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◆平成家族考 44


わが国は急速に高齢社会となり、援助を要する高齢者が増えてきました。 従来の後見制度は有産者の財産を守ることを主眼としていて多くのお年寄りにはあまり役に立たないものだったので、 平成12年に本人の意思の尊重、残存能力の活用およびノーマライゼーション(社会で普通の生活を送る)を理念とした新たな成年後見制度が発足しました。 これにより、法定後見等制度として、「成年後見」、「保佐」の類型(禁治産、準禁治産という差別的な用語の言換え)のほか、 それよりも障害の程度の軽い人のために制約の少ない「補助」の類型が設けられ、さらに、自分で誰に何を頼むか決められる任意後見制度が新設されました。 こうした配慮により成年後見制度の利用は飛躍的に伸びると予想されていたのですが、8年経っても利用件数の累計は全国で約12万件に止まっています。 平成17年の国勢調査によれば65歳以上の高齢者は約2567万人(全人口の約20%)でこのうち判断能力に問題のある人、 すなわち制度の対象になる人は約200万人いると推計されるので、利用する人の割合は極めて少ないことになります。 折角の制度がなぜあまり利用されないのか考えてみましょう。

利用のしにくさ

制度の利用が少ない要因の一つは身近にしっかりした親族がいれば不動産処分、保険金請求などで法定代理人が必要とされない限り、 本人の判断能力に問題があっても大抵のことは何とかなることが挙げられます。

本人の判断能力が衰えてきて財産管理がきちんとできなくなったり、介護契約や施設入所契約などしなければならなくなったりしたとき、 身寄りがいない、いても疎遠だとか財産や介護で争っていて誰も頼りにならないような場合には法定後見制度を利用することが必要になります。 しかし、家庭裁判所に後見等開始の申立てができるのは原則として四親等内の親族に限られています。市区町村長も申し立てることは可能ですが、 その場合でも申し立てることが可能な四親等内の親族を戸籍をたどって探し出し申立てを依頼することが多く、大変な手間と時間がかかります。 また、後見人等になってもらえそうな信頼できる親族や知人を見つけるのも困難です。

任意後見制度では、本人の判断能力がしっかりしているうちに信頼できる人を受任者として、 判断能力が衰えたときに何を頼むか決めて公正証書により契約を結んでおきます。 実際に判断能力が衰えたとき家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらうと契約が効力を生じ、受任者は任意後見人となります。 これは自分でだれに何を頼むか決められるので高齢者の自立性を尊重する画期的な制度と思われるのですが、 契約する習慣にまだ馴染みが薄いわが国では利用者は少数です。 また、制度が施行されてから次に述べるような欠陥があることが分かってきて広く普及させるには躊躇される状況です。

法定後見制度にひそむ危険性

法定後見制度では、各類型によって後見人、保佐人、補助人の権限は法律で決められるか、または法律の範囲内で裁判所によって決められます。 後見類型では、後見人の代理権の範囲は極めて広く、居住用の家屋の処分(裁判所の許可を要する)以外のことは実際問題として本人と同様何でもできるのが実情です。 もとより後見人は本人の利益保護の義務を負っていて本人の不利になることはすべきでないのは当然ですが、生身の人間ですから、 だんだん自他の財産の区別がつかなくなったり、最初は善意でも何でもできることに味をしめると本人の財産を使い込んだりする危険性があります。 とくに子や身近な親族が後見人である場合、家族は一体であるという意識も手伝ってそれほど悪意がなくても被後見人の財産・収入を自分やその家族に流用してしまうことがよくあります。

任意後見制度にひそむ危険性

この制度では本人の判断能力が衰えると任意後見監督人の選任を請求し、 家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると初めて任意後見受任者が任意後見人となって代理権をえることになっています。 しかし、任意後見監督人の選任を請求すべき時期がきたことをだれが判定するのか、 その時期がきたとして請求権者(本人、配偶者、四親等内の親族、そして最後に任意後見受任者)に請求する義務があるのかについて法律には規定がありません。 任意後見契約には、実際に判断能力が衰えたときに効力を生じる将来型、それに加えて任意後見受任者に特定の事項について委任し代理権を付与しておく移行型、 任意後見契約締結と同時に効力を生じる即効型という三類型があります。 直ちに後見監督人が選任される即効型は別として、将来型と移行型では本人の判断能力が衰えても請求がされず、 したがって監督人がいないという事態が生じる恐れがあります。 移行型では判断能力がある本人が委任している、つまり本人が受任者の行為をチェックするという建前ですが、本人の判断能力は徐々に衰えることが多いし、 「親切に」面倒をみたり話し相手になったりしてくれる受任者を信頼しきってチェックしないこともありえます。 将来型でも任意後見受任者であるとして取引の相手を信用させ勝手なことをする危険性があります。 任意後見、法定後見を問わず、後見人等が不要なリフォーム契約を結び損害を負わされた事例、後見人等が本人の意思であるとして贈与を受けた事例など不祥事は跡を絶たず、 マスコミでも度々報じられています。

後見監督体制の強化

後見人等の不当な行為を防ぎ本人の利益を守るために後見監督制度があります。 法定後見には後見、保佐、補助の三類型があり、後見人、保佐人、補助人にそれぞれ監督人をつけることが可能ですが、 主として問題になるのは権限の大きい後見人に対する監督です。

明治民法のもとでは後見人が不当な行為をしないよう後見監督人のほかに親族会が目を光らせていたのですが、 戦後の民法改正で家制度が廃止されたことに伴い親族会はなくなり、後見監督人も必置機関ではなくなり、主として家庭裁判所が監督の責任を負うことになりました。 成年後見制度発足のため民法の一部が改正された際、国会では、「この制度における家庭裁判所の役割は極めて重要であり・・・体制の整備に努めること、 成年後見人等の選任後・・・監督の充実・強化に努めること」という趣旨の附帯決議をしています。実際に制度の運用に当たっては膨大な人的、物的な手当てが必要ですが、 各家庭裁判所はできる限りの体制を整えて対処しています。

後見監督の無力さ

家庭裁判所は親族と違い、すべてのケースに常時目を光らしているわけにはいきません。 先に述べたように制度自体に内在する危険性もあり、理想的な後見人等をえることは難しく、 問題が起こる可能性があっても次善の者を選任せざるをえないことがあります。 そこで裁判所は問題がありそうなケースでは(多くは職権で)後見監督人を選任します。 家庭裁判所または後見監督人は、定期的に後見人に報告を求め不当行為の有無を審査します。 監督人はその結果を裁判所に報告し、その監督を受けます。つまり裁判所は後見監督人を監督することで間接的に後見人を監督することになります。

後見人が使い込みを巧妙に隠蔽するとこれを見抜くことは容易ではありません。 お金を着服して費消してしまった場合返却させること、不動産を売り飛ばしてしまった場合取り戻すことなどはさらに困難です。 監督人が是正を求めてもなかなか効果が上がらず、裁判所に相談することがあります。 裁判所は後見人に指示することができますが、これにも強制力がありません。 後見人が不適格であるとして解任することもできますが、それよりましな後見人を見つけられる保証はありません。 裁判所は年齢などに一律にとらわれず真にふさわしい者を選任するとともにペーパーワークだけでなく関係者にきめ細かく対応するなど血の通った監督をすることが望まれます。

後見監督人には強制力はおろか裁判所のような権威もないので、後見人に粘り強く働きかけ信頼関係を築き不当な行為を防止するほか方法はありません。

経費と報酬

後見人等が本人(被後見人等)のために金融機関に行ったり、介護・医療契約などの事項を行ったりする場合には交通費その他の経費がかかります。 経費は本人の負担となります。

家庭裁判所は法定後見人等・後見等監督人が報酬付与の申請をすれば報酬額を決定し本人の財産の中から付与するとの審判をします。 弁護士、司法書士、社会福祉士等専門職が業務として後見人等・後見等監督人を行っている場合には相応な報酬が支払われることは当然です。 裁判所は後見人等が親族である場合には扶養義務の範囲内として報酬を認めないことが多いようです。 しかしケースによってはかなり手間がかかり、後見人等が労力と時間を提供しなければならないことがあるのは事実です。 こうした場合親族の働きは一律に無償というのはおかしいという考えもあります。

後に述べる市民後見人等の場合にはボランティアだから報酬はいらないという考え方もありえるし、 人材確保と長続きのために低廉でも報酬を考慮するべきだという説もあります。

任意後見の場合には、任意後見人の報酬はあらかじめ契約で決めておくことが普通です。

法定後見でも任意後見でも後見等監督人に対する報酬は裁判所の審判に基づき後見人等が本人の財産から支払うことになります。 法定後見で監督人が職権で選任された場合、後見人等は頼みもしないのに監督人を付けられた、 仮に監督が必要だとしても本来裁判所がすべきことだから監督人の報酬を本人の負担とするのはおかしいなどの不満を持ち、 裁判所が報酬額決定の審判をしてもなかなか支払わないことがあります。

裁判所が報酬額を決定する場合、業務の内容、本人の財産状況などにより一律に決められないのは当然ですが、 似たようなケースでもばらつきが生じることがあり関係者の不安や不満のもとになっています。 透明性を保ち関係者に不安や不満を抱かせないために何らかの基準を作りかつこれを公表することが望ましいという考え方があります。

市民後見人等を依頼する場合でも経費はかかります。 ケースによっては報酬が当然必要な専門職に頼まなければならないこともあります。 これらの負担にたえない者が必要な援助を受けられないのでは困ります。 自治体によっては報酬の助成制度がありますが、適用を受けられるのは首長申立てのケースに限るなどごく狭い範囲に過ぎません。 先に掲げた国会の附帯決議には政府の後見等による事務費の負担の必要性が謳われていますが、 それだけでなく資産・収入の乏しい本人のために国として報酬の助成も考慮すべきであると思われます。

後見人等候補者の養成

この制度の利用が伸びない大きな要因の一つに、後見人等・後見等監督人として適当な人を見出すのが困難なことが挙げられます。 弁護士、司法書士など法律専門家に頼めば相当な報酬を支払わなければならず、資力の乏しい本人にとっては大きな負担になります。 また、法律専門家は財産管理や訴訟事務などには精通しているでしょうが、日常的な接触が十分でないと本人の真意を推し量って対応することは難しいかもしれません。 後見等のケースでは本人とじっくり向き合いその真のニーズを把握し、本人のためにどうすればよいかを考えることが大切です。 これにより医療・介護のあり方も決まってきます。こうした対応は人生経験が豊富で余裕のある人に向いています。 第一線の仕事を引退しても元気な人、子どもの手が離れ余力のある主婦などで高齢者の問題で社会貢献をしたい、そして自分自身の老後をも考えたいと希望する人がいます。 こうした意欲があり、人格円満な人たちが、いわゆる市民後見人等の候補者になり、家庭裁判所の要請によりボランティア的に、 または低廉な費用で後見人等になるというシステムを整えることが望まれます。そのためには法律、心理学、社会福祉などの基本的な知識を身につけることが必要で、 現にこうした目的で自治体や各種の団体が主催する勉強会などが発足しています。 国会の附帯決議にも「政府は、・・・後見人等の研修など、後見制度がより有効に機能するように実施体制の整備に努めること」と謳われています。

後見人等の水準と倫理

市民後見人等が適正に職務を遂行し高齢者等の信頼に応えるためには、 人格と知識が後見人等候補者としてふさわしい一定の水準に達していると客観的に認定されることが必要です。 また、専門職であると一般市民であるとを問わず、後見人等は不正なことをしないという職業倫理を厳守すること、これを保証するために監督を受けることが必要です。 すなわちこうした業務を行う機関(社団法人、NPO法人など)があり、候補者はこれに所属し、認定と監督を受けるべきであると考えます。


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