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◆平成家族考 42


未成年の子どもを持つ夫婦の離婚においては、養育費と面会交流の取決めがいかに重要であるかを、本誌でも再三にわたって強調してきました。 離婚によって夫婦の関係は解消されても、親と子の関係は解消されるわけではなく、どちらの親にも子どもを養育し、幸せにする義務があります。 わたしたちが養育費と面会交流の重要性を強調するのは、いずれも子どもの福祉にとって欠かせないものであるだけなく、別れて暮らす親と子を結ぶ絆であり、 親子である証ともなるものだからです。

しかし、本誌第40号「協議離婚について考える」で触れているように、厚生労働省の平成15年度の全国母子世帯等調査によると、「養育費を受けたことがない」母親が、 協議離婚では72.6%に達し、調停離婚の31.3%を大きく上回っています。 協議離婚が離婚全体の9割を占めていることを考えると、子どもを引き取った母親の7割は、一人で子どもを養育監護している状況にあると思われます。 これでは、子どもを引き取った母親が、経済的に困窮し、生活保護に頼らざるをえないことにもなりかねません。

厚生労働省は、このような実情を踏まえて、母子家庭等自立支援の一環として、 平成19年度に各地方自治体の母子家庭等就業・自立支援センターに養育費専門相談員を配置することを決めました。 そして、これらの専門相談員のほか養育費の相談を行う人たちを対象に研修をし、難しい事例の相談に応じる養育費相談支援センターを東京に設置することにし、 それを当法人に委託しました。当法人の会員が、家庭裁判所調査官として養育費算定の実務経験を有し、 あるいは家事調停委員として養育費の調停の経験を有していることが評価された結果と思われます。

本号では、委託を受けて当法人が開設した養育費相談支援センターの仕事などについて紹介します。

第1 養育費とはどのようなものか

(1) 冒頭で未成年の子という言葉を使いましたが、正確にいえば、養育費の対象となるのは、未成熟子です。 未成熟子とは、成年に達しているかどうかではなく、子自身が自分で稼いでおらず、経済的・社会的に自立していない子のことをいいます。 したがって、まだ18歳であっても親の援助なしで自立している子は、未成熟子ではなく、20歳であっても学生や進学浪人をしている子は、 未成熟子として養育費の支払いの対象となることがあります。

未成熟子に対する親の扶養義務は、親の生活に余力がなくても自分と同等の生活を保障するという強い義務(生活保持義務)だとされています。

なお、養育費は夫婦が離婚した場合の問題ですが、離婚していないが別居している場合の子どもの生活費等は、 子どもと同居している親の生活費等も含めて婚姻費用分担として扱われ、夫婦の協議で話合いがつかないときは、 家庭裁判所に婚姻費用分担請求の調停又は審判の申立てを行うことになります。

(2)養育費の請求は、未成熟子が必要とする限りいつでもできますが、離婚の際に額や支払方法等を決めておくのがベストです。 子どもを引き取った母親の7割が養育費を受けたことがないというのは、離婚協議の中で取決めがなされていなかったり、 取決めがあったとしてもそれを確保する手続が執られていなかったりした結果だと思われます。話合いがつかないときは、 家庭裁判所に調停又は審判を申し立てます。養育費は子の日々の生活に当てるものですから、月決めで、例えば月末までに、 子の預貯金口座に振り込んで支払うというように取り決めます。支払い期間も成人に達する月までとか、大学を卒業する月までとか決めるのが多いようです。 支払いは長期間継続するので、子にも親にも状況の変化が起こって、一旦決めた養育費が実情に合わなくなることがあります。こういう場合、 話合いで変更することができますが、話合いがつかなければ、やはり家庭裁判所に申し立てることになります。

(3)養育費の算定については、平成15年に家庭裁判所の裁判官等からなる東京・大阪養育費等研究会が、 父母双方の総収入と基礎収入(総収入から公租公課、職業費及び特別経費を控除したもの)から簡易迅速に養育費の目安が分かる「算定法と算定表」を発表し、 一般に公開しました。家庭裁判所の実務ではこの使用が定着化し、それまでの諸費用を実額で算定する煩雑さから解放されました(「ふぁみりお」第32号で紹介)。

第2 養育費相談支援センターの開設

養育費相談支援センターは、当法人の本部がある東京池袋のサンシャイン60ビルの5階に、東京ファミリー相談室と並んで設置され、 去る10月1日から本格的な業務を開始しました。開業時間は月曜日〜土曜日の午前10時〜午後8時となっています。

第3 養育費相談支援センターの仕事

養育費相談支援センターの仕事は、大きく分けると、養育費相談支援事業、研修事業及び情報提供事業の三つとなります。

(1)養育費相談支援事業

この養育費相談支援センターは、本来は相談を支援するセンターです。つまり、一般の人たちから、養育費の相談を直接受けるセンターではなく、 養育費の相談に当たるために各地の母子家庭等就業・自立支援センター等に配置されている養育費専門相談員や母子自立支援員等が担当している相談を支援するセンターです。 つまり、各地の養育費専門相談員等が、自分の受けた相談内容が難しくて対応しきれないとか、疑問が生じたとかいう場合に、 養育費相談支援センターに電話などで相談・照会して、その助言指導を受けて、よりよい相談結果を引き出そうというものです。 したがって、一般の人が養育費について相談したいときは、先ず最寄りの母子家庭等就業・自立支援センター等に配置されている養育費専門相談員又はそれに代わる相談担当者に相談することになります。 しかし、専門相談員等が未だ配置されていない地域もありますので,養育費相談支援センターでは一般の人からの相談でも直接受けています。

第1の「養育費とはどのようなものか」で説明したことと重複しますが、予想される相談内容ごとに、助言・支援の内容を大雑把に述べておきましょう。

@ これから離婚しようとする人の相談であれば、養育費の支払いを確保するために、夫婦双方の年収等を基に算定表から一応の目処となる額を算出して見せて、 これを手がかりに夫婦で協議してもらいます。養育費だけではなく、離婚に際して決めておくべき事項も含めて、 合意した内容を公証役場で強制執行認諾条項を入れた公正証書に作成してもらっておくか、家庭裁判所の調停で合意して成立させておくことなどを助言することになります。 公正証書の作成には、数万円の費用がかかりますが、公証役場から各種費用の一覧表をもらってきておくとよいでしょう。調停・審判の費用は、連絡用の郵券の予納を含めても、 3千円程度です。あらかじめ、家庭裁判所から関係のある各種申立書をもらって備え付けておいて、場合によっては記載を手伝ってあげる必要もありましょう。

A 調停、審判、裁判又は和解、つまり家庭裁判所で養育費の支払いが決まっている場合は、家庭裁判所から相手に「決められたとおり履行するように」勧告する申し出ができます。 この履行勧告は、電話などで簡単にでき、費用もかかりません。履行勧告しても支払われず、公正証書で決めたのに支払われない場合は、 地方裁判所に強制執行を申し立てることができることを助言することになります。強制執行とは、支払い義務のある人の給与・預貯金、動産、不動産などを差し押さえてもらい、 換金できるものは換金して、支払われなかった分に充てる制度です。直接個人の財産を取り上げるのですから、手続も複雑で、制約もあります。また、給与の差押さえを受けて失職し、 無収入になるなどの例もあるので、相手の状況を見て実効性の高い方法をとるように助言しましょう。

B 母子家庭のお母さんからの相談で最も多いと思われるのは、養育費の取決めをしないで、あるいは口約束だけで協議離婚したが、養育費の支払いがなく、経済的に困窮しているとか、 生活保護に頼る前に子どもの父親から養育費をもらうようにと言われているという相談だと思われます。この場合は、 まず、相手の職業や年収など、養育費の算定に必要な基礎的な資料を集めてもらうことが必要になります。離婚した二人は、えてして顔も見たくないと反目し合っていることが多く、 資料の提供を求めても、今さらとんでもないと拒否されたり、ときには所在さえ分からなかったりと、難航することが予想されます。しかし、子どもの幸せのために、 あるいは子どもとの絆を取り戻すために是非と、相手を根気よく説得するように助言し、励ますことが必要です。相手が応じないときは、 家庭裁判所に養育費の調停・審判を申し立てるように助言することになります。相手の所在が分からないと、調停・審判も申し立てられませんので、 相手を探す方法などに智恵を貸してあげる必要があります。

C 養育費の支払いは長期にわたるものですから、その間に事情の変更が起こりがちです。 支払う方からは事業の失敗、失業などの事情で養育費の減額の相談、受ける方からは子どもの進学、重い病気などの事情で養育費の増額の相談等が予想されますが、 話合いがつかなければ、家庭裁判所に養育費額の変更の調停・審判を申し立てるように助言することになります。

D 養育費は、別れて暮らす子どもへの経済的支援ですが、それと同じように大事なものは精神的支援としての面会交流です。 面会交流は、どちらの親からも愛されたいという子どもたちの権利なのですが、養育費を支払う親にとっては、自分の子どもの成長ぶりを確認でき、 親子の情愛を深めることができ、親子の絆としての養育費の重要性を自覚させるものです。相談担当者は、養育費を受ける親に対し、 別れて暮らす親との面会交流が子どもの心の支えになり、成長の糧になることを説明しましょう。面会が無理な場合でも、送金をねぎらい、子どもの成長ぶり、 例えば、入園、卒園、入学、卒業など節目ふしめの写真などを送ることが、養育費を支払う親の意欲を高めることを助言しましょう。

E 養育費相談支援センターは、第一線で相談を担当する養育費専門相談員や母子自立支援員等の方々からの疑問・質問・照会・相談の電話や電子メールを待っています。 緊密な連携を取りながら、正当な理由もなく自分の子に対する扶養義務を果たそうとしない無責任な親を減らすことを目指して努力する覚悟です。 そして、養育費の支払いが別れて暮らす親と子との強い絆になることを実感させてあげたいと思います。

(2)研修事業

養育費相談支援センターの重要な事業の一つが、全国の母子家庭等就業・自立支援センターの養育費専門相談員のほか就業相談員、母子自立支援員、婦人相談員、 NPO法人等の養育費に関する相談を行う人などを対象に研修を実施することです。

@ 全国研修

全国各地で母子家庭のお母さんなどからの養育費の相談を、直接担当するのは養育費専門相談員や母子自立支援員等の方々ですが、 いずれも初めて本格的に養育費の問題に取り組むことになります。したがって、初年度の研修の中核は、養育費に関する基礎的知識の学習と算定表の使い方と留意点などです。

本年度の全国研修は、10月1日の本格的な開業を目指して、去る9月5日及び6日に盛岡市において約120人を対象に実施されました。

これからも実際に相談を担当する人のニーズを聴きながら、更に充実した研修を目指し、人材の養成に努めたいと思います。

A 地域研修

全国研修に参加できなかった地区などからの要請に応じて、養育費相談支援センターから講師を派遣するなどして、相談担当者の研修・指導を行います。 本年度はすでに、50箇所以上の地区からの要請が寄せられていますが、それぞれの地区にいる当法人の会員で、 かつて家庭裁判所調査官として養育費の算定の実務経験を持つ者たちの協力も得ながら、できるだけ要請に応じていきたいと考えています。 要望があれば、相談会への講師派遣も考えています。

B そのほか、日常的に電話や電子メールなどによる疑問・質問・相談等に真摯に応えていきます。

(3)情報提供事業

@ 養育費の問題については、毎回25,000部を全国に無料配布している本誌「ふぁみりお」でも再三にわたって取り上げ、当法人のホームページにおいても「ふぁみりお」が閲覧できるなど、 啓発活動に努めてきました。今後も本誌で随時取り上げていきたいと思っています。また、養育費に関するセミナーも開催していく予定です。

A 今回の養育費相談支援センターの開設を機に、専用のホームページを立ち上げました。そこには、養育費に関する情報はもとより、 養育費専門相談員等の研修に使用した教材などもできるだけ掲載して、充実したものにしていく予定です。ホームページは、このセンターの名前で検索すればご覧になれます。

B 養育費相談支援センターに関するパンフレットはもとより、随時広報活動・啓発活動のためのパンフレットや資料を作成して広く配布する予定です。

養育費相談支援センター
所在地 〒170-6005 東京都豊島区東池袋3-1-1
サンシャイン60ビル5階
ホームページ

http://www1.odn.ne.jp/fpic/youikuhi/index.html
養育費相談支援センターでも検索できます。

電話 03-3980-4108
FAX 03-6411-0854
メールアドレス fpic-youikuhi@work.odn.ne.jp
養育費専門相談員等からの電話での相談時間
月〜土曜日の午前10時から午後8時まで

【「ふぁみりお」42号の記事・その他】

エリオット・レイトン著 「親を殺した子供たち」 を読み返す 

海外トピックス42 アメリカの国による養育費徴収制度をめぐって ―父親の立場から―
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