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わが国で平成18年に親の離婚に直面した子どもたちは25万人を超えています。 両親が離婚した後の子の生活、子と両親との関係はどうなるのか、子どもたちにとってはもちろん、社会にとっても大きな問題となっています。 近年、わが国でも離婚後の両親と子の関係のあり方として共同親権(米国では共同監護)の論議が盛んに行われるようになってきました。 米国では1957年ノースカロライナ州で共同監護が法制化されて以来今や全米的に実施されるようになり、共同監護下の子の生活実態に関して多くの調査研究が重ねられてきました。 2006年、離婚の原因と結果に関する研究の一環として、それらの業績を集大成した論考 (Alison Clarke-Stewart & Cornelia Brentano: divorce, causes and consequences, Yale University Press 2006)が出版されました。 その要旨を紹介し、わが国で共同親権を考える際の参考にしていただきたいと思います。

米国各州の共同監護法

米国で最初に共同監護法を制定したのは1957年ノースカロライナ州でしたが、法制化が他の州に普及するまでには約20年を要しました。 共同監護がとくに注目を浴びるようになったのはここ20年のことで、現在ではすべての州が何らかの形で認めています。 そのあり方はさまざまで、子の最善の利益に反しない限り共同監護を優先する州(ワシントンD.C.、フロリダ州など11州)、 父母の同意があれば共同監護を優先する州(カリフォルニア州、アラバマ州など12州)、共同監護採用の基準は明らかにしていないが制度を認めている州があります。

共同監護がこのように普及してきた要因をサイコロジストは次のように指摘しています。 @子は父母離婚後も父母双方と関係を持ち続けることで安定すること、同時に父母は監護を共同にすることによって各自の重荷を軽減し満足感が高まること、 A父の子育ての権利に関する父母平等への主張が高まってきたこと、B裁判官が「子の最善の利益」という基準だけで父母のいずれを監護者とすべきか判断するのは困難なこと。 これらの問題の解決策が共同監護ということです。

共同監護における子の養育分担の実態

共同監護の名の下で親は実際に子に平等に関わり、養育を分担しているでしょうか。 実態は子が父母と過ごす時間配分は様々で、実際の生活面では単独監護で面会交流(面接交渉)を実施している場合と大差ないこともあります。 父母が等しく時間配分している場合でも互いに協力し合って子育てしているとは限らず、多くの場合各々の方針で独自に子育てをしています。 共同監護では父母の離婚後も子が双方との関係を持ち続けること、かつ父母双方が協力して子育てすることを目標としていますが、 これに沿った方法は必ずしも実行されていないことになります。

また、時の経過とともに子が成長し、父母の生活も転居、失業、再婚等により変わり、共同監護が困難になることがあります。 自分たちで監護方法を変えても裁判所に報告しないことが多いので、監護に関する統計には正確な数字は表れてきません。 離婚時に取り決められた共同監護の形は変わってくるので、父母が各々二分の一に近い配分で監護を実施している家族の割合は全体の約10%に過ぎないと推定されています。

共同監護の利点

共同監護による子育てにはどのような利点があるのでしょうか。 まず、子は父母の離婚後も別居した親との接触を保てるため親を失ったという悲しみを和らげることができます。 同様に親も子を失う喪失感が軽減され、離婚後の家族環境の変化が原因となって起こるストレスを軽くすることができます。 共同監護によって子だけでなく親も深い満足を得ることができることになります。

ただし、これは父母が合意によって共同監護を選択した場合のことです。 自分たちが納得して決定した場合には親は積極的に子育てに参加し、他方の親の子育てにも協力的で、子も新しい環境に適応しやすいことが明らかにされています。 こうした共同監護の子は単独監護の子より行動面、感情面で問題が少なく、学校の成績、家族関係も良好であるという結果が得られています。

このようなケースでは父母は離婚以前にも相互関係は良好で協力的であり、離婚後も紛争が少ないことが分かっています。 子の良好な適応は共同監護が原因であるというより、父母が協調して共同監護を選択し、子育てに協力して参加した結果もたらされたといえるでしょう。 共同監護がよく機能している場合には、また紛争が起こって訴訟に持ち込まれる率は低いといわれています。 しかし、これも父母が合意によって共同監護を選択した場合のことで、裁判所の決定によって共同監護を実施している場合はこの限りではありません。

共同監護の問題点

共同監護にもいろいろ難点があります。 @父母が転職や再婚など種々な理由で転居せざるを得ない場合、子は監護、面接を巡る父母の争いの渦中に巻き込まれることがあります。 これはリロケーション事件と呼ばれ、とくにモビリティーの大きい米国で頻発して裁判所も悩まされています(「ふぁみりお」第39号の海外トピックで紹介)。 A子が父と母の家庭を頻繁に行き来しなければならないとすると、子は各々の家庭の異なる習慣、各々の親の期待、経済的事情の違いなどに適応しなければならず、 混乱して精神的に不安定になることがあります。 とくに紛争性の高い父母の場合には子は常に父母の争いにさらされるのでなおさら大変です。 B父母は別れたにもかかわらず共同監護によって離婚後も関係を続けることを余儀なくされます。 父母にとって子は「かすがい」でなく、辛い「くびき」になることがあるでしょう。 共同監護で母が子を引き取っている場合、父にも法的監護権があるので、母は子に関する重要な事柄の決定に父の同意を得る必要があり、 別れた父や裁判所に依存しなければならず、母の役割は日常の子育てに限られてしまう傾向が指摘されています。

監護形態の変化とその対応

監護形態を2年間追跡調査した最近の調査の結果によれば、2年間に共同監護の約半数は形態を変え単独監護に移る傾向が認められました。 とくに幼い子と女の子に変更が多く、多くの場合女の子は父から母への監護に移っています。

また、別の調査によっても、年長の子の約三分の一は親の離婚後4年間に父母間を移動し二つの家を往来する生活から一つの家(多くは母の家)に移っています。 生活の安定を求めた結果と思われます。

本書の結論

共同監護のもとで父母が離婚後も子育てに関しては友好的な関係を保ち協調して子育てに関与する、 こうして父母双方からの愛情を受けた子は多くの場合健全な成長を遂げることができます。 他方、父母が離婚時の憎しみを持ち続け争い続けると子は父母の争いに巻き込まれ混乱し不安定になります。 父母が憎しみの感情を乗り越えて子のために協調して責任を果たすとき、共同監護はその真価を発揮し親と子の双方にとって種々の利点をもたらします。 また、時の経過とともに変わる子のニーズ、親の失業、再婚などの生活環境の変化に対応して監護方法を変えていく柔軟性が求められます。

すべてのケースには独自性があり、父、母、子のニーズも環境もさまざまです。 したがって、父の監護がよいか、母の監護がよいか、共同監護がよいか、それぞれの監護はどうあるべきかについては、 すべてに通じる最良の形態というものはないということが研究の結論です。

わが国では

 明治民法では子は家のもの、つまり大部分のケースで家の戸主である父のものであり、父が親権者です。 戦後の家族法改正で男女平等の建前から婚姻中は父母共同親権、離婚に際しては父母のいずれかが親権者になると改められました。 多くの国では子に対する親の義務が強調され、親権という言葉も監護という意味の言葉に変えられ、離婚後の共同監護、親子の交流などが規定されてきましたが、 わが国の法制は何も変わらず非親権者との交流についての規定もいまだにありません。 最近子の健全な成長のために、また近年増加している離婚時の親権を巡る争いや非親権者との交流の争いを解決するために、共同親権を認めるべきだという声も大きくなってきました。 米国の共同監護の実情は親の離婚後も子が健全に成長するためには父母が協力して子育てに関わっていくことが大切であることを示しています。

すべての法の効果と同様、共同親権を法制化するだけでは問題は解決せず、まず父母自身が親としての責任を果たす、つまり「親業」を理解し実行することが求められます。 このために、わが国でも親のあり方を研究し指針を示す「親学」と子の監護に関して父母を援助する専門家(ペアレンティング・コーディネーターなど) の存在が必要になってくるのではないでしょうか(「ふぁみりお」第35号の海外トピックスで紹介)



【「ふぁみりお」44号の記事・その他】

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