな期待を持っておられたようで、 例を挙げて計算された年金額の少なさにがっかりされた姿が印象的でした。
 いずれにしても、人生の後半において、20年以上も同居してきた配偶者との離婚に踏み切るには、 できるだけ離婚後の現実的な生活設計を描いておくことが大切です。

第3 熟年離婚の背景
 団塊の世代が、いよいよ定年退職の時期を迎えていますが、TVドラマ「熟年離婚」は、定年退職をした夫に専業主婦の妻が離婚を宣言することで始まっています。
 団塊の世代の夫婦は、戦後の新しい教育を受けたにもかかわらず、現実には、夫は外で働き、妻は専業主婦として夫を支えて家を守るという、 戦前の性別役割分担を引きずってきました。定年退職を迎える夫の多くは、長年の夫婦の絆を信じ、これからの安楽な余生を想い描きます。 一方、妻の方は、長年の夫婦の柵(しがらみ)にこれからも耐えるかどうかを思案します。 会社では有能なサラリーマンだったとしても、家では全く無能で自立できていない夫に愛想がつきている場合もあります。 「亭主は達者で留守がよい」と思っていたのに、その亭主が、定年退職後は毎日家の中でのそのそしていたり、濡れ落ち葉のように自分にくっついてきたり、 独りでいたときは手抜きの食事ですませていたのに、三度三度の食事を用意させられたりするのは、想像しただけでゾッとすると思う妻たちは多いと思われます。 あるいは、もっと深刻で、夫の横暴さに耐えに耐えてきて、限界に達している妻もいるでしょう。 また、子育てや家事全部を一方的に押し付けられ、自分らしい生き方は何一つできないできたが、子どもは既に自立しており、今度は自分が自立し、 気兼ねしないで自分だけの幸せのために生きる日々を想い、夫の退職と同時に、自分も妻の座を退職したいと考える妻もいるでしょう。
 自立するためにはまとまったお金が必要ですが、幸い目の前に待ちに待った夫の退職金があり、これを財産分与で半分貰えれば自立するための資金となり、 年金も半分貰えれば、あとは少し働くことで、離婚しても何とかやっていけるのではないかと思えてきて、妻からの離婚宣言へと跳び込みやすくなるかもしれません。

第4 熟年離婚と年金分割
 年金分割制度については、既に「ふぁみりお」第36号及び第40号で解説していますが、簡単にいえば離婚後に夫婦の年金を分割できるようにする制度です。 これは、夫が外で働けるのは妻の支えがあるからで、夫の支払う年金保険料にも妻の貢献があることを認めた結果です。 分割の対象となる年金は、民間サラリーマンが加入している厚生年金と公務員等が加入している共済年金です。分割制度は、次の2段階で実施されます。
 まず、平成19年4月1日以降に離婚した場合の年金分割は、夫婦の合意、又は家庭裁判所の決定によって分割割合(2分の1までを限度)を決めるものです。
 次に、平成20年4月1日以降に離婚した場合、年金分割を申し出れば、平成20年4月1日以降の専業主婦であった期間は自動的に2分の1ずつになります。 それ以前の期間は合意された割合で分割されます。
 熟年離婚を考えている専業主婦の中には、来年4月を待って離婚すれば、自動的に年金の半分が貰えると誤解している人もいるようです。 自動的に半分貰えるのは、来年4月以降に専業主婦であった期間の分についてだけですから、今すぐ熟年離婚をしようと考えている人にとっては、 とても間に合わないことになります。妻に愛想をつかされ、離婚を宣言される夫が、素直にこれまでの妻の貢献を認めて、 高い割合の分割に合意してくれることはあまり期待できないので、結局は、家庭裁判所で決めてもらうことになるかもしれません。
 年金の多くは、分割しなくても夫婦2人で暮らすのにも十分な額ではありませんから、これを分割してそれぞれが独立して暮らすのは更に大変です。 ここまで我慢してきたのだから、夫の年金の4分の3が貰える遺族年金を当てにして、それまでは、夫に留守番をさせ、 自分は友達と旅行・グルメ・サークル活動などでストレス発散を図る方が得だと考える人がいても不思議ではありません。
 しかし、貰える年金の損得を考えるような余裕がなく、切羽詰って熟年離婚をしようとする妻から見れば、不十分とはいえ定期的に一定の収入があることは、 今後の生活設計の上では大いに心強いことです。離婚を切り出す前に、自分の場合はいくらぐらい貰えるのか、 厚生年金については社会保険庁で、公務員共済年金についてはそれぞれの省庁等の共済組合で、具体的な保険料の支払状況等をもとに、 分割年金を計算してもらうことをお勧めします。離婚して2年経つと、分割の請求ができなくなりますから注意してください。

第5 熟年離婚と財産分与
 財産分与の主な目的は、婚姻共同生活中に夫婦が共同して蓄積した財産を離婚に際して清算することです。 夫が外で働き、妻が家事をしてきたような場合、財産は夫名義にすることが多いでしょうが、夫が安心して働けたのは妻の内助の功があったからで、 その財産には妻に潜在的な持ち分があると考えられ、離婚の際には清算するのが公平です。 分与の対象となる財産は、夫婦で協力して得た財産です。特別の事情がなければ、財産形成に対する夫婦の寄与は、5分5分と考えられるようになってきています。 夫の今日あるのは妻の内助の功によるものと考えれば、将来の収入も対象財産となり得ます。 近い将来退職金を受け取ることが確実であれば、これも考慮に入れてよいのです。 また、ずっと専業主婦を続けてきた妻が、すぐに自立できる収入を得ることが困難であるような場合、財産分与には離婚後の扶養(生活保障)をする意味もあります。 その他、婚姻破綻に責任のある場合の慰謝料の意味が含まれることもあります。生活保障や慰謝料の意味を含めるのであれば、 婚姻前から持っていた財産なども対象になり得ます。 財産分与について話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の調停か審判を申し立てることになりますが、離婚後2年経つと請求できなくなりますから注意してください。

第6 熟年離婚を取り巻く状況
 年金分割制度がスタートしたとはいえ、年金だけでは暮らせないことは明白です。財産は、子どもの学資や自立の援助などで目減りしている上、 ベースアップが抑制されている時期の退職金では、期待するほどの財産分与は得られないかもしれません。
 資格や技術のある人は別として、専業主婦であった人が熟年離婚してから定職を探すことは、かなり難しいと思われます。 また、独居老婦人に貸してくれる家や部屋を探すのも難しいかもしれません。
 このような状況の中で、熟年離婚をするには相当厳しい覚悟が必要です。 もちろん、年金分割などがなくても、この厳しさを乗り越えて幸せな老後を獲得した人たちが沢山いるのも事実です。 しかし、切羽詰っていないのなら、今すぐに熟年離婚することは避け、夫との共生の手立てをもう一度考えてみてはどうでしょうか。 退職して会社の肩書きを失い、仲間を失い、給料も貰えなくなり、無力、孤独を感じざるをえなくなる夫の言動も少しは変わるかもしれません。 夫が家にいるのなら妻の方が外へ出て、これまで抑えてきた自分の生きがいや趣味など、楽しいことを実行に移してみたらどうでしょうか。
 子どもは、親の熟年離婚について、この期に及んで今更と反対する場合もあれば、これまでよく我慢してきたのだからこの機にと賛成する場合もあるでしょう。 しかし、老親は互いに助け合っていくものと思っていたのに、経済的に困窮しながら別々に暮らす2人の親の面倒を見させられる子どもにすれば、 何か釈然としないかもしれません。夫との関係が破綻し、その上子どもとの関係までも悪化しては、余りにも寂しい老後を送ることになりかねません。 ここは大いに熟慮してから決断してほしいものです。
 ただ、熟年離婚の唯一の救いは、幼い子どもが、どちらかの親と引き離される悲しみを経験しないですむことです。


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