1 漠然とした不安
A子さんは、2年前に夫に先立たれ子どももいず、その後はずっと独り暮らしをしています。
ほとんど外出をしないので、一日中誰とも話をしないことが多く、最近夜寝ていると心細くて世の中から取り残されたような気がしてきて不安でたまらない、
眠れないので毎日頭が重く疲労感が抜けない、医者に行っても特に悪いところはないと言われた。市役所でFPICのパンフレットを見て思い切って相談室を訪れたとのことです。
何度かA子さんと面接を重ねましたが、A子さんは今まで誰にも自分の気持ちをゆっくり聞いてもらったことがなかったと言います。
若い頃のことを振り返って話し続けた中で、手芸が得意でいろいろなものを作って皆に喜ばれたことなどを語り、久しぶりにまた始めてみようと思うと言い出しました。
何回目かの面接の時に、市内にある手芸サークルに行くようになり、気心の知れた友達ができたとの報告がありました。
当初のうちの沈んだ表情とは比べられないほど明るくなっていました。
A子さんのように、漠然とした不安や焦燥を訴え何を相談したいのかも分らないという中高年の人が増えています。
独り暮らしの高齢者が増え、情報が溢れている世の中なのに、人間関係が希薄になって身近に話をする人もなく近隣との交流もないまま孤立した生活を送っていて、
相談室を訪れて初めて話を聞いてもらえたと言います。相談担当者は悩みや不安を理解し、問題解決に踏み出す力を引き出し、行動できるように支え見守ります。
2 家族が引きこもっている
B子さんは、高校生の長男が当初は学校に行ったり行かなかったりだったのが、この1年半は全く行かなくなってしまった、
このままの状態でずっと引きこもってしまうのではないかと思うと不安でたまらない。長男はイライラすると母親に暴力をふるうこともあり、
気が休まる時がないと言うのです。父親は、長男はやる気がなく怠けているのだからほっとけと言うばかりで、相談にものってくれないとのことでした。
相談担当者は、B子さんの心配をじっくり聞きました。そして、登校したくても登校できない子どもの心理状態について理解を深めること、
登校できるかということばかりにとらわれず、社会性を成長させるような幅広い経験をさせること、不登校の子をサポートする機関がたくさんあるという情報も伝え、
いろいろな選択肢があるのだから焦らず子の成長を待つようになど、その対応の仕方について助言をしました。
FPICは電話での相談も受けています。平成9年から、当初は「女性のための電話相談」として週2回相談を受けてきました。
現在は、女性だけでなく全国のあらゆる年代の人から毎年約500件の電話相談を受けています。
電話相談は、近くに相談機関がなくても思い立った時に家にいながら相談できる、匿名なので
気軽に電話できる、相談料がかからない、などその利便性、匿名性から面接相談とは違った利用のされ方をしています。
高齢の親から、成人した子が何年も引きこもっていてこのままの状態では自分がいなくなった後のことがとても心配と、
いつまでも自立しない子の行く末を案じて子に隠れて電話をしてきます。
姑の介護を7年も続けている、老々介護で疲れ果てている、介護をめぐって親族間で激しい紛争になっているなど、
一人で介護しながらその合間に切羽詰まって電話をしてきていることがうかがえます。
また、若い母親から子どもを可愛がれなくて虐待してしまいそう、育児が辛いという電話もあります。
いずれのケースも家庭の中だけで問題を抱え込み、出口を見つけられない状態にいます。いわば家族全体が引きこもり状態になっています。
相談担当者と話をしているうちに、気持ちが落ち着き、問題が整理され、助言されたいくつかの選択肢から解決の糸口が見つかる場合があります。
相談することにより、家庭が外部と繋がって種々の情報を得ることが解決につながります。行政や民間の支援している機関の情報を聞いて、
それを利用するだけで困難さが軽減できる場合もあります。何よりも大事なのは一人で問題を抱え込まないことなのです。
電話相談は早めに専門家に相談できる有効な手段として定着しています。
3 自分らしく生きたい
70代の妻のC子さんは、80代の夫の長年のワンマンぶりに我慢してきたが、これ以上耐えられないので離婚して一人で生活したい、
残された人生を思うと今がその最後のチャンスだと思うと話し出しました。
熟年夫婦の離婚は、夫婦の長い歴史があり経済的にも難しい問題があります。住居の問題や、年金が二人で暮らしても十分でない場合が多く、
たとえ年金分割をしても独立して暮らすのは厳しい状況がありますので、経済的なめどを慎重に立てることが大切です。
離婚後心身ともに不調になってしまったという相談もあります。一人になってどのように暮らすかをあらかじめイメージし、精神的に自立するのも大事なことです。
また、お互いの考え方のずれを認識し合って解決できる場合は、夫婦同席の相談も実施しています。
協議離婚で決めるべきことについては、「ふぁみりお」第40号で取り上げましたが、取り決めることが難しい場合には調停などできちんと決めるべきでしょう。
4 老後の備え
最近は、平成12年に制定された成年後見制度についての関心が高まっています。
高齢者自身が自分の判断力が衰えた場合に備えて、あらかじめ信頼できる人を受任者として任意後見制度を利用したいが、誰に頼めば良いか、
どんな手続きでするのか、という相談が増えています。
また、親の判断力がなくなって来たので後見人をつけたいが、どんな場合に成年後見人をつけなければならないのか、成年後見人とは何をするのか、
後見制度を利用するとしたらどんな手続きがいるのか、などの知識を求めて来室します。後見人になる予定の人には、
財産管理と身上監護の両面から被後見人の立場にたって職務を遂行する大切さを伝えています。
5 離婚と子ども(面会交流)
FPICでは、離婚後の親子の絆を結ぶ両輪として、面会交流と養育費の問題を取り上げてきました。
図1のように平成20年度には離婚後の子をめぐる相談がついに夫婦の相談より多くなりました。そのほとんどが面会交流の相談です。
「元妻は離婚後は子に会わせると言っていたのに離婚したら拒否している」、「DVが原因で離婚したのに元夫から子に会わせるよう迫られている」、
「今調停中であるが、妻がFPICの援助を受けるなら面会交流に応じると言っている」などの相談が寄せられています。
FPICでは子どもにとってはどちらの親も親であり、離婚しても、たとえ親に欠点があっても、子どもにとってはかけがいのない親である、
離婚によって子どもが一方の親との絆を断たれることがないようにという立場から、子の福祉を害さない限り、両親だけでは交流ができない親子の交流の援助をしてきました。
図2のように援助数が年々増加しています。平成20年度は面会交流の新受件数104件、1年間に援助した件数は196件に達しました。
相談者には、FPICが実施している面会交流援助について説明し、面会交流の重要さについて理解を深めてもらいます。
相談者は離婚を考えている、調停中、訴訟中などいろいろな時期に来室しますが、援助を受けたい人は必ず事前面接を受けることとし、
FPICの援助の方法、面会交流の取りきめの仕方などを理解した上でルールを守って援助を受けることになります。
父、母の双方と、必要な場合は子どもにも事前面接をしています。
面接相談内容の変化(図1) |
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面会交流援助件数(図2) |
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6 離婚と子ども(養育費)
FPICは、平成19年10月に厚生労働省の委託を受け、養育費相談支援センターを開設しました。
支援センターの仕事は電話やメールによる相談、全国の地方自治体の専門相談員の研修、情報提供などですが、
本号では開設当初より全国から多数寄せられている相談について紹介します。
養育費の相談件数
年度(平成) | H19.10〜H20.3 | H20.4〜H.21.3 |
電話相談(件) | 1,116 | 2,271 |
メール(件) | 424 | 922 |
合 計 | 1,540 | 3,193 |
相談内容は、離婚を考えた時の養育費の取り決め方、公正証書の作成、調停の申立ての仕方、養育費の支払の不履行に対する方策(履行勧告、間接強制、直接強制)、
義務者の住所が分からないときの探し方など手続きのこと、また、養育費の妥当な金額を聞きたい、現在の厳しい経済状況を反映して養育費を約束どおり払えなくなり
減額したいという、金額の相談も増えています。
養育費の問題は、知識があれば解決できることも多いので、養育費確保の方法についての情報を提供しています。
標準的な金額については支援センターのホームページ(養育費相談支援センターで検索)で閲覧できます。
養育費は離婚後も子に対して経済的な責任を果たすことであり、子はそのことにより親子の絆を確かめることができます。
履行を確保させるためには、同居している親が別れて暮らす親との関係を良くする努力をして、別居親の養育費を支払う意欲を高めることです。
子の近況を伝えたり、子からのメッセージを取りもったり、別れて暮らす親との子の関係を密にし、維持することが大切です。
7 まとめ
FPICには、図1のように、世相を反映した種々の相談が寄せられています。そしていずれのケースにも言えることですが、
問題が深刻化する前に周りの人や専門家に相談することをお勧めします。
また、この5年間に相談が急増した離婚と子どもの問題については、今後も子のいる離婚が増え続けることが予想されます。
離婚後の親子の絆を結んでいるのは面会交流と養育費です。
年々増加する面会交流援助に対する要望、養育費相談支援センターの開設と同時に多数の相談が寄せられたことなどにより、
援助や相談の受け皿のあることがいかに重要であるかと実感しています。
養育費相談支援センターは、広報活動にも力を入れており、地方自治体などを通しても広く情報の提供をしています。
面会交流の援助には、子どものためにという情熱と難しい調整をする技量が必要です。FPICは、もっと多くの機関が面会交流の援助をすることができるよう、
積み重ねてきた面会交流の経験を広く提供し、どんなところに住んでいる子どもたちも、別れて暮らす親との面会交流ができるようになることを願っています。
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